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キスの後
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朝、目が覚めるとだらだらと着替え始めた。昨夜の出来事は正気の沙汰じゃない。このままいたら何されるか分かったものじゃない。
リビングに行くとかすかにフィルターコーヒーの香りが漂っていた。フローリングの床で滑りそうになってよろける。白い受話器をとると、東京の実家に電話をかけた。
「おばあちゃん、私、今から帰るから」
両手で受話器を握りしめながら言った。
「信男とけんかでもしたのかい?」
「けんかじゃないけど、いづらくなって……」
「信男の仕事を手伝うって言い出したのはさやかだよ。自分で言い出しといて二週間ぽっちで放り出すなん無責任じゃないかね」
祖母にきつく叱られた。本当のこと言ってしまえたらな。でもキスのことは言えない。自分の息子と孫がキスしたなんて知ったら、祖母はショックで倒れてしまうかも。
そう、二ヶ月前だった、ゴールデンウィークに祖母と叔父さまを訪ねた。離婚の後、叔父さまは世田谷から長野に移り住んでいた。林の中にある大きな家はドイツのおとぎ話にでてきそうな可愛らしい建物だった。ペンションだったらしく八部屋もあった。叔父さまは夏の間にリフォームを済ませ、秋には営業を開始するとプランを語った。三人で清里北沢美術館や芸術村にも足を伸ばした。自然と芸術の共存する高原に恋をした。私は頼んだ。
「よかったら、夏休みの間、お手伝いさせて下さい」
二ヶ月以上もある夏休みを加齢臭のむせ返る中野の家で過ごすのはこりごりだった。ペンションリニューアル手伝いを名目に居候すれば絵が思う存分描ける。夏季休暇の間に作品のポートフォリオを製作できる。美術館やアトリエめぐりもできる。
叔父さまは嬉しそうに微笑み言った。
「ぜひ来てください」
ああ、あの時あんなこと私が提案しなければこんなことにならなかったんだ。
「さやかには内緒にしておいてくれって信男には言われてるんだけど、信男はね、大学の入学品と授業料を払ってくれたんだよ」
初年度納入金は百万を超えていたと思う。年金暮らしの祖母がどうやって工面したのか不思議に思ったぐらいだ。
「そのことを恩に着て夏休みの間だけでも信男の手伝いをしてやったらどうかね」
私は黙っていた。何を言っていいのか分からなかったからだ。
「それじゃね。信男のことを頼むよ」
祖母は電話を切った。
受話器を置くと私はソファーの上に倒れこんだ。慈悲深い叔父さまの心を垣間見てしまった。
でも、ここにいたらまたキスされるかも……いやそれ以上もことも。駄目だよ。そんなの。
でも美大の入学金を払ってくれたのは叔父さま。感激して胸が熱くなった。
リビングに行くとかすかにフィルターコーヒーの香りが漂っていた。フローリングの床で滑りそうになってよろける。白い受話器をとると、東京の実家に電話をかけた。
「おばあちゃん、私、今から帰るから」
両手で受話器を握りしめながら言った。
「信男とけんかでもしたのかい?」
「けんかじゃないけど、いづらくなって……」
「信男の仕事を手伝うって言い出したのはさやかだよ。自分で言い出しといて二週間ぽっちで放り出すなん無責任じゃないかね」
祖母にきつく叱られた。本当のこと言ってしまえたらな。でもキスのことは言えない。自分の息子と孫がキスしたなんて知ったら、祖母はショックで倒れてしまうかも。
そう、二ヶ月前だった、ゴールデンウィークに祖母と叔父さまを訪ねた。離婚の後、叔父さまは世田谷から長野に移り住んでいた。林の中にある大きな家はドイツのおとぎ話にでてきそうな可愛らしい建物だった。ペンションだったらしく八部屋もあった。叔父さまは夏の間にリフォームを済ませ、秋には営業を開始するとプランを語った。三人で清里北沢美術館や芸術村にも足を伸ばした。自然と芸術の共存する高原に恋をした。私は頼んだ。
「よかったら、夏休みの間、お手伝いさせて下さい」
二ヶ月以上もある夏休みを加齢臭のむせ返る中野の家で過ごすのはこりごりだった。ペンションリニューアル手伝いを名目に居候すれば絵が思う存分描ける。夏季休暇の間に作品のポートフォリオを製作できる。美術館やアトリエめぐりもできる。
叔父さまは嬉しそうに微笑み言った。
「ぜひ来てください」
ああ、あの時あんなこと私が提案しなければこんなことにならなかったんだ。
「さやかには内緒にしておいてくれって信男には言われてるんだけど、信男はね、大学の入学品と授業料を払ってくれたんだよ」
初年度納入金は百万を超えていたと思う。年金暮らしの祖母がどうやって工面したのか不思議に思ったぐらいだ。
「そのことを恩に着て夏休みの間だけでも信男の手伝いをしてやったらどうかね」
私は黙っていた。何を言っていいのか分からなかったからだ。
「それじゃね。信男のことを頼むよ」
祖母は電話を切った。
受話器を置くと私はソファーの上に倒れこんだ。慈悲深い叔父さまの心を垣間見てしまった。
でも、ここにいたらまたキスされるかも……いやそれ以上もことも。駄目だよ。そんなの。
でも美大の入学金を払ってくれたのは叔父さま。感激して胸が熱くなった。
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