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試験編
第七十話 第一試験終了
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その異様な目に言葉を失った焔。だが、しばらくすると我に返ったのか、再び挨拶を交わそうと試みる。
「や、やあ! 俺、青蓮寺焔って言うんだ! よ、よろしく頼むわ!」
先ほどとは打って変わり、今度は明るく接触を試みる焔。初対面で悪い印象を与えないという意味もあったが、この明るく振る舞った意味はその何一つ感情の通っていないような目、表情に恐怖を感じていたからに他ならないのだった。
だが、そんな焔を全く存在していないかのように少女は顔色を変えず、何かを見ているのか、いや、全く何も見ていないかのように前を見ていた。
「あ、あれか! 日本語分からないのか! そうだよな。どう見ても日本人じゃないもんな! ハロー! マイネームイズ、ホムラショウレンジ! ナイストゥミ―チュー!」
「……」
差し出した手を焔はそっと自分の元へ返す。
え? どういう事? 英語が母国語じゃないの? いや、母国語じゃなくても普通何かリアクションしてくれるよな……もしかして、耳が聞こえないのか!? だとしたらしょうがないな……
「彼女、耳は聞こえますし、英語は母国語です。なんなら、ここではどんな言語の人でも対等に話すことが出来ますよ」
「え、マジで? だったら何で……は?」
「……何か?」
「AI、どうして俺が心の中で思ったことをお前が知ってるんだ……」
「ここでは、言葉に発さずとも、心の中で考えたことなどは全て筒抜けですので。なにせ、電脳世界ですから」
「……それ先に言っといてくれよ。というか、どんな言葉話す人とでも喋れるってマジかよ!?」
「……小声でしゃべらずとも心の中で念じてもらえれば、会話はできますよ」
「あ、そっか……そんじゃ」
もう一度確認だが、本当にどんな言語のやつとでも喋ることが出来るのか?
「はい、可能です」
そんで、あの子は耳が聞こえないわけでもないと。
「その通りです」
……なら、なんで何のリアクションもないんだ。それに、あの目は……
「世界には色々な人がいるんですよ」
色々な人ね……
「おそらく焔さんが何度話しかけても反応することはないと思いますが……どうしますか?」
どうしますか……か。
焔は少しの間、自分の中で自問自答すると、フッと笑った。すると、少女と対面するように腰を掛け、また気丈に振る舞いだした。
「なあ、あんたどこの生まれなんだ?」
「……」
「名前は?」
「……」
「身長は?」
「……」
「俺の身長は157㎝なんだよ。小っちゃいだろ? 毎日毎日牛乳飲んでんのに一向に高くなる気配ないんだよなー」
「……」
「俺とあんたなら俺の方がでかいと思うんだけどなー。ちょっと背比べして見ない?」
「……」
少女は焔の問いかけに一切答えない。それでも、焔は何度でも話しかけた。それはなぜか? 正直焔もその理由は分からない。
真正面から見た少女の目は先ほど見た時とは、比べ物にならないほど怖かった。人がこんな目をできるなんて、焔は怖くて怖くてたまらなかった。今すぐにでも他の所へ行きたい。他の誰かが入ってきてほしい。そんな感情が焔の中で渦巻いていた。
だが、それと同時に対面して、焔は初めて気づく。何の感情もなく、どこを見ているかもわからないその美しい目……その瞳の奥を覗き見た焔は……やはり話しかけるのを止めることが出来なかった。
(焔……やはり君には俺たちでは見ることが出来ない何かがその目に映ってるんだね)
皆がモニタールームで静かに焔の行動を見ている中、シンだけが何かを確信したように笑っていた。
―――「ハア!……ハア!……ハア!……ハア!」
少女は1人、荒れ狂う吹雪の中、なんとか一歩、また一歩と足を踏み出す。体は冷え切り、足は積み重なる疲労と、雪により、もう立っていることすら辛かった。次第に薄れゆく意識の中で、少女は一刺しの光をその目に捉える。安堵感、そしてこの地獄から解放される喜び。少女は笑う。
(ようやく、ようやく終わる)
だが、無情にも残り1分のカウントダウンが始まる。
「残り60秒です」
そのカウントダウンに少女は当然焦る。光が見えたと言っても、まだ距離があるのは明白だった。加えて吹雪の視界の悪さから正確な距離がわからない。
「残り50秒です」
少女は今にもぶっ倒れそうな体に鞭を打ち、走り出す。だが、思うように足は上がらず、息だけが上がっていく。
「残り40秒です」
光は徐々に強さを増す。だが、まだ遠い。
「残り30秒です」
がむしゃらに走った。光はもう目と鼻の先だ。
「残り20秒です」
油断したのか、功を焦ったのか、少女はバランスを崩し、雪の中に全身をうずめる。
「う、うぅ……」
少女は立ち上がるには時間がかかりすぎると悟ったのか、そのままほふく前進のような形で進んでいく。
「残り10秒です」
そこから1秒ごとにカウントが始まる。当然、全身に力が入る。もう考える力も、感覚も残っていない。ただ、その少女の頭に残っているものは光の方へ進まなければならないということだけだった。
少女はもがいた。必死にもがく。
「9」
「8」
「7」
「6」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「オオオオ!!」
その少女に一番最初に入ってきた情報は多くの人たちの感嘆の声だった。
(こ、ここは……温かい……それに……)
それまで瀕死のような状態だった少女は目を見開き、バッと上半身を起こす。
「痛くないっ!?」
少女は不思議そうに自分の体を見た後、視線をそらしあたりを見回した。すると、そこは先ほどの雪山ではなく、カフェのような空間に変っていた。そして、そこには驚いたような表情でその少女の周りを囲む多くの人の姿があった。いまだに現状が掴めていない少女の元に1人の少年が近づいてくる。
「いやー、時間ギリギリだったな。正直もうダメかと思ったぜ……ま、何はともあれ」
少年は少女の前にゆっくりと腰を下ろすと、ニコッと笑う。
「お疲れさん、茜音」
「……ッ!! 焔!? え? ちょっと待って……ここって……」
「ゴール……かな」
その言葉を聞いた途端、茜音は全身の力が抜けたかのように崩れ落ち、安堵の息をもらす。
「よっこらせ……立てるか?」
焔は立ち上がると、茜音に手を差し伸べる。茜音は笑うと、その手を取る。
「よいしょっと! ありがと」
「どういたしまして。しかし、本当に危機一髪だったな」
「ええ、本当に。もうダメかと思った」
「ま、取り敢えずはこれで第一試験突破つうことだな」
「ええ、でもこれで第一試験って……次の試験が恐ろしいったらありゃしないわね」
「ハハ、同感だ」
話も一区切りついたところで、AIの声が部屋中に響き渡る。
「皆様お疲れ様でした。ただいまを持ちまして、第一試験を終了したいと思います。合格者は428名中89名です。皆様には再び現実世界に戻っていただきます。指示があるまで待機していてください。それではまた」
カフェのような空間は光に包まれると、再び静けさを取り戻した。
―――「89名か……」
総督はポツリとそう呟く。その呟きにいち早く反応したのはハクだった。
「俺はけっこう残ったほうだと思うけどね。ま、いつもよりかなり削られたけどね」
「確かに、この試験内容にしてはよく頑張ってくれたほうだと思うけど……総督はどう思ってるのかな?」
シンは話題を再び、総督へと戻す。すると、総督は不気味な笑顔を見せ、
「フフフ、これが次の試験ではどれだけ残るか見ものだな」
顔は見えずとも、総督の笑い声から、次の試験が第一試験同様に過酷なものだということは言うまでもなかった。笑い声が止むと、皆の疑問をヴァネッサが総督にぶつける。
「総督、次の試験の内容は?」
総督はゆっくりと椅子を回転させ、教官たちの方へと体を向ける。
「次の試験内容は……実践だ! さて、やつらの専売特許だが……どこまで通じるかな?」
そう告げると、総督は再び不気味な笑いを見せた。その顔はもうほとんど悪魔に等しく、教官たちは皆無言で一歩、総督から距離をとった。
「や、やあ! 俺、青蓮寺焔って言うんだ! よ、よろしく頼むわ!」
先ほどとは打って変わり、今度は明るく接触を試みる焔。初対面で悪い印象を与えないという意味もあったが、この明るく振る舞った意味はその何一つ感情の通っていないような目、表情に恐怖を感じていたからに他ならないのだった。
だが、そんな焔を全く存在していないかのように少女は顔色を変えず、何かを見ているのか、いや、全く何も見ていないかのように前を見ていた。
「あ、あれか! 日本語分からないのか! そうだよな。どう見ても日本人じゃないもんな! ハロー! マイネームイズ、ホムラショウレンジ! ナイストゥミ―チュー!」
「……」
差し出した手を焔はそっと自分の元へ返す。
え? どういう事? 英語が母国語じゃないの? いや、母国語じゃなくても普通何かリアクションしてくれるよな……もしかして、耳が聞こえないのか!? だとしたらしょうがないな……
「彼女、耳は聞こえますし、英語は母国語です。なんなら、ここではどんな言語の人でも対等に話すことが出来ますよ」
「え、マジで? だったら何で……は?」
「……何か?」
「AI、どうして俺が心の中で思ったことをお前が知ってるんだ……」
「ここでは、言葉に発さずとも、心の中で考えたことなどは全て筒抜けですので。なにせ、電脳世界ですから」
「……それ先に言っといてくれよ。というか、どんな言葉話す人とでも喋れるってマジかよ!?」
「……小声でしゃべらずとも心の中で念じてもらえれば、会話はできますよ」
「あ、そっか……そんじゃ」
もう一度確認だが、本当にどんな言語のやつとでも喋ることが出来るのか?
「はい、可能です」
そんで、あの子は耳が聞こえないわけでもないと。
「その通りです」
……なら、なんで何のリアクションもないんだ。それに、あの目は……
「世界には色々な人がいるんですよ」
色々な人ね……
「おそらく焔さんが何度話しかけても反応することはないと思いますが……どうしますか?」
どうしますか……か。
焔は少しの間、自分の中で自問自答すると、フッと笑った。すると、少女と対面するように腰を掛け、また気丈に振る舞いだした。
「なあ、あんたどこの生まれなんだ?」
「……」
「名前は?」
「……」
「身長は?」
「……」
「俺の身長は157㎝なんだよ。小っちゃいだろ? 毎日毎日牛乳飲んでんのに一向に高くなる気配ないんだよなー」
「……」
「俺とあんたなら俺の方がでかいと思うんだけどなー。ちょっと背比べして見ない?」
「……」
少女は焔の問いかけに一切答えない。それでも、焔は何度でも話しかけた。それはなぜか? 正直焔もその理由は分からない。
真正面から見た少女の目は先ほど見た時とは、比べ物にならないほど怖かった。人がこんな目をできるなんて、焔は怖くて怖くてたまらなかった。今すぐにでも他の所へ行きたい。他の誰かが入ってきてほしい。そんな感情が焔の中で渦巻いていた。
だが、それと同時に対面して、焔は初めて気づく。何の感情もなく、どこを見ているかもわからないその美しい目……その瞳の奥を覗き見た焔は……やはり話しかけるのを止めることが出来なかった。
(焔……やはり君には俺たちでは見ることが出来ない何かがその目に映ってるんだね)
皆がモニタールームで静かに焔の行動を見ている中、シンだけが何かを確信したように笑っていた。
―――「ハア!……ハア!……ハア!……ハア!」
少女は1人、荒れ狂う吹雪の中、なんとか一歩、また一歩と足を踏み出す。体は冷え切り、足は積み重なる疲労と、雪により、もう立っていることすら辛かった。次第に薄れゆく意識の中で、少女は一刺しの光をその目に捉える。安堵感、そしてこの地獄から解放される喜び。少女は笑う。
(ようやく、ようやく終わる)
だが、無情にも残り1分のカウントダウンが始まる。
「残り60秒です」
そのカウントダウンに少女は当然焦る。光が見えたと言っても、まだ距離があるのは明白だった。加えて吹雪の視界の悪さから正確な距離がわからない。
「残り50秒です」
少女は今にもぶっ倒れそうな体に鞭を打ち、走り出す。だが、思うように足は上がらず、息だけが上がっていく。
「残り40秒です」
光は徐々に強さを増す。だが、まだ遠い。
「残り30秒です」
がむしゃらに走った。光はもう目と鼻の先だ。
「残り20秒です」
油断したのか、功を焦ったのか、少女はバランスを崩し、雪の中に全身をうずめる。
「う、うぅ……」
少女は立ち上がるには時間がかかりすぎると悟ったのか、そのままほふく前進のような形で進んでいく。
「残り10秒です」
そこから1秒ごとにカウントが始まる。当然、全身に力が入る。もう考える力も、感覚も残っていない。ただ、その少女の頭に残っているものは光の方へ進まなければならないということだけだった。
少女はもがいた。必死にもがく。
「9」
「8」
「7」
「6」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「オオオオ!!」
その少女に一番最初に入ってきた情報は多くの人たちの感嘆の声だった。
(こ、ここは……温かい……それに……)
それまで瀕死のような状態だった少女は目を見開き、バッと上半身を起こす。
「痛くないっ!?」
少女は不思議そうに自分の体を見た後、視線をそらしあたりを見回した。すると、そこは先ほどの雪山ではなく、カフェのような空間に変っていた。そして、そこには驚いたような表情でその少女の周りを囲む多くの人の姿があった。いまだに現状が掴めていない少女の元に1人の少年が近づいてくる。
「いやー、時間ギリギリだったな。正直もうダメかと思ったぜ……ま、何はともあれ」
少年は少女の前にゆっくりと腰を下ろすと、ニコッと笑う。
「お疲れさん、茜音」
「……ッ!! 焔!? え? ちょっと待って……ここって……」
「ゴール……かな」
その言葉を聞いた途端、茜音は全身の力が抜けたかのように崩れ落ち、安堵の息をもらす。
「よっこらせ……立てるか?」
焔は立ち上がると、茜音に手を差し伸べる。茜音は笑うと、その手を取る。
「よいしょっと! ありがと」
「どういたしまして。しかし、本当に危機一髪だったな」
「ええ、本当に。もうダメかと思った」
「ま、取り敢えずはこれで第一試験突破つうことだな」
「ええ、でもこれで第一試験って……次の試験が恐ろしいったらありゃしないわね」
「ハハ、同感だ」
話も一区切りついたところで、AIの声が部屋中に響き渡る。
「皆様お疲れ様でした。ただいまを持ちまして、第一試験を終了したいと思います。合格者は428名中89名です。皆様には再び現実世界に戻っていただきます。指示があるまで待機していてください。それではまた」
カフェのような空間は光に包まれると、再び静けさを取り戻した。
―――「89名か……」
総督はポツリとそう呟く。その呟きにいち早く反応したのはハクだった。
「俺はけっこう残ったほうだと思うけどね。ま、いつもよりかなり削られたけどね」
「確かに、この試験内容にしてはよく頑張ってくれたほうだと思うけど……総督はどう思ってるのかな?」
シンは話題を再び、総督へと戻す。すると、総督は不気味な笑顔を見せ、
「フフフ、これが次の試験ではどれだけ残るか見ものだな」
顔は見えずとも、総督の笑い声から、次の試験が第一試験同様に過酷なものだということは言うまでもなかった。笑い声が止むと、皆の疑問をヴァネッサが総督にぶつける。
「総督、次の試験の内容は?」
総督はゆっくりと椅子を回転させ、教官たちの方へと体を向ける。
「次の試験内容は……実践だ! さて、やつらの専売特許だが……どこまで通じるかな?」
そう告げると、総督は再び不気味な笑いを見せた。その顔はもうほとんど悪魔に等しく、教官たちは皆無言で一歩、総督から距離をとった。
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