焔の軌跡

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試験編

第六十九話 ゴール

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 焔は取り敢えず、砂漠と雪山の境界線まで行き、その境界線をまじまじと不思議そうに見つめる。


 はあ……おもしれえな。こんなにも感覚はリアルなのに、絶対にこんな光景リアルじゃありえねえ。流石、電脳世界だ。


 焔は恐る恐る手を砂漠から雪山へと伸ばした。その手は境界線を越え、雪山のエリアへと入った。すると、その瞬間、焔の頬は緩み、感嘆のため息をつく。

「はあああ……!! 気持ちいー!」

 砂漠の太陽に今まで散々熱せられてきた焔の体には雪山エリアはまさに天国にも等しいものだった。その後、引き寄せられるかのように雪山エリアへと入って行った。

 天国、しばらくはそう思っていた焔だったが、見る見るうちに寒さを実感してくると、不意に後ろの方を振り返った。だが、そこにあったのは……

「やられた……」

 そこにはあんなにも苦労して走ってきた砂漠の姿はなく、その代わり視界の隅から隅まで、皮肉にも美しい銀世界が広がっていた。

「なるほどね。総督さん、やってくれるじゃねえか……だが」

 焔はここで少し休憩していこうと思っていたが、それが叶わなくなり落胆する様子を見せる。しかし、すぐに焔は笑みを浮かべて見せた。


 ここで、また環境が変わったということは、俺の読みは的中した。てことは、このエリアで最後……残り10㎞。確信はなかった。でも、これで確信が持てた。だったら、力をセーブする必要はもうない。それに、ここに長居するとヤバい。一気に暑いところから寒いところに来たせいか、体が少し変だ。頭もフワフワする……ダメだ。かれこれ詮索するのは後だ。今は……


 焔は自身がこれから行く道をしっかりと見据えると、

「よし!」

 意気込みを口にした。そして、その銀世界には1つの足跡がものすごい勢いで伸びていくのだった。


―――「バレたね総督」

 焔の行動を見たシンは不意に総督に話しかける。

「……何がだ?」

「わかってるくせに」

 シンのその言葉に、総督は大きくため息をつき、机の上に肘を突き、その掌に顔を乗せる。そして、モニターに映る焔の姿を睨みつける。

「わかったって言っても、残り10㎞あるんだぞ。持つのか……ま、持つんだろうな」

「まあ、持ちますね。でも、流石総督。この気温差は相当来るものがあるでしょうね」

 すると、シンの気温差という言葉を聞き、ヴァネッサも会話に入ってきた。

「ヒートショックか。下手をすれば、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしかねないな」

「そうだな。でも、それは現実での話だ。ここは電脳世界だ。そんなことにはならないように手は打ってある。だから、意識を刈り取られることはない……だが逆を言えば、その手前の一番苦しい状態がずーっと続くと言うことなんだがな」

 言い終わると、総督は不気味な笑い声を響かせ、その場にいたものは全員一歩引いた。


―――約1時間、焔は雪山を走り続けた。奥に進むにつれ、吹雪が強くなり、精神的にも身体的にも、相当来るものがあった。だが、ついに終わりは見えた。

 焔が進む道には明らかに終わりを告げるかのように、光の裂け目が道をふさぐように立っていた。その光の裂け目がゴールだと悟った焔は、今出る最大限の力で一直線に光の裂け目へと向かって行き、飛び込んだ。

 あまりの光の強さに焔は目をつむった。そして、再び目を開けると、そこは広いカフェのような空間へと変わっており、不思議と今までの疲労や痛み、寒さが嘘のように無くなっていた。

「3時間36分。おめでとうございます。青蓮寺焔さん、第一試験突破です」

 いきなりAIの声が脳内に響いてきた。だが、その言葉を聞いた瞬間、焔は、

「よっしゃー!!」

 両手を挙げ、腹の底から声を出し嬉しさを爆発させた。だが、しばらくして、我に返ったのか、口元を隠し、あたりを確認する。でも、そこには人っ子一人いる気配すらなく、焔はぽかんと口を開ける。


 あれ? 俺合格したんだよな。これで終わりで良いんだよな。てか、ここゴール地点だよな。なのに何で誰もいないんだ? もしかして、まだ何かあって、もう皆次の場所へ向かったとか……

 
 よからぬ不安が脳裏をよぎったが、よくよく考え、焔はあることに気づいた。


 あ、そう言えば、この試験はそもそも1人でやってたんだから、皆にそれぞれのゴール地点があるってわけね。なるほどね。


 と、一応納得した焔だったが、念のためAIに確認を取る。

「AI、ここってゴール地点ってことでいいんだよな」

「はい。ここがゴール地点です。ここで時間が来るまで待機していてください。食べ物や飲み物が欲しい場合は、私に言っていただければ、お持ちしますので」

「へえ、そりゃいいや。でも、わざわざ俺1人のスペースにしちゃ、ちょっと大きすぎるよなここ」

「ええ、ここは焔さん1人のスペースではないので、これぐらいが当然かと」

「あ、そっか。俺だけじゃいのね……えっ!?」

「……何か?」

「あれ? ってことは俺、けっこう早いほう……」

「焔さんは2着目です」

「……あっそう! 2着! へえ、ハハ……アハハハ!」

 順位を聞いた焔は頭を掻きながら、照れながらも嬉しそうに笑うのだった。

「おい、シン……お前、こいつ自身の力を自覚できてないのか?」

 一連の会話を聞いていた総督は苦笑いを示しながら、シンに事の真相を尋ねる。

「いやー、別に自覚はしてますよ。ただそれは、一般の人との話であって、世界のトップレベルの人たちとはおそらく差があるものだと思ってたんだと思いますよ。ま、今まで彼は一人で特訓するか、俺と組み手をすることしかしてませんからね。自分が今世界でどれくらいのレベルに達しているかなんて知らないでしょうね」

「……ハハ、青蓮寺焔、こいつは末恐ろしいな」


―――焔は取り敢えず、ブラブラしながら、どこに座ったらいいものかとあたりを見回していた。


 まさか、2着とはな。体力には自信があったけど、こんな順位だとは思わなかったな。でも、浮かれるなよ焔。ここで油断すれば、次の試験、足元をすくわれかねないからな。


 そう言い聞かせる焔だったが、よっぽど嬉しかったのか、まだ時折、頬が緩んでいた。一通り、店内を巡った焔はおそらく1着目であろう人物を見つける。そして、自身の目を疑った。なんと、そこにいたのは屈強な男ではなく、何とも華奢な可愛い女の子であったからだ。


 マジで? この子が1着目……案外わかんねえもんだな、この世界は。


 焔は改めて世界の広さを痛感すると、意を決しその女の子の元へと足を進ませた。

「こんにちは、俺……」

 焔はその女の子の前へと体を移動させ、挨拶を交わそうとしたが、顔を見た瞬間、次の言葉を出すのを忘れてしまった。

 その女の子は綺麗なとても透き通った青い目をしていた。だが、その奥からは何の感情ものぞき込むことはできなかった。

 シンはモニタールームから、いつもよりも少し真剣な眼差しでその様子を見ていたのだった。

 
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