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試験編
第七十二話 討伐試験!?
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何とか着席した一行。そこで、焔はある違和感に気づく。
「あれ? そう言えば、何で現実世界でも電脳世界みたいに皆と話すことが出来るんだ?」
焔は最もな疑問をぶつけたはずであったが、その質問に皆素っ頓狂な顔を示す。
「え? 焔聞いてなかったの?」
「え? 何のこと?」
すると、茜音と焔の会話を聞いていたコーネリアがため息を漏らし、説明を加える。
「AIが言ってたでしょ? 私たちが電脳世界に行っている間に電脳ギアから超小型のチップを頭に埋め込んだって。それで、電脳世界同様にここの現実世界でも、他国の人と話をすることが出来るんだって」
「あ、あれー、そんなこと言ってたっけ?」
「確かに言ってたぞ! ちゃんと話は聞かなくてはダメだぞ、レンジ!」
「焔って、トンチンカンネ」
ダメ出しを食らい、サイモンとリンリンに笑われてしまった焔は顔を下にし、不意に立ち上がる。
「どうしたの焔?」
「ちょっとトイレ」
茜音の問いに焔は少し怒りをにじませた顔で答え、素早くトイレへと向かって行った。
「……怒った?」
「言い過ぎたネ」
サイモン、リンリンの2人は焔が行った後、自身の言動に反省の色を示していたが、焔が怒りの矛先を向けていたのはこの2人ではなかった。トイレの個室に入った焔はポケットに閉まっていた通信機を耳につけた。
「アーイーさーん、さっきの話聞いてたよな?」
「はい」
「俺、頭の中にチップ入れられたこと聞いていないんですけど? そこんとこどうなんですかね?」
イラついていたか、足を小刻みに動かし、トイレの個室にはトントントンと靴で床を叩く音だけが響き渡る。少しの間を置いたAIから発せられた言葉は……
「……てへぺろ」
「なんじゃその無機質なてへぺろは!?」
「すいません、つい」
「ハー……もう言ってないことはないよな?」
「……ないです」
「なぜ間を作る?」
「なんとなくです」
「……あっそ」
一応、AIのことを信じた焔は再び通信機を外し、皆の元へと戻る。
「遅いネ、焔。みんなもう頼んだヨ」
「ああ、ごめんごめん」
そそくさと席に着くと、またもやある疑問を皆にぶつける。
「あれ? そう言えば、注文ってどこですんの?」
そして、再び既視感のある視線が焔に刺さる。
「ハー、また聞いてなかったの? 席に座って『メニュー』と言ったら、目の前にデジタルのメニュー表が現れて、好きなメニューを押せば、ロボットが持ってきてくれるって言ってたでしょ」
再び、コーネリアが馬鹿にしたような態度で説明する。
「へ、へえ。聞いてねえな」
だが、その怒りの矛先はポケットの先へと向いていた。だが、もう怒るのもめんどくさくなったのか、ため息一つ漏らすと、焔も素早く注文を終える。
しばらくすると、1体のロボットが一行の元へ到着する。そして、腹の中から熱々の料理を取り出した。
「いただきまーす」
一行はあまり談笑することなく、食事に集中する。皆が思い思いの料理を食べ、一通り食べ終わると、リンリンがおもむろに立ち上がる。
「それじゃあ、新しい人もいるみたいだし、改めて自己紹介するヨ! あたしは梅(メイ)・玲玲(リンリン)。リンリンでいいヨ! はい次、コーネリアちゃん」
リンリンはコーネリアにバトンを渡すと、笑顔で着席する。コーネリアは眼鏡をクイっと直すと、座ったまま自己紹介を始める。
「初めまして、セリーナ・コーネリアよ。コーネリアでいいわ。よろしくね」
そう言うと、柔らかい笑顔を向け、茜音に向かって手を差し出す。その笑顔に茜音は少し戸惑いを見せる。
「どうしたの?」
「え、いや、コーネリアちゃんってもう少し近寄りがたい人だと思ってたから」
「そんなことないわ」
その言葉を聞き、安心したのも束の間だった。
「女子とは」
そう付け加えられた茜音は『へ、へえ』と言いながら、握手することしかできなかった。
「次は僕だね!」
待っていたかのように、サイモンが意気揚々に話始めようとするが、
「いや、あなたとはもう1回挨拶済ませてるから、いいかな」
茜音は申し訳なさそうに手でサイモンの話を遮る。『ガーン』という効果音が似つかわしいほどの残念そうな表情を浮かべたサイモンは、そのまま動かなくなってしまったが、誰1人そこには触れようとはしなかった。
「じゃ、じゃあ次は私から! 私は野田茜音って言います。取り敢えず、ここにいる間よろしく」
茜音は軽くお辞儀をし、挨拶を終えると、焔の方にちらっと顔を向ける。
「焔は……別に挨拶とかいらないよね……焔?」
肝心の焔は何か探し物をするようにあたりをキョロキョロ見まわしていた。その集中力は隣に座っている茜音の声が届かないほどだった。茜音が肩を叩くと、ようやく反応を示す。
「ん? どうした?」
「さっき挨拶を終えたところで、焔の挨拶はいらないかって話よ。聞いてなかったの?」
「ああ、悪い悪い。ちょっと聞いてなかった」
「そんなんだから、頭のチップのことや食堂のこともAIから聞きそびれるのよ」
横から割って入ってきたコーネリアに焔は眉をひそめる。
「それとこれとは関係ねえよ」
「どうかしら」
再び、険悪なムードに差し掛かろうとしたのを察知した茜音は話題を変える。
「そういえば、さっき何か探してたみたいだけど、他に誰か知り合いでもいるの?」
その質問に、焔は答えづらそうに頭を掻く。
「い、いやー知り合いというか……なんというか」
歯切れ悪そうにしゃべる焔に茜音は首をかしげる。すると、サイモンが確信めいた口調で話題に入ってくる。
「はっはーん……レンジ、お前あの少女を探しているな」
その言葉にリンリン、コーネリアの2人はピクリと反応する。
「え、いや、まあ」
「うんうん! 分かるぞレンジ! あの子はとてもビューティフル! かつプリティーだったからな。だが、諦めたほうがいい! なんたって」
そこまで言いかけると、楽しそうな表情から一変。悔しそうな表情に変り、サイモンは声を荒げる。
「彼女はこの僕でさえ! ずーっと無視し続けたんだからね!」
そう言って、泣き叫ぶサイモンを無視して、リンリン、コーネリアも続く。
「焔、あの子は変ネ。どんなにしゃべりかけても全く反応もしない。それにあの目……とても怖かったネ」
「焔、あの少女とはあまり関わらないほうがいい。あの子にはおそらく感情がないんだわ。過去に何があったか分からないけど、私たちでは何もできない」
「……感情がないか……でも……いや、何でもない」
焔は何かを言いかけ、そして止めた。そのことについては、誰も言及しようとはしなかった。
「悪いけど、俺もう帰るわ。そんじゃあ、明日の試験で会おうぜ」
「あ、うん。じゃあね、焔」
「ああ、また明日」
茜音とのやり取りを終えると、焔は転送され、消えていった。そして、しばらくの間、茜音たちは黙ったままだったが、その少女について茜音は疑問に思ったらしく、その子について皆に聞いてみた。一行は一瞬、顔を見合せ、互いに確認を取ると代表してコーネリアが話始めた。
「私は5着目だったんだけど、その時いたのが焔、サイモン、リンリンちゃん、そして例の少女」
「へ、へえ(さらっとコーネリアちゃん凄いこと言った! え? 何? 焔を含め、ここにいるメンバーってめちゃめちゃとんでもない人たちなんじゃ……)」
茜音は溢れ出る動揺を何とか心のうちのみにとどめると、何食わぬ顔で話の続きを聞く。コーネリアはその少女が全くもって、動こうとしないこと。瞬きもほとんどせず、ただただ前を見て座っているだけ。話しかけても何の反応もしないことなど、とにかくその少女がいかに不気味なのかを茜音に説明した。
茜音はさきほどのやり取りから何となく想定はしていたが、コーネリアの説明により、より鮮明にその少女の人物像が浮かび上がる。
「なるほどね。確かに、それは不気味ね。でも、一体何で」
「わからない。でも、過去に相当な事件にでも巻き込まれたとかじゃないかしら」
「相当な事件……か」
ここで会話は途切れ、どこかお通夜みたいな空気になってしまった。そのことにいち早く気付いたのはリンリンだった。
パン!
リンリンは強く手を叩く。
「はい! この話はここでおしまいネ! もっと違う話するネ!」
それまで、強張っていた茜音とコーネリアの顔がリンリンの笑顔を見て緩む。
「そ、そうね。この話はもうおしまいにしましょう」
「あはは、そうだね。でも、何で焔はそんなに気にかけるんだろう、その子のこと」
「さあ? その少女、中々の美形だったから、一目惚れでもしたんじゃないの?」
「ええ? まっさかー」
「ま、男なんてそんなもんよ」
ひと時の間テーブルは笑いに包まれる。だが、そんな空間を1人の男が切り裂く。
「それは違うな。コーネリアちゃん」
その声のする方には、先ほどとは異なり、凛々しい表情をしたサイモンの姿があった。
「僕があそこのカフェに到着したのは約5時間後。そして、レンジが到着したのは約3時間半後。僕が到着する約1時間半、レンジはあの子の真正面に座り、ずっと話しかけ続けていた。そして、顔には見せていなかったが、その表情はひどくしんどそうに僕には映った。ただ単に一目惚れしただけでは、あんな行動はできやしない。レンジはおそらく彼女から僕たちには気づかない……何かを感じ取ったのではないのだろうか」
「……」
まだ知り合って間もないが、サイモンがこれほどまでに真剣な表情で、焔について語るなんて誰も予想できず、その場にいた全員がその説明をポカーンと聞くことしかできなかった。思いのほか、沈黙が長く続いたのか、サイモンは皆の方へ顔を向ける。すると、そこには黙って、ジーっとサイモンを見ている女子たちの姿が映り、動揺を示す。
「な、なんだ? 皆どうしたんだ?」
「……カッコいい」
「……え?」
「カッコいいよ!! サイモン君! サイモン君はそういうキャラの方がいいネ!」
「な、何だい、いきなり!? キャラ? よくわからないが、僕はいつだってカッコいいだろ?」
すると、サイモンはキメ顔で髪をなびかせる。
「あ、カッコよくなくなった」
「な、何ですとー!?」
いつものサイモンに戻り、再び空間は笑いに包まれる。しかし、コーネリアだけはそっぽを向いていた。コーネリアは自分の軽はずみな言動を反省していたが、サイモンから諭されたことが悔しく、焔のことを軽視していた自分が何とも情けなく、恥ずかしかったのだろう。その顔は先ほどまでの澄ました顔つきとは打って変わり、頬を赤らめ、目には何かを堪えるように力が入っていた。
―――あれから部屋に帰った焔はボーッと天井を眺めていた。
何で俺、こんなにあの子に執着してんだろ?
焔自身もあの子に対し、なぜここまで執拗に追いかけてしまうのかわからずにいた。試験に集中しなければいけないのに、頭の中が悶々としてしまい、ベッドの上でうなだれる焔であったが、
「はーい、元気? 焔?」
その聞き覚えのある声を聞くと、焔は勢いよく起き上がる。そして、テレビ画面に映る顔を見ると、徐々に明るい表情に変っていった。
「シンさん!」
そこにはいつもの笑顔を浮かべるシンの顔があった。
「やあ、焔。1,2週間ぶりかな。中々頑張ってるじゃないか。俺は鼻が高いよ」
「いや、まあボチボチですよ」
素直に喜びたかったが、無駄に強がる焔。しかし、その顔から十二分にその気持ちをくみ取ることが出来た。
「いやあ、大変だったろう。マラソン、それに……」
「……あの子のことですか?」
「……正解」
すると、さっきの明るい表情とは一転、キリッとした表情に切り替わると、焔はシンにあの少女について聞きだす。
「シンさん、あの子は一体」
「そうだね。教えたいのは山々なんだけど……まだその時じゃない」
「その時じゃない……ですか」
「そうだね」
「てことは、いずれ教えてくれるってことですか?」
「そういうこと。だから、今は試験に集中することだね」
「わかりました」
「うん。それじゃあ、あんまり話すのもあれだから」
「そうですね。わざわざありがとうございました」
「いいのいいの。それじゃあ……と、その前に1つ質問してもいいかな?」
「は……ええ、どうぞ」
「君はあの少女の瞳に何を見た?」
シンの顔からは笑顔は消え、鋭い眼光が焔を襲う。その様子はまるで何かを見定めているかのように見えた。急なことにドキッとする焔だったが、目をそらすことなく、シンの目を見て焔は、
「確かに、あの子の目はとても怖かった。何の感情も入ってないような、死人……いや、まるで人形のような目でした。でも、俺にはどこか……泣いているように見えました」
「……そうか」
そうシンはポツリと呟くと、いつもの笑顔に戻る。
「いやー、ごめんね。変な質問しちゃって。それじゃあ、次の試験も頑張ってね」
それだけ言い残すと、焔の返事を待たず、テレビ画面から姿を消した。
「あ、はい! 頑張ります!」
暗い画面に向かって、焔は大きな声で言い返す。そして、その画面にはシンではなく、決意を新たにした少年の姿が映し出されていた。
それから、時は過ぎ、午後10時になった。時間になった瞬間、朝同様に総督の顔が画面に映し出される。
「御機嫌よう、諸君。まずは第一試験突破おめでとう。あんな理不尽な試験によく食らいついてきてくれた。君たちは中々根性があるようだ。とまあ、前置きはこのぐらいにして、次の試験の説明をしていこう。次の試験は……」
受験者をじらすように、総督は次の言葉を言うのにかなりの間を置く。そして、ついに次の試験の内容を発表する。
「地球外生物の討伐だ!」
いきなりのパワーワードにほとんどの受験者は固まる。焔も開いた口が塞がらない状態に陥る。
「いきなりかよ……」
「あれ? そう言えば、何で現実世界でも電脳世界みたいに皆と話すことが出来るんだ?」
焔は最もな疑問をぶつけたはずであったが、その質問に皆素っ頓狂な顔を示す。
「え? 焔聞いてなかったの?」
「え? 何のこと?」
すると、茜音と焔の会話を聞いていたコーネリアがため息を漏らし、説明を加える。
「AIが言ってたでしょ? 私たちが電脳世界に行っている間に電脳ギアから超小型のチップを頭に埋め込んだって。それで、電脳世界同様にここの現実世界でも、他国の人と話をすることが出来るんだって」
「あ、あれー、そんなこと言ってたっけ?」
「確かに言ってたぞ! ちゃんと話は聞かなくてはダメだぞ、レンジ!」
「焔って、トンチンカンネ」
ダメ出しを食らい、サイモンとリンリンに笑われてしまった焔は顔を下にし、不意に立ち上がる。
「どうしたの焔?」
「ちょっとトイレ」
茜音の問いに焔は少し怒りをにじませた顔で答え、素早くトイレへと向かって行った。
「……怒った?」
「言い過ぎたネ」
サイモン、リンリンの2人は焔が行った後、自身の言動に反省の色を示していたが、焔が怒りの矛先を向けていたのはこの2人ではなかった。トイレの個室に入った焔はポケットに閉まっていた通信機を耳につけた。
「アーイーさーん、さっきの話聞いてたよな?」
「はい」
「俺、頭の中にチップ入れられたこと聞いていないんですけど? そこんとこどうなんですかね?」
イラついていたか、足を小刻みに動かし、トイレの個室にはトントントンと靴で床を叩く音だけが響き渡る。少しの間を置いたAIから発せられた言葉は……
「……てへぺろ」
「なんじゃその無機質なてへぺろは!?」
「すいません、つい」
「ハー……もう言ってないことはないよな?」
「……ないです」
「なぜ間を作る?」
「なんとなくです」
「……あっそ」
一応、AIのことを信じた焔は再び通信機を外し、皆の元へと戻る。
「遅いネ、焔。みんなもう頼んだヨ」
「ああ、ごめんごめん」
そそくさと席に着くと、またもやある疑問を皆にぶつける。
「あれ? そう言えば、注文ってどこですんの?」
そして、再び既視感のある視線が焔に刺さる。
「ハー、また聞いてなかったの? 席に座って『メニュー』と言ったら、目の前にデジタルのメニュー表が現れて、好きなメニューを押せば、ロボットが持ってきてくれるって言ってたでしょ」
再び、コーネリアが馬鹿にしたような態度で説明する。
「へ、へえ。聞いてねえな」
だが、その怒りの矛先はポケットの先へと向いていた。だが、もう怒るのもめんどくさくなったのか、ため息一つ漏らすと、焔も素早く注文を終える。
しばらくすると、1体のロボットが一行の元へ到着する。そして、腹の中から熱々の料理を取り出した。
「いただきまーす」
一行はあまり談笑することなく、食事に集中する。皆が思い思いの料理を食べ、一通り食べ終わると、リンリンがおもむろに立ち上がる。
「それじゃあ、新しい人もいるみたいだし、改めて自己紹介するヨ! あたしは梅(メイ)・玲玲(リンリン)。リンリンでいいヨ! はい次、コーネリアちゃん」
リンリンはコーネリアにバトンを渡すと、笑顔で着席する。コーネリアは眼鏡をクイっと直すと、座ったまま自己紹介を始める。
「初めまして、セリーナ・コーネリアよ。コーネリアでいいわ。よろしくね」
そう言うと、柔らかい笑顔を向け、茜音に向かって手を差し出す。その笑顔に茜音は少し戸惑いを見せる。
「どうしたの?」
「え、いや、コーネリアちゃんってもう少し近寄りがたい人だと思ってたから」
「そんなことないわ」
その言葉を聞き、安心したのも束の間だった。
「女子とは」
そう付け加えられた茜音は『へ、へえ』と言いながら、握手することしかできなかった。
「次は僕だね!」
待っていたかのように、サイモンが意気揚々に話始めようとするが、
「いや、あなたとはもう1回挨拶済ませてるから、いいかな」
茜音は申し訳なさそうに手でサイモンの話を遮る。『ガーン』という効果音が似つかわしいほどの残念そうな表情を浮かべたサイモンは、そのまま動かなくなってしまったが、誰1人そこには触れようとはしなかった。
「じゃ、じゃあ次は私から! 私は野田茜音って言います。取り敢えず、ここにいる間よろしく」
茜音は軽くお辞儀をし、挨拶を終えると、焔の方にちらっと顔を向ける。
「焔は……別に挨拶とかいらないよね……焔?」
肝心の焔は何か探し物をするようにあたりをキョロキョロ見まわしていた。その集中力は隣に座っている茜音の声が届かないほどだった。茜音が肩を叩くと、ようやく反応を示す。
「ん? どうした?」
「さっき挨拶を終えたところで、焔の挨拶はいらないかって話よ。聞いてなかったの?」
「ああ、悪い悪い。ちょっと聞いてなかった」
「そんなんだから、頭のチップのことや食堂のこともAIから聞きそびれるのよ」
横から割って入ってきたコーネリアに焔は眉をひそめる。
「それとこれとは関係ねえよ」
「どうかしら」
再び、険悪なムードに差し掛かろうとしたのを察知した茜音は話題を変える。
「そういえば、さっき何か探してたみたいだけど、他に誰か知り合いでもいるの?」
その質問に、焔は答えづらそうに頭を掻く。
「い、いやー知り合いというか……なんというか」
歯切れ悪そうにしゃべる焔に茜音は首をかしげる。すると、サイモンが確信めいた口調で話題に入ってくる。
「はっはーん……レンジ、お前あの少女を探しているな」
その言葉にリンリン、コーネリアの2人はピクリと反応する。
「え、いや、まあ」
「うんうん! 分かるぞレンジ! あの子はとてもビューティフル! かつプリティーだったからな。だが、諦めたほうがいい! なんたって」
そこまで言いかけると、楽しそうな表情から一変。悔しそうな表情に変り、サイモンは声を荒げる。
「彼女はこの僕でさえ! ずーっと無視し続けたんだからね!」
そう言って、泣き叫ぶサイモンを無視して、リンリン、コーネリアも続く。
「焔、あの子は変ネ。どんなにしゃべりかけても全く反応もしない。それにあの目……とても怖かったネ」
「焔、あの少女とはあまり関わらないほうがいい。あの子にはおそらく感情がないんだわ。過去に何があったか分からないけど、私たちでは何もできない」
「……感情がないか……でも……いや、何でもない」
焔は何かを言いかけ、そして止めた。そのことについては、誰も言及しようとはしなかった。
「悪いけど、俺もう帰るわ。そんじゃあ、明日の試験で会おうぜ」
「あ、うん。じゃあね、焔」
「ああ、また明日」
茜音とのやり取りを終えると、焔は転送され、消えていった。そして、しばらくの間、茜音たちは黙ったままだったが、その少女について茜音は疑問に思ったらしく、その子について皆に聞いてみた。一行は一瞬、顔を見合せ、互いに確認を取ると代表してコーネリアが話始めた。
「私は5着目だったんだけど、その時いたのが焔、サイモン、リンリンちゃん、そして例の少女」
「へ、へえ(さらっとコーネリアちゃん凄いこと言った! え? 何? 焔を含め、ここにいるメンバーってめちゃめちゃとんでもない人たちなんじゃ……)」
茜音は溢れ出る動揺を何とか心のうちのみにとどめると、何食わぬ顔で話の続きを聞く。コーネリアはその少女が全くもって、動こうとしないこと。瞬きもほとんどせず、ただただ前を見て座っているだけ。話しかけても何の反応もしないことなど、とにかくその少女がいかに不気味なのかを茜音に説明した。
茜音はさきほどのやり取りから何となく想定はしていたが、コーネリアの説明により、より鮮明にその少女の人物像が浮かび上がる。
「なるほどね。確かに、それは不気味ね。でも、一体何で」
「わからない。でも、過去に相当な事件にでも巻き込まれたとかじゃないかしら」
「相当な事件……か」
ここで会話は途切れ、どこかお通夜みたいな空気になってしまった。そのことにいち早く気付いたのはリンリンだった。
パン!
リンリンは強く手を叩く。
「はい! この話はここでおしまいネ! もっと違う話するネ!」
それまで、強張っていた茜音とコーネリアの顔がリンリンの笑顔を見て緩む。
「そ、そうね。この話はもうおしまいにしましょう」
「あはは、そうだね。でも、何で焔はそんなに気にかけるんだろう、その子のこと」
「さあ? その少女、中々の美形だったから、一目惚れでもしたんじゃないの?」
「ええ? まっさかー」
「ま、男なんてそんなもんよ」
ひと時の間テーブルは笑いに包まれる。だが、そんな空間を1人の男が切り裂く。
「それは違うな。コーネリアちゃん」
その声のする方には、先ほどとは異なり、凛々しい表情をしたサイモンの姿があった。
「僕があそこのカフェに到着したのは約5時間後。そして、レンジが到着したのは約3時間半後。僕が到着する約1時間半、レンジはあの子の真正面に座り、ずっと話しかけ続けていた。そして、顔には見せていなかったが、その表情はひどくしんどそうに僕には映った。ただ単に一目惚れしただけでは、あんな行動はできやしない。レンジはおそらく彼女から僕たちには気づかない……何かを感じ取ったのではないのだろうか」
「……」
まだ知り合って間もないが、サイモンがこれほどまでに真剣な表情で、焔について語るなんて誰も予想できず、その場にいた全員がその説明をポカーンと聞くことしかできなかった。思いのほか、沈黙が長く続いたのか、サイモンは皆の方へ顔を向ける。すると、そこには黙って、ジーっとサイモンを見ている女子たちの姿が映り、動揺を示す。
「な、なんだ? 皆どうしたんだ?」
「……カッコいい」
「……え?」
「カッコいいよ!! サイモン君! サイモン君はそういうキャラの方がいいネ!」
「な、何だい、いきなり!? キャラ? よくわからないが、僕はいつだってカッコいいだろ?」
すると、サイモンはキメ顔で髪をなびかせる。
「あ、カッコよくなくなった」
「な、何ですとー!?」
いつものサイモンに戻り、再び空間は笑いに包まれる。しかし、コーネリアだけはそっぽを向いていた。コーネリアは自分の軽はずみな言動を反省していたが、サイモンから諭されたことが悔しく、焔のことを軽視していた自分が何とも情けなく、恥ずかしかったのだろう。その顔は先ほどまでの澄ました顔つきとは打って変わり、頬を赤らめ、目には何かを堪えるように力が入っていた。
―――あれから部屋に帰った焔はボーッと天井を眺めていた。
何で俺、こんなにあの子に執着してんだろ?
焔自身もあの子に対し、なぜここまで執拗に追いかけてしまうのかわからずにいた。試験に集中しなければいけないのに、頭の中が悶々としてしまい、ベッドの上でうなだれる焔であったが、
「はーい、元気? 焔?」
その聞き覚えのある声を聞くと、焔は勢いよく起き上がる。そして、テレビ画面に映る顔を見ると、徐々に明るい表情に変っていった。
「シンさん!」
そこにはいつもの笑顔を浮かべるシンの顔があった。
「やあ、焔。1,2週間ぶりかな。中々頑張ってるじゃないか。俺は鼻が高いよ」
「いや、まあボチボチですよ」
素直に喜びたかったが、無駄に強がる焔。しかし、その顔から十二分にその気持ちをくみ取ることが出来た。
「いやあ、大変だったろう。マラソン、それに……」
「……あの子のことですか?」
「……正解」
すると、さっきの明るい表情とは一転、キリッとした表情に切り替わると、焔はシンにあの少女について聞きだす。
「シンさん、あの子は一体」
「そうだね。教えたいのは山々なんだけど……まだその時じゃない」
「その時じゃない……ですか」
「そうだね」
「てことは、いずれ教えてくれるってことですか?」
「そういうこと。だから、今は試験に集中することだね」
「わかりました」
「うん。それじゃあ、あんまり話すのもあれだから」
「そうですね。わざわざありがとうございました」
「いいのいいの。それじゃあ……と、その前に1つ質問してもいいかな?」
「は……ええ、どうぞ」
「君はあの少女の瞳に何を見た?」
シンの顔からは笑顔は消え、鋭い眼光が焔を襲う。その様子はまるで何かを見定めているかのように見えた。急なことにドキッとする焔だったが、目をそらすことなく、シンの目を見て焔は、
「確かに、あの子の目はとても怖かった。何の感情も入ってないような、死人……いや、まるで人形のような目でした。でも、俺にはどこか……泣いているように見えました」
「……そうか」
そうシンはポツリと呟くと、いつもの笑顔に戻る。
「いやー、ごめんね。変な質問しちゃって。それじゃあ、次の試験も頑張ってね」
それだけ言い残すと、焔の返事を待たず、テレビ画面から姿を消した。
「あ、はい! 頑張ります!」
暗い画面に向かって、焔は大きな声で言い返す。そして、その画面にはシンではなく、決意を新たにした少年の姿が映し出されていた。
それから、時は過ぎ、午後10時になった。時間になった瞬間、朝同様に総督の顔が画面に映し出される。
「御機嫌よう、諸君。まずは第一試験突破おめでとう。あんな理不尽な試験によく食らいついてきてくれた。君たちは中々根性があるようだ。とまあ、前置きはこのぐらいにして、次の試験の説明をしていこう。次の試験は……」
受験者をじらすように、総督は次の言葉を言うのにかなりの間を置く。そして、ついに次の試験の内容を発表する。
「地球外生物の討伐だ!」
いきなりのパワーワードにほとんどの受験者は固まる。焔も開いた口が塞がらない状態に陥る。
「いきなりかよ……」
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クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
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これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
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