一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと

玖羽 望月

文字の大きさ
63 / 93
七章 手繰り寄せられた運命

6

 着いたのは公園で、ベンチの空きを見つけそこに並んで座った。

「たっちゃんが……あんなこと言うなんて……」

 膝の上に乗せた手は震えていて、それを抑えるようにギュッと握りしめた。そして顔を上げると彼に向いた。

「大智さん、峰永会って、なんですか? 何か知ってるんですか?」

 彼もまだ戸惑いの色を滲ませたまま、静かに答えた。

「峰永会は、僕の実家が経営する病院なんだ。さっき彼にも伝えたように、今の理事長は叔父で、その前は父だった」
「病……院……」

 そこで樹から昔聞いたことを一つ思い出した。

「そういえば、たっちゃん。小学生の頃に病気でお母さんを亡くしたって……。峰永会の病院に入院していた……とか?」
「それはわからない。けれど、身内を亡くした人が、何らかの理由で病院や医者に、そのやるせなさを向ける場合はあるんだ。子どもだったなら尚更」

 だからこその、気持ちの整理がつかない、なのかも知れない。けれど同じように、自分も気持ちの整理がつかない。
 黙りこくってしまった自分の手に、大智の温かな手が重なる。暗い表情のまま上を向くと優しい微笑みが目に入った。

「彼は……今日はって言っていた。頭ごなしに話を聞かないつもりではなさそうだ。だから待とう。由依は信じているんだろう?」

 彼の言う通りだ。樹はずっと、自分を信じてくれていた。自分だって同じように樹を信じている。改めて、それを気づかせてくれた大智の、懐の深さを思い知る。
 大きく頷き真っ直ぐ彼を見つめると、穏やかな瞳が自分を包み込むように向けられていた。

「ありがとうございます、大智さん。たっちゃんを待ちます。きっと……大丈夫です」
「うん。そうだね。……そうだ。一つ、お願いを聞いてくれないかな」

 愛おしげに目を細め、彼は笑みを浮かべて言う。不意にそんな表情を見せられ、心臓が音を立てて跳ねているようだった。

「ただいま……」

 大智と別れ家に帰る。玄関を開けると、先ほどと同じように静まり帰っていた。
 廊下を進み台所に向かうと、テーブルには樹が背を向けて座っていた。項垂れるように背中を丸めて。

「たっちゃん、ただいま」

 小さく声を掛けると、その背中が揺れ動いた。それを見ながら樹の向かい側に回る。何もないと思っていたテーブルには、見覚えのあるものが並べられていた。

「ちょっと倒してな。壊してしまったんだ。悪い……」

 力なくそう言う視線の先には、仏壇に飾られていた写真立てが置かれていた。ガラスの部分はなく、フレームだけ。そしてその中身がそれとは別に並べられていた。両親が笑顔で並ぶ写真と、二年前大智からもらった名刺だった。

「あいつが……灯希の父親……だよな。これを見つけたその日に、本人が現れるなんてな。……さっきは追い返してごめんな」

 立ちっぱなしで見下ろしていた自分に、樹は弱々しい笑みを向ける。見たこともないそんな樹の姿に、表情を強張らせながら首を振る。樹は自虐的にも見える笑みを口元だけで浮かべると続けた。

「運命の悪戯って、こういうのを言うんだな。今は……何があったか話せる気分にならないけど。いずれ話すから」
「うん……。ごめんね、私こそ。大智さんのこと、黙ってて。また会えるなんて思ってなくて……」
「そっか。会えて良かったな。俺のことは気にしなくていいからな。灯希に父親できたんだ。喜ばしいことじゃないか」

 無理をして笑顔を作るその姿に胸が痛む。樹に過去、何があったのか想像すらできない。正解の返事など浮かぶはずもなく「ありがとう……」と言うだけで精一杯だった。

 一瞬の静寂は、聞こえてきた元気な足音にかき消される。
 台所に顔を出した灯希は「マッマッ‼︎」と嬉しそうに声を上げると、自分の元に走り寄ってきた。しゃがみこみ手を広げると、笑顔の灯希は自分の胸に飛び込んできた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

【R18】秘密。

かのん
恋愛
『好き』といったら終わってしまう関係なんだね、私たち。

社長の×××

恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。 ある日突然異動が命じられた。 異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。 不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。 そんな葵に課長は 「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」 と持ちかける。 決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。 果たして課長の不倫を止めることができるのか!? *他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

ギフテッドな外科医からの策略的求愛

鳴宮鶉子
恋愛
ギフテッドな外科医からの策略的な求愛

Wavering Heart ~ 元同級生は別人級に甘すぎる ~

芙月みひろ
恋愛
ある日のランチで一緒になった男性。苦手だと思っていた彼が、ほとんど話したことのなかった中学の同級生だったことが分かり……

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが

星咲ユキノ
恋愛
三原菜々香(25)は、初恋相手に罰ゲームで告白されたトラウマのせいで、恋愛に消極的になっていた。ある日、職場の先輩に連れていかれた合コンで、その初恋相手の吉川遥希(25)と再会するが、何故かヤンデレ化していて…。 1話完結です。 遥希視点、追記しました。(2025.1.20) ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

大好きだった元彼と結婚させられました

鳴宮鶉子
恋愛
大好きだった元彼と結婚させられました