俺様カメラマンは私を捉えて離さない

玖羽 望月

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【助けてください!】

 八月最初の金曜日、午前九時半を回ったばかりの時間。自席で業務に励む私のパソコンに社内チャットのメッセージがポップアップした。今日は受付に回っている後輩の本田さんからだ。

【どうしたの? トラブル?】

 私は即座にチャットに返信する。
 社員は二十人にも満たない大きくはない事務所。小さなビルのワンフロアだが、ここから受付は見えない造りだ。交代で受付を回していて、何かあればこうしてチャットが入るのだが、もう入社三年目の彼女が助けを求めるなんて余程のことだ。

【社長に来客なんですが、お約束がなくて。とにかく来てください】

 文章の最後に泣いている絵文字が入っているのが彼女らしい。そこまで切迫感はないと思いつつ私は受付に向かった。

「だから、淳一じゅんいちに会いに来ただけっつってんだろ」

 受付と言っても事務所のフロア続き。出入り口付近の一角をパーテーションで区切っただけのスペースだ。裏側から近づくと、面倒くさそうに言い放つ男性の声が聞こえた。高すぎず低すぎない艶のある良い声。残念なことにかなり不機嫌そうではあるが。

「ですから……社長はただいま外出中で。連絡が取れるまでお待ちいただければ……」
「はぁ?」

 これは確かに面倒な来客だ。珍しく後輩の本田さんが感情的、たぶん半泣きになっている。誰かは知らないが、アポなしで来社した上に社長に無理矢理会わせろとは……。軽く深呼吸をすると、私は受付に出た。

「お客様。何かございましたでしょうか」

 そう言いながら相手を見上げて、私は一瞬息を飲んだ。
 まず目に飛び込んできたのはその身長。おそらく一八五センチほどありそうだ。一七五ある社長も低いほうではないが、それよりまだ目線が上になるくらいに高い。
 そして何よりその顔。モデルなのかと思うほど整っている。少し日本人離れした色素の薄い髪に瞳。その額にかかる、緩くウェーブのかかったフワッとした栗色の髪を面倒くさそうに掻き上げている。そして色気のある美しい顔を顰めて、私を睨みつけるような視線を寄越した。

「何? お前が話し通してくれんの?」

 これじゃクレーマーだと思われても仕方がないのでは? と溜め息を漏らしそうになるのを堪える。

「社長へは私が連絡を入れます。まさかアポなし訪問とはおっしゃいませんよね。いくらご友人でも常識がないのでは? ……長門ながとつかさ様?」

 朝っぱらから揉め事を起こした上に日頃の鬱憤もあり、私は先制攻撃とばかりに嫌味を込めて笑顔を作り放った。

「あぁ? お前、誰だよ」

 長門さんはいっそう不機嫌そうに顔を顰めている。それもそのはず。私たちは初対面で、私が一方的に顔を知っているだけだ。ただし、すでに仕事上の付き合いはあるのだ。この二ヶ月の間、私の仕事を日に日に増やし続けている張本人なのだから。

「失礼しました。初めまして。長門様の担当をしております長森ながもり瑤子ようこと申します」
「長森……瑤子……?」

 思い出しているのか私の名前を反芻するように呟くと、途端に顔を顰めた。

「お前か。俺が送った英文のメールに英文で返してきた可愛げのない女は!」
「ええ。日本語をお忘れになったのかと思い、拙いながら英文でお返しした可愛げのない女は私です」

 演技がかった口調でにっこりと笑顔を浮かべて私は返す。
 別にこれしきの嫌味くらいどうってことはない。私は言われる通り可愛げなど持ち合わせていない。
 見た目だってそう。シンプルな白いブラウスにブラックのパンツスーツ。化粧は最低限で、染めたことのない背中まで届く黒髪は無造作に一つにまとめているだけ。表情を隠すかのような長めの前髪に加え、トレードマークのように大きな黒縁眼鏡を掛けている。
 これが私の戦闘服。いや、鎧、なのだから。
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