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3.お見合い相手はいったい誰?
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「えっと、食べよう! うん」
自分に言い聞かせるように声を上げて席に座ると、私はワザとらしく皿を手にいっちゃんに尋ねる。
「いっちゃんはどれにする?」
まだ立ったままのいっちゃんはそれを聞いて「はーっ」息を吐きながら椅子にどかっと座った。
「先に与織子が好きなの食え」
そう言うと、いっちゃんはスマホの画面をチラ見してから手にした。
「悪い。ちょっと呼び出し。外に出てくる」
「え。うん、いってらっしゃい」
いっちゃんは慌ただしくスマホだけ手に持つと、さっさと出口に向かって行ってしまった。
それにしても……。主任はやっぱりイケメンだったんだな、とさっき見た姿を思い出す。普段とあまりに違うから驚いたけど。けど、社内の女性社員に騒がれたりしてないのは、やっぱりお世辞にも愛想がいいとは言えない性格だからだろうか。
そんなことを思いながら、私は一口サイズの苺のショートケーキを口に運んだ。
「あ、そうだ」
不意に、さっき見かけた綺麗な人を思い出して私はスマホを手にする。確か……バレーボール選手のミオ様って言ってたな、と思いながら検索してみると、すぐに出てきた。
枚田澪さん。30才。3年前に怪我が元で現役引退。それまでは全日本の選手にも選ばれててオリンピック経験もあるセッター。所属していたプロチームは……。
「えっ?旭河本社?」
私が見たことあると思ったのは、きっとテレビでなんだと思う。それにしても、まさかこんなところで接点があるなんて。と言っても、私はしがないグループ会社なんだけど。
いっちゃんは知ってるのかな?と思ったけど、本社は本社でたくさん社員がいるだろうし、そもそもスポーツ選手と交流があるのかもわからない。
また聞いてみよ、と思いながらスマホを置くと次のケーキを口に運ぶ。今度は苺のタルト。さっきのも美味しかったけど、これも絶品だ。
一人ニコニコ笑いながら頬張っていると、いっちゃんが戻って来た。なんだかさっきより難しい顔をして椅子に座ると、もうすっかり冷めた紅茶を流し込んでいる。
「いっちゃん? どうしたの? 何かトラブル?」
会社では部長をしてるくらいなんだから、休みの日だって仕事の連絡が入ることがあるかも知れない。心配になってそう尋ねると、いっちゃんは深い溜め息と共に口を開いた。
「次の見合いの日程決まったから。5月3日だ」
私はそれを聞いて目を丸くする。
それって……。来週の火曜日、だよね?
なんだかモヤモヤしたまま家に帰り、鶴さんの作った晩御飯を食べているころ、ふう君とみー君が帰ってきた。2人ともご機嫌で、お土産もたくさん買ってきてくれたけど、私の気持ちは晴れない。
私がお見合いする理由って、いったいなんなんだろう? それに相手のことも結局わからず仕舞いだった。
せっかくの連休をそんなことを考えながら過ごして、そして早くも月曜日がやってきた。
「おはようございます……」
いつもより閑散とした社内。でも、主任だけはいつもと変わらず難しい顔をして、早々にパソコンに向かっていた。
「おはよう。早速で悪いが、今日は俺の仕事を手伝ってもらうからそのつもりで」
この前会ったことなど忘れているかのように主任は至っていつもの調子で素っ気なく言う。
「は、はい!」
私はそう返事をして、席に着くとパソコンを立ち上げいつも使う文房具を取り出した。
「そうだ朝木。金曜は休むだろう? 休暇の申請はしたか?」
マウスを動かしながら、こちらを見ることもなくそう言う主任に向いて「まだです。本当に休んでもいいんですか?」と私は尋ねた。
「清田が出てくるから大丈夫だ。それに、今日で重要な仕事は終わらせる」
「じゃあ……お言葉に甘えます」
私が控えめに小さな声でそう言うと、主任は顔を上げ私のほうを見た。
「申請のしかた、知らないだろ?」
そう言って主任はキャスターの付いている椅子ごと私のほうに寄ってきた。
「ひぁっ!」
私のパソコンの画面を覗き込む主任の顔が間近にある。なんだか一方的に意識してしまって、私の口から変な声が漏れた。
「なんだ?」
訝しげに私を見て尋ねる主任と目が合うと、余計に意識してしまい思わずそっぽを向いてしまった。
「このファルダに申請用紙が入っている。これに入力して、課長に電子決裁で送ればいい。……って聞いてるのか?」
画面を見ているようで見ていない私の耳に、主任の低音ボイスが響く。
「きっ、聞いておりましゅ!」
慌てて答えて最後は噛んだ。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいくらいだ。たぶん、顔を真っ赤にしている私を、少し驚いたように見てから主任は「ふっ」と息を漏らした。かと思うと、主任はそのまま俯き肩を揺らしている。
「ふ、ははっ! おりましゅって!」
その声は明らかに笑っている。それも、見たことないくらいに。
「主任! そんなに笑わないで下さい!」
私の抗議に顔を上げた主任は、それはそれは可愛い顔して笑っていた。
自分に言い聞かせるように声を上げて席に座ると、私はワザとらしく皿を手にいっちゃんに尋ねる。
「いっちゃんはどれにする?」
まだ立ったままのいっちゃんはそれを聞いて「はーっ」息を吐きながら椅子にどかっと座った。
「先に与織子が好きなの食え」
そう言うと、いっちゃんはスマホの画面をチラ見してから手にした。
「悪い。ちょっと呼び出し。外に出てくる」
「え。うん、いってらっしゃい」
いっちゃんは慌ただしくスマホだけ手に持つと、さっさと出口に向かって行ってしまった。
それにしても……。主任はやっぱりイケメンだったんだな、とさっき見た姿を思い出す。普段とあまりに違うから驚いたけど。けど、社内の女性社員に騒がれたりしてないのは、やっぱりお世辞にも愛想がいいとは言えない性格だからだろうか。
そんなことを思いながら、私は一口サイズの苺のショートケーキを口に運んだ。
「あ、そうだ」
不意に、さっき見かけた綺麗な人を思い出して私はスマホを手にする。確か……バレーボール選手のミオ様って言ってたな、と思いながら検索してみると、すぐに出てきた。
枚田澪さん。30才。3年前に怪我が元で現役引退。それまでは全日本の選手にも選ばれててオリンピック経験もあるセッター。所属していたプロチームは……。
「えっ?旭河本社?」
私が見たことあると思ったのは、きっとテレビでなんだと思う。それにしても、まさかこんなところで接点があるなんて。と言っても、私はしがないグループ会社なんだけど。
いっちゃんは知ってるのかな?と思ったけど、本社は本社でたくさん社員がいるだろうし、そもそもスポーツ選手と交流があるのかもわからない。
また聞いてみよ、と思いながらスマホを置くと次のケーキを口に運ぶ。今度は苺のタルト。さっきのも美味しかったけど、これも絶品だ。
一人ニコニコ笑いながら頬張っていると、いっちゃんが戻って来た。なんだかさっきより難しい顔をして椅子に座ると、もうすっかり冷めた紅茶を流し込んでいる。
「いっちゃん? どうしたの? 何かトラブル?」
会社では部長をしてるくらいなんだから、休みの日だって仕事の連絡が入ることがあるかも知れない。心配になってそう尋ねると、いっちゃんは深い溜め息と共に口を開いた。
「次の見合いの日程決まったから。5月3日だ」
私はそれを聞いて目を丸くする。
それって……。来週の火曜日、だよね?
なんだかモヤモヤしたまま家に帰り、鶴さんの作った晩御飯を食べているころ、ふう君とみー君が帰ってきた。2人ともご機嫌で、お土産もたくさん買ってきてくれたけど、私の気持ちは晴れない。
私がお見合いする理由って、いったいなんなんだろう? それに相手のことも結局わからず仕舞いだった。
せっかくの連休をそんなことを考えながら過ごして、そして早くも月曜日がやってきた。
「おはようございます……」
いつもより閑散とした社内。でも、主任だけはいつもと変わらず難しい顔をして、早々にパソコンに向かっていた。
「おはよう。早速で悪いが、今日は俺の仕事を手伝ってもらうからそのつもりで」
この前会ったことなど忘れているかのように主任は至っていつもの調子で素っ気なく言う。
「は、はい!」
私はそう返事をして、席に着くとパソコンを立ち上げいつも使う文房具を取り出した。
「そうだ朝木。金曜は休むだろう? 休暇の申請はしたか?」
マウスを動かしながら、こちらを見ることもなくそう言う主任に向いて「まだです。本当に休んでもいいんですか?」と私は尋ねた。
「清田が出てくるから大丈夫だ。それに、今日で重要な仕事は終わらせる」
「じゃあ……お言葉に甘えます」
私が控えめに小さな声でそう言うと、主任は顔を上げ私のほうを見た。
「申請のしかた、知らないだろ?」
そう言って主任はキャスターの付いている椅子ごと私のほうに寄ってきた。
「ひぁっ!」
私のパソコンの画面を覗き込む主任の顔が間近にある。なんだか一方的に意識してしまって、私の口から変な声が漏れた。
「なんだ?」
訝しげに私を見て尋ねる主任と目が合うと、余計に意識してしまい思わずそっぽを向いてしまった。
「このファルダに申請用紙が入っている。これに入力して、課長に電子決裁で送ればいい。……って聞いてるのか?」
画面を見ているようで見ていない私の耳に、主任の低音ボイスが響く。
「きっ、聞いておりましゅ!」
慌てて答えて最後は噛んだ。恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいくらいだ。たぶん、顔を真っ赤にしている私を、少し驚いたように見てから主任は「ふっ」と息を漏らした。かと思うと、主任はそのまま俯き肩を揺らしている。
「ふ、ははっ! おりましゅって!」
その声は明らかに笑っている。それも、見たことないくらいに。
「主任! そんなに笑わないで下さい!」
私の抗議に顔を上げた主任は、それはそれは可愛い顔して笑っていた。
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