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5.偽物は偽物でしかないのです
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入社して2回目の月初は思いの外忙しい。朝にはまだ少なかった問い合わせの電話やメールは時間が経つにつれ増えて行き、そうしているうち届けられた郵便物を開封して、としているうちに昼になった。もちろん今日は清田さんも出勤しているから、2人でお弁当を囲んでいる。
「与織子ちゃんは連休どこかへ行ったの?」
「……いえ、特に遠出は……」
出社した人の中にはお土産を持ってきている人もいた。中には海外旅行、なんて人もいるなか、どこにも行っていない私はお土産を受け取るばかりだった。
「私もこのお腹でしょ? 長時間座ってるのも苦しくて結局近所で買い物したくらいなのよ」
「もう1ヵ月後には産休に入るんですよね。寂しいです」
私はお箸を持つ手を止めしんみりてしてしまう。こうやっておしゃべりしながらお弁当を食べるのもあと少しだ。
「そうね。私も寂しいな。何かあればいつでも相談してね?」
そう言って微笑む清田さんは、すでにお母さんのような雰囲気を醸し出している。
「はい。ありがとうございます」
私はそう答えてからまたご飯を口に運び始めた。
「それにしても与織子ちゃん。水臭いな?」
私がせっせとお弁当を食べていると、清田さんはニコニコしながらそう言った。
「え? 何かありました?」
そんなことを言われる心当たりがなくて、ポカンとしたまま清田さんに尋ねる。
「川村君と、いつの間に付き合い始めたの?」
「んんっ!!」
危うく喉にご飯を詰まらせそうになり、慌てて水筒のお茶を流し込んでから、私ははぁっと息を吐いた。
「なっ、なんで⁈ いったいどれを見てたんですか⁈」
狼狽えながら尋ねると、清田さんは穏やかな顔のまま笑っている。
「あらあら。どれって言うくらいお休みの間デートしてたのね? どうりで金曜日、川村君の機嫌がいいと思った」
清田さんにそんなことを言われ、私はその場で固まっていた。
「どっ、どうか、この話はご内密に!」
我に返り清田さんにお願いすると、「わかってる。誰にも言ってないわよ?」とニコニコした笑顔が返ってきた。
お弁当を食べ終え、先に清田さんには席に戻ってもらい、私は自動販売機に向かいながら、溜め息を吐く。
それにしても……。創ちゃんの『それらしく振る舞おう作戦』は、早速効果があったようだ。私達がいくら婚約しましたと上に報告したところで誰も信じない。周りからじわじわと噂してもらうのが一番だろう、と。
だから今日も一緒に出社したし、帰りもできたら一緒に退社して、周りに付き合ってるアピールをしなきゃいけないのだ。
そしてとにかく今日は、なんとしても社長と専務に婚約の報告をしておきたい、と言うのが創ちゃんの願いだった。
こんな面倒事は早く終わらせて気楽になるに限るよ!
一人頷きながら自動販売機でミルクティーを買い、取り出しているとミニバックに入れていたスマホが小さく鳴り始めた。
「朝木ですっ!」
『俺だ。今どこだ?』
「自販機のところです」
『じゃあ社長室の前で待ってる』
「……はい」
その用件のみで電話は切れ、画面に視線を落としたまま、私はまた溜め息を吐いた。
業務連絡にもほどがあるよ! ほんとに!
創ちゃんは、時々突然恋人かな? ってくらい甘くなるのに、普段は仕事の鬼的な何かを醸し出す。
本当の恋人じゃないし、仕方ないよね。だって私は偽物だし、枚田さんのように創ちゃんに抱きつく権利もないのだから。
トボトボと社長室に向かうと、少し手前で創ちゃんが待っていた。仕事用のスーツに黒縁眼鏡。休みの日には上げている前髪は、今は表情を隠すように下されている。私が入社してからその姿は変わらない。
でも……
「与織子」
そう私を呼んで笑みを浮かべた創ちゃんは、前とは違う。
私はそれを、嬉しく思う反面、悲しくもなっていた。
「与織子ちゃんは連休どこかへ行ったの?」
「……いえ、特に遠出は……」
出社した人の中にはお土産を持ってきている人もいた。中には海外旅行、なんて人もいるなか、どこにも行っていない私はお土産を受け取るばかりだった。
「私もこのお腹でしょ? 長時間座ってるのも苦しくて結局近所で買い物したくらいなのよ」
「もう1ヵ月後には産休に入るんですよね。寂しいです」
私はお箸を持つ手を止めしんみりてしてしまう。こうやっておしゃべりしながらお弁当を食べるのもあと少しだ。
「そうね。私も寂しいな。何かあればいつでも相談してね?」
そう言って微笑む清田さんは、すでにお母さんのような雰囲気を醸し出している。
「はい。ありがとうございます」
私はそう答えてからまたご飯を口に運び始めた。
「それにしても与織子ちゃん。水臭いな?」
私がせっせとお弁当を食べていると、清田さんはニコニコしながらそう言った。
「え? 何かありました?」
そんなことを言われる心当たりがなくて、ポカンとしたまま清田さんに尋ねる。
「川村君と、いつの間に付き合い始めたの?」
「んんっ!!」
危うく喉にご飯を詰まらせそうになり、慌てて水筒のお茶を流し込んでから、私ははぁっと息を吐いた。
「なっ、なんで⁈ いったいどれを見てたんですか⁈」
狼狽えながら尋ねると、清田さんは穏やかな顔のまま笑っている。
「あらあら。どれって言うくらいお休みの間デートしてたのね? どうりで金曜日、川村君の機嫌がいいと思った」
清田さんにそんなことを言われ、私はその場で固まっていた。
「どっ、どうか、この話はご内密に!」
我に返り清田さんにお願いすると、「わかってる。誰にも言ってないわよ?」とニコニコした笑顔が返ってきた。
お弁当を食べ終え、先に清田さんには席に戻ってもらい、私は自動販売機に向かいながら、溜め息を吐く。
それにしても……。創ちゃんの『それらしく振る舞おう作戦』は、早速効果があったようだ。私達がいくら婚約しましたと上に報告したところで誰も信じない。周りからじわじわと噂してもらうのが一番だろう、と。
だから今日も一緒に出社したし、帰りもできたら一緒に退社して、周りに付き合ってるアピールをしなきゃいけないのだ。
そしてとにかく今日は、なんとしても社長と専務に婚約の報告をしておきたい、と言うのが創ちゃんの願いだった。
こんな面倒事は早く終わらせて気楽になるに限るよ!
一人頷きながら自動販売機でミルクティーを買い、取り出しているとミニバックに入れていたスマホが小さく鳴り始めた。
「朝木ですっ!」
『俺だ。今どこだ?』
「自販機のところです」
『じゃあ社長室の前で待ってる』
「……はい」
その用件のみで電話は切れ、画面に視線を落としたまま、私はまた溜め息を吐いた。
業務連絡にもほどがあるよ! ほんとに!
創ちゃんは、時々突然恋人かな? ってくらい甘くなるのに、普段は仕事の鬼的な何かを醸し出す。
本当の恋人じゃないし、仕方ないよね。だって私は偽物だし、枚田さんのように創ちゃんに抱きつく権利もないのだから。
トボトボと社長室に向かうと、少し手前で創ちゃんが待っていた。仕事用のスーツに黒縁眼鏡。休みの日には上げている前髪は、今は表情を隠すように下されている。私が入社してからその姿は変わらない。
でも……
「与織子」
そう私を呼んで笑みを浮かべた創ちゃんは、前とは違う。
私はそれを、嬉しく思う反面、悲しくもなっていた。
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