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5.偽物は偽物でしかないのです
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創ちゃんが社長室のドアをノックしているのを、私は横から眺める。そういえば、社長室に入るのはこれが初めてだ。中から返事が聞こえ、創ちゃんはドアを開けるといつもの感情の読み取れない顔のまま入って行った。
「お寛ぎのところ、お時間をいただきありがとうございます」
創ちゃんのあとに続いて中に入ると、すぐ目の前の応接セットには社長と専務が向かい合ってコーヒーを飲んでいた。テーブルには松花堂弁当の木箱が置いてあり、さっきまで食事をとっていたのがわかる。
「改まって話とはなんだい?」
コーヒーカップ片手に社長は創ちゃんを見上げる。その顔はどこか訝しげだ。
それにしても、社長と専務は本当に似てない。社長はそう背が高いわけでもないけど横には大きい。どこか焼き物のタヌキを彷彿とさせる。専務のほうは、それなり背が高く細身。目が細くて、ちょっとキツネっぽい。親子だと聞いたときはそれなりに驚いたものだ。
「朝木さんまで一緒とは、何かトラブルでも?」
細い目をいっそう細くして、鋭い目つきで専務も私達を見上げ言う。
「私がついているのに社長に報告するようなトラブルなど起こりえません」
創ちゃんは少しムッとしたようにぶっきらぼうに答えから続けた。
「プライベートなことですが、まず社長と専務にはお伝えしておこうと思いまして」
わざと明るめの口調でそう言う創ちゃんに、社長と専務は眉を顰めている。
「プライベート?」
「ええ。この度、私川村と、ここにいる朝木与織子は婚約いたしました」
創ちゃんの少し後ろに控えていた私に2人の視線が向き、慌てて私は一礼した。それから顔を上げると、向こう側には口を開けて唖然としたままの社長と専務の顔が見えた。
「なっ! なんだと⁈」
我に返ったのか、社長は荒げた声を上げる。
「何か問題でも?」
そんな社長に臆することなく、創ちゃんは涼しい顔で返している。
ちょっと……いや、かなり怖かった。
「も……問題はないが、それは正式な話かね? まさか君の作り話じゃないだろうな」
慌てふためくように社長はそんなことを言い出す。それに乗っかるように専務も続いた。
「そうだ。朝木さん、彼氏いないって言ってただろ? なのに急に婚約だなんておかしいだろう!」
あまりにもこの婚約に反対している様子の2人に、やっぱり何か思惑があったんだと思わずにいられない。けれど、私がまごまごしているのを他所に、創ちゃんはいたって冷静だ。
「もちろん正式な婚約です。然るべき時期に、然るべき場所で、発表する手筈は整っています」
そんな話……初めて聞きましたが……?
私がポカンとしてどうすると思いながらも、唖然としたまま創ちゃんを見てしまった。けど、社長も専務もそんな私に気づいてないようだ。お互い下を向いて何か考えていた。
「然るべき時期……」
社長は難しい顔をして小さく口にしている。
もしかして、思い当たる節でもあるんだろうか? ……私にはないんだけど。
「とりあえず報告だけと思いましたので今日はこれで失礼します」
淡々とそう告げる創ちゃんに、ハッとしたように2人は顔を上げ複雑そうな顔を見せている。
「どうやら祝福いただけないようで残念です」
言葉とは裏腹に、創ちゃんはそう言って笑みを浮かべた。それを見て顔を引き攣らせた社長は「そっ、そんなことはない。おめでとう川村君、朝木君」と、取ってつけたように述べた。
「あっ、ありがとうございます」
私はそれらしくお礼を言ってお辞儀をする。それを見届けた創ちゃんに「行こう。与織子」と促され、背中に手を添えられた。そのまま後ろを向き、扉に向かっていると思い出したように創ちゃんは立ち止まる。
「結婚式の招待状が出来上がったら、またお持ちします。社長にも専務にも、ぜひ参列いただきたいですし」
顔だけ後ろに向けそう言う創ちゃんは、これ以上ないくらい楽しそうだ。
この寸劇が上手くいって喜んでるのかな?
私は背中に創ちゃんからの熱を感じながらそんなことを思っていた。
「お寛ぎのところ、お時間をいただきありがとうございます」
創ちゃんのあとに続いて中に入ると、すぐ目の前の応接セットには社長と専務が向かい合ってコーヒーを飲んでいた。テーブルには松花堂弁当の木箱が置いてあり、さっきまで食事をとっていたのがわかる。
「改まって話とはなんだい?」
コーヒーカップ片手に社長は創ちゃんを見上げる。その顔はどこか訝しげだ。
それにしても、社長と専務は本当に似てない。社長はそう背が高いわけでもないけど横には大きい。どこか焼き物のタヌキを彷彿とさせる。専務のほうは、それなり背が高く細身。目が細くて、ちょっとキツネっぽい。親子だと聞いたときはそれなりに驚いたものだ。
「朝木さんまで一緒とは、何かトラブルでも?」
細い目をいっそう細くして、鋭い目つきで専務も私達を見上げ言う。
「私がついているのに社長に報告するようなトラブルなど起こりえません」
創ちゃんは少しムッとしたようにぶっきらぼうに答えから続けた。
「プライベートなことですが、まず社長と専務にはお伝えしておこうと思いまして」
わざと明るめの口調でそう言う創ちゃんに、社長と専務は眉を顰めている。
「プライベート?」
「ええ。この度、私川村と、ここにいる朝木与織子は婚約いたしました」
創ちゃんの少し後ろに控えていた私に2人の視線が向き、慌てて私は一礼した。それから顔を上げると、向こう側には口を開けて唖然としたままの社長と専務の顔が見えた。
「なっ! なんだと⁈」
我に返ったのか、社長は荒げた声を上げる。
「何か問題でも?」
そんな社長に臆することなく、創ちゃんは涼しい顔で返している。
ちょっと……いや、かなり怖かった。
「も……問題はないが、それは正式な話かね? まさか君の作り話じゃないだろうな」
慌てふためくように社長はそんなことを言い出す。それに乗っかるように専務も続いた。
「そうだ。朝木さん、彼氏いないって言ってただろ? なのに急に婚約だなんておかしいだろう!」
あまりにもこの婚約に反対している様子の2人に、やっぱり何か思惑があったんだと思わずにいられない。けれど、私がまごまごしているのを他所に、創ちゃんはいたって冷静だ。
「もちろん正式な婚約です。然るべき時期に、然るべき場所で、発表する手筈は整っています」
そんな話……初めて聞きましたが……?
私がポカンとしてどうすると思いながらも、唖然としたまま創ちゃんを見てしまった。けど、社長も専務もそんな私に気づいてないようだ。お互い下を向いて何か考えていた。
「然るべき時期……」
社長は難しい顔をして小さく口にしている。
もしかして、思い当たる節でもあるんだろうか? ……私にはないんだけど。
「とりあえず報告だけと思いましたので今日はこれで失礼します」
淡々とそう告げる創ちゃんに、ハッとしたように2人は顔を上げ複雑そうな顔を見せている。
「どうやら祝福いただけないようで残念です」
言葉とは裏腹に、創ちゃんはそう言って笑みを浮かべた。それを見て顔を引き攣らせた社長は「そっ、そんなことはない。おめでとう川村君、朝木君」と、取ってつけたように述べた。
「あっ、ありがとうございます」
私はそれらしくお礼を言ってお辞儀をする。それを見届けた創ちゃんに「行こう。与織子」と促され、背中に手を添えられた。そのまま後ろを向き、扉に向かっていると思い出したように創ちゃんは立ち止まる。
「結婚式の招待状が出来上がったら、またお持ちします。社長にも専務にも、ぜひ参列いただきたいですし」
顔だけ後ろに向けそう言う創ちゃんは、これ以上ないくらい楽しそうだ。
この寸劇が上手くいって喜んでるのかな?
私は背中に創ちゃんからの熱を感じながらそんなことを思っていた。
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