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7.和を以て……いったいどうなる?
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創ちゃんと思いが通じ合ったその翌週、月曜日。
私たちには、出勤してまず一番にすることがあった。
「清田さん、本当にご心配とご迷惑をおかけしました!」
始業時間の前。出勤して来た清田さんを捕まえると、創ちゃんとともに人の目の少ない場所に移動した。
そして、何事かと目を丸くしている清田さんに、私は真っ先にこう言って謝ったのだ。
「いいのよ! 与織子ちゃんが元気になってくれてよかったわ。あのまま産休に入ってたらモヤモヤしかしないもの」
そう言って清田さんは明るく笑い飛ばしてくれ、私はホッとしていた。
そう。清田さんは明後日からとうとう産休に入ってしまう。明日が休みに入る前の最後の出社日なのだ。
「それにしても、川村君と一緒ってことは上手くいったのね? 与織子ちゃんにも見せたかったわ! 落ち込んでどんよりした川村君の顔!」
とにかく、面白いものを見たとばかりに笑っている清田さんと、憮然とした創ちゃんの対比は凄い。
「でも、本当に安心した。川村君の片思いのまま終わっちゃうのかと思った!」
笑いすぎたのか涙を浮かべて言う清田さんに、私は「えっ? 何か聞いてたんですか?」と尋ねる。
「ううん? でも、さすがに何年も同期してたら、与織子ちゃんにだけ態度違うのわかっちゃって!」
「清田……もういいだろ……」
そう返す創ちゃんは、私が見ても照れているのが丸わかりの赤い顔。
「やあだ! 川村君、そんな顔して! 休み前に面白い餞別もらっちゃった!」
大きなお腹ごと体を揺らして笑っている清田さんを見ながら、本当に良かった……と私は思っていた。
それからは、しばらく平和に過ごした。
清田さんからしっかり引き継ぎを受けていたおかげで、人数は減ったものの仕事はスムーズだった。
残念ながら創ちゃんは実家の都合で忙しくなったと、一緒に帰る日は少なくなってしまい、平日デートは激減し休日のみとなった。その代わり、と言うか、澪さんのたっての希望で、澪さんが平日の夜うちに来てくれるようになった。
一緒にご飯を作って食べたり、買い物へ行ったり。欲しくても叶わなかったお姉ちゃんができた気分だ。澪さんも澪さんで、「私一人っ子だし、身近には創しかいなかったから、女の子と遊ぶの楽しいわぁ!」と喜んでくれていた。
そんな風に楽しく過ごした約1カ月。
ある日突然、それが崩壊するなんて……思ってもいなかった。
◆◆
7月最初の木曜日。
昨日までに月初の発送作業は終わらせていたその日。朝早くに創ちゃんから、『今日は一緒に出社できない』とメッセージが届いていた。
創ちゃんとは、変わらずほぼ毎日一緒に通勤していた。ただ、時々仕事の都合などで一緒に行けない日もあって、今日もそうなんだと気にも留めていなかった。
けれど……
「あれ?」
私は出社後、自席ではなくその左隣を見て思わずそう呟いてしまう。
そこは創ちゃんの席。いつもなら、私が出社したときには、席に姿がなくても、いた気配だけは残っている。仕掛けの書類、無造作に置かれた文房具、つけっぱなしのパソコン。
なのに、今日は帰る前のように、いや、昨日帰る前の状態のままだ。
「おはよう。朝木さん!」
呆然と立ったままの私の元に、人畜無害な笑顔でやって来たのは鈴木課長だ。清田さんが『課長って、良く言うと人当たりはよさそうだけど、悪く言うと頼りないのよねぇ』とぼやいていたのは聞いたことがある。確かに、課長はいまいち仕事ができる人なのか、そうじゃないのか掴めない。困ったことがあるとすぐ創ちゃんに相談している姿なら何度も見たことはあるが。
「あ、おはようございます」
慌てて私が挨拶を返すと、課長は笑みを浮かべて続けた。
「今日、川村君休みだって」
「え? 休み……ですか?」
そんなこと、一言も言ってなかった。でも家を出てからここまで、メッセージは確認していない。何か急用? と思いながらも腑に落ちない。
「あれ? 僕は専務からそう聞いてるけど?」
複雑そうな顔をしている私に、課長は不思議そうにそう言う。
私と創ちゃんが付き合っていると言う噂は、たぶん課長の耳にも届いているはずだ。だからこそ、聞いてないの? という顔になったのだと思う。
「そ、そういえば、そうでしたね! 忘れてました」
取り繕うようにそう返すと、課長はまた続けた。
「それで、川村君が休んでる代わりに、朝木さんに仕事頼みたいって。……専務が」
私はそれに、弾かれたように無言で顔を上げる。
「専務が……ですか?」
「そうそう。どうしても頼みたい仕事があるんだって。よろしく!」
課長はそれだけ言うと、自分の仕事は終わったとばかりに自席に戻っていった。
今まで専務が私たちに直接仕事を頼んでくるなんてことはなかったはずだ。なのに、創ちゃん不在のこのタイミングで、仕事を頼んでくるなんて……。
私は自席の椅子にバッグを置くとスマホを取り出す。急いで画面を見ても、やっぱりそこには、何のメッセージも届いていなかった。
私たちには、出勤してまず一番にすることがあった。
「清田さん、本当にご心配とご迷惑をおかけしました!」
始業時間の前。出勤して来た清田さんを捕まえると、創ちゃんとともに人の目の少ない場所に移動した。
そして、何事かと目を丸くしている清田さんに、私は真っ先にこう言って謝ったのだ。
「いいのよ! 与織子ちゃんが元気になってくれてよかったわ。あのまま産休に入ってたらモヤモヤしかしないもの」
そう言って清田さんは明るく笑い飛ばしてくれ、私はホッとしていた。
そう。清田さんは明後日からとうとう産休に入ってしまう。明日が休みに入る前の最後の出社日なのだ。
「それにしても、川村君と一緒ってことは上手くいったのね? 与織子ちゃんにも見せたかったわ! 落ち込んでどんよりした川村君の顔!」
とにかく、面白いものを見たとばかりに笑っている清田さんと、憮然とした創ちゃんの対比は凄い。
「でも、本当に安心した。川村君の片思いのまま終わっちゃうのかと思った!」
笑いすぎたのか涙を浮かべて言う清田さんに、私は「えっ? 何か聞いてたんですか?」と尋ねる。
「ううん? でも、さすがに何年も同期してたら、与織子ちゃんにだけ態度違うのわかっちゃって!」
「清田……もういいだろ……」
そう返す創ちゃんは、私が見ても照れているのが丸わかりの赤い顔。
「やあだ! 川村君、そんな顔して! 休み前に面白い餞別もらっちゃった!」
大きなお腹ごと体を揺らして笑っている清田さんを見ながら、本当に良かった……と私は思っていた。
それからは、しばらく平和に過ごした。
清田さんからしっかり引き継ぎを受けていたおかげで、人数は減ったものの仕事はスムーズだった。
残念ながら創ちゃんは実家の都合で忙しくなったと、一緒に帰る日は少なくなってしまい、平日デートは激減し休日のみとなった。その代わり、と言うか、澪さんのたっての希望で、澪さんが平日の夜うちに来てくれるようになった。
一緒にご飯を作って食べたり、買い物へ行ったり。欲しくても叶わなかったお姉ちゃんができた気分だ。澪さんも澪さんで、「私一人っ子だし、身近には創しかいなかったから、女の子と遊ぶの楽しいわぁ!」と喜んでくれていた。
そんな風に楽しく過ごした約1カ月。
ある日突然、それが崩壊するなんて……思ってもいなかった。
◆◆
7月最初の木曜日。
昨日までに月初の発送作業は終わらせていたその日。朝早くに創ちゃんから、『今日は一緒に出社できない』とメッセージが届いていた。
創ちゃんとは、変わらずほぼ毎日一緒に通勤していた。ただ、時々仕事の都合などで一緒に行けない日もあって、今日もそうなんだと気にも留めていなかった。
けれど……
「あれ?」
私は出社後、自席ではなくその左隣を見て思わずそう呟いてしまう。
そこは創ちゃんの席。いつもなら、私が出社したときには、席に姿がなくても、いた気配だけは残っている。仕掛けの書類、無造作に置かれた文房具、つけっぱなしのパソコン。
なのに、今日は帰る前のように、いや、昨日帰る前の状態のままだ。
「おはよう。朝木さん!」
呆然と立ったままの私の元に、人畜無害な笑顔でやって来たのは鈴木課長だ。清田さんが『課長って、良く言うと人当たりはよさそうだけど、悪く言うと頼りないのよねぇ』とぼやいていたのは聞いたことがある。確かに、課長はいまいち仕事ができる人なのか、そうじゃないのか掴めない。困ったことがあるとすぐ創ちゃんに相談している姿なら何度も見たことはあるが。
「あ、おはようございます」
慌てて私が挨拶を返すと、課長は笑みを浮かべて続けた。
「今日、川村君休みだって」
「え? 休み……ですか?」
そんなこと、一言も言ってなかった。でも家を出てからここまで、メッセージは確認していない。何か急用? と思いながらも腑に落ちない。
「あれ? 僕は専務からそう聞いてるけど?」
複雑そうな顔をしている私に、課長は不思議そうにそう言う。
私と創ちゃんが付き合っていると言う噂は、たぶん課長の耳にも届いているはずだ。だからこそ、聞いてないの? という顔になったのだと思う。
「そ、そういえば、そうでしたね! 忘れてました」
取り繕うようにそう返すと、課長はまた続けた。
「それで、川村君が休んでる代わりに、朝木さんに仕事頼みたいって。……専務が」
私はそれに、弾かれたように無言で顔を上げる。
「専務が……ですか?」
「そうそう。どうしても頼みたい仕事があるんだって。よろしく!」
課長はそれだけ言うと、自分の仕事は終わったとばかりに自席に戻っていった。
今まで専務が私たちに直接仕事を頼んでくるなんてことはなかったはずだ。なのに、創ちゃん不在のこのタイミングで、仕事を頼んでくるなんて……。
私は自席の椅子にバッグを置くとスマホを取り出す。急いで画面を見ても、やっぱりそこには、何のメッセージも届いていなかった。
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