One night stand after〜俺様カメラマンと一夜限りの関係のはずが気付けば愛執に捕らわれていました〜

玖羽 望月

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早いもので、専属になって10日程が過ぎた。
週明けの午前中は特に何も無ければ事務所へ顔を出すことにしていて、今日は連休明けの火曜日。

「おはようございます」

そう言って私は事務所に入る。
時間は10時を回ったところ。専属の社員は元々事務所に来たり来なかったり時間もまちまちで、適当な時間にやって来ても誰も気にはしない。
ただ一点を除いて。

「あ、長門さん。お疲れ様です」

受け付け担当の女子社員が司の姿を見て立ち上がってお辞儀をする。

「お疲れ様」

よそゆきの顔の司にそう笑いかけられて、心なしか彼女はポーッとしているように見える。

と言うか……何の用事もないのにクライアント連れてくる専属なんていないんですけど?

今日も、電車でいいって言うのに車で送るって聞かなくて、そんなに時間かからないから車の中で待ってて言ったのに、事務所まで一緒に行くって聞かなかった。

何か、束縛されてるってより……最近は番犬連れて歩いてるような気分になってきた。

司は遠慮なく社長室に入って行き、私は自席に向かう。
溜まった郵便物を確認して、その他机に残されたメモを回収する。
後は社長の予定を確認して…としていると茉紀さんがやって来た。

「おはよう。今日も長門の御守りお疲れ様!」

茉紀さんにそう言われて、御守り……確かに、何て思ってしまう。

「おはようございます。茉紀さんはどうですか?私の引き継ぎ先問題ないですか?」

司以外の担当していたクライアントは全て茉紀さんが引き継いでくれて、こちらとしては安心だ。

「あー、みんな瑤子がよかったっつってグダグダ言ってるわ~。本当失礼な話だよね!睦月にも言われたしさ!」

そこで岡田さんの名前が出て来て、ふふっと笑ってしまう。

「ですね。岡田さんもそう仰ってました」
「へー。そんな事まで話してるんだ。睦月と」

感心したように茉紀さんが言うのを聞いて、言わなかった方がよかった?と思ったが、

「まあ、長門の事は睦月に聞くのが一番だしね。それにアイツは長門と違っていい奴だし。どう?瑤子」

と茉紀さんにお勧められてしまう。

「岡田さんは~。いい人止まりかなぁ、っと」

正直に私がそう言うと、茉紀さんは盛大に吹き出して「睦月、哀れ!!」と大笑いしている。

そんなに?と爆笑を続ける茉紀さんを苦い顔して眺めていると、社長室の扉が開いて司が現れた。
そして、はたっと目が合うと何故かにっこり笑いかけられる。

「俺は次行くけど、お前いつまで事務所にいるつもり?」

次なんて無いでしょうがー!!

と心の中で思いながら、「はいっ!今すぐ出ます!」と鞄を引っ掴み立ち上がった。
茉紀さんは憐みの眼差しを私に向けて、「お疲れ~」と手を振っていた。

翌水曜日。
専属になってから2回目の撮影への同行だ。

正直緊張する。先週あった撮影で、司の本当の姿を知ってしまった……。
いや、知ってたけど。鬼だって。けど、仕事中が一番鬼だったんだと思い知った。

前に見たkyo君の時なんて、まだ可愛いものだったんだな、と改めて思う。
初めて司の撮影に入ると言うそのモデルさんは、私も雑誌で見かけたことのある人気の子だった。現場に入って来た時は、意気揚々としていたのに、撮影が進むに連れ、意気消沈に変わって行く。

なんたって……司のダメ出しが凄いから。

「おい!あと2mm目線下!指下ろすんじゃねーっ!違うっ!」

終始こんな感じで、終いに泣きそうになったモデルさんに、

「泣くんじゃねーよ!化粧が崩れるっ!」

とトドメの一発。

うっ……。そりゃ、その通りだけど、見てるこっちの胃に穴空きそう……

私はそんなことを思いながら、近くにいた撮影スタッフさんに、それとなく聞いてみると、

「え?司さん?いっつもこんな感じですよ?今日はまだ止めたって出てかないだけマシっす」

何て、さも当たり前のように返事が返って来た。

……怖っ!!


撮影はなんとか終わり、車に向かいながら司はまだブツブツ言っていた。

「あれくらいで音を上げるヤツなんか依頼して来んなっつーの」

そう言いながら運転席に乗り、助手席に乗る私の顔を見て、動きを止めた。

「どうした?顔色悪くないか?」

モデルさんに感情移入しちゃってツライなんて言えるわけない。それこそプロ失格だ。

「そ、そんな事ないよ?ちょっと緊張してただけで……」

顔を見せないように反対側を向こうとすると、横から手が伸びて来て司の方を向かされた。

「俺の事、嫌いになったか?」

さっきの勢いとは打って変わって、司の方がツラそうな顔に変わる。

「なってないっ!なってないから安心して!」

慌ててそう言うと、

「じゃ、何でそんな顔してたわけ?」

と、親指で私の唇をなぞりながら尋ねて来る。

「ちょっと……自分が怒鳴られてるみたいでツラくなってきちゃって。ごめんなさい!これからはちゃんと仕事として割り切るから!」

そう言う私の顔を見ながら、司は「はぁ~」と深く溜め息を一つ。

「そうだな。これからはそうしてくれ」

呆れたよね?本当、何やってんだろ私……

そう思ってると、フワッと唇が降って来た。

「毎回そんな顔見せられたら俺の方が無理。嫌になったんじゃないかって心臓持たねーわ」

私以上に辛そうな顔見せられて、なんだか……ちょっと……キュンとしてしまったのは秘密だ。

そんな事があっての、やって来た今日の撮影だった。
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