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5. 行き合いの空に広がる
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椅子からおもむろに立ち上がったジェイクが、私に顔を向ける。彼は感情を一切表さない顔で、私を見下ろしていた。
「ジェイ……ク……?」
掠れた声を絞り出して呼びかけるが、彼は答えず、冷たい視線を私に注いだままだった。私を助けようとする素振りなど微塵もなく、スーツのジャケットを脱ぐと、それを座っていた椅子の背もたれに無造作に掛けた。次に、きっちり締められていたネクタイと掛けている眼鏡を外し、テーブルに置く。そして最後に、丁寧に撫で付けられていたダークブラウンの髪を、手櫛で乱暴にくしゃくしゃにした。
そんな姿を見て、やはり似ていると思わずにはいられない。今まで隙のない格好をしていたのは、もしかしてそう思わせないためだったのだろうかと疑ってしまう。
「薬が効いてきたようだな。量は加減してある。まだ少し朦朧とする程度だろうが」
初めてはっきりと感情を露わにした表情。それはまるで、これから成し遂げることが成功したかのように、どこか嬉しそうだった。
「なぜ……こんなことを……」
私が辿々しく尋ねると、ジェイクは不愉快そうに眉を吊り上げて近づいてきた。
「それはお前が一番よくわかっているはずだろ?」
「私は、何も……」
震える声で小さく呟くと、ジェイクは怒りをあらわにした。
「しらばっくれても無駄だ。いいだろう。今から教えてやる」
そう吐き捨てると、ジェイクは私の手首を掴んで引き上げる。無理やり立たされそうになった身体はよろめき、テーブルにぶつかった。ガシャンと派手な音を立てて倒れたテーブルに目をやった彼から、苛立たしげな舌打ちが聞こえてくる。
ジェイクは、自分の身体を支えるのがやっとの私を、まるで荷物のように抱え上げた。そして、数歩先にあるベッドの上に乱暴に投げ出した。
「何……を……」
恐怖で身体が震える。この後何をされるのか、脳裏には最悪の場面しか浮かんでこなかった。
ジェイクはベッドに上がると、私の身体に膝を立てて跨がり、悠然と見下ろしてきた。
「お前には切り札になってもらう。……ルークを取り戻すために」
「取り……戻す?」
予想外の言葉に驚愕し、思わず繰り返してしまう。そんな私を見て、ジェイクはまた眉を顰めた。
「ルークは本来なら三年後、出向が終わればハワードの要職に就くはずだった。なのに突然、ハワードを離れてミヤフジに席を置くと言い出した。それも、祖母しか呼ばないはずの『イズミ』の名前を名乗って」
その顔に浮かんでいる感情は、一体何なのだろう。憎しみとは異なる、複雑なもの。それはきっと依澄さんでさえ知らない感情だろう。
凍りつきそうなほど冷たい顔を見つめながら、私はそう思った。
「ジェイ……ク……?」
掠れた声を絞り出して呼びかけるが、彼は答えず、冷たい視線を私に注いだままだった。私を助けようとする素振りなど微塵もなく、スーツのジャケットを脱ぐと、それを座っていた椅子の背もたれに無造作に掛けた。次に、きっちり締められていたネクタイと掛けている眼鏡を外し、テーブルに置く。そして最後に、丁寧に撫で付けられていたダークブラウンの髪を、手櫛で乱暴にくしゃくしゃにした。
そんな姿を見て、やはり似ていると思わずにはいられない。今まで隙のない格好をしていたのは、もしかしてそう思わせないためだったのだろうかと疑ってしまう。
「薬が効いてきたようだな。量は加減してある。まだ少し朦朧とする程度だろうが」
初めてはっきりと感情を露わにした表情。それはまるで、これから成し遂げることが成功したかのように、どこか嬉しそうだった。
「なぜ……こんなことを……」
私が辿々しく尋ねると、ジェイクは不愉快そうに眉を吊り上げて近づいてきた。
「それはお前が一番よくわかっているはずだろ?」
「私は、何も……」
震える声で小さく呟くと、ジェイクは怒りをあらわにした。
「しらばっくれても無駄だ。いいだろう。今から教えてやる」
そう吐き捨てると、ジェイクは私の手首を掴んで引き上げる。無理やり立たされそうになった身体はよろめき、テーブルにぶつかった。ガシャンと派手な音を立てて倒れたテーブルに目をやった彼から、苛立たしげな舌打ちが聞こえてくる。
ジェイクは、自分の身体を支えるのがやっとの私を、まるで荷物のように抱え上げた。そして、数歩先にあるベッドの上に乱暴に投げ出した。
「何……を……」
恐怖で身体が震える。この後何をされるのか、脳裏には最悪の場面しか浮かんでこなかった。
ジェイクはベッドに上がると、私の身体に膝を立てて跨がり、悠然と見下ろしてきた。
「お前には切り札になってもらう。……ルークを取り戻すために」
「取り……戻す?」
予想外の言葉に驚愕し、思わず繰り返してしまう。そんな私を見て、ジェイクはまた眉を顰めた。
「ルークは本来なら三年後、出向が終わればハワードの要職に就くはずだった。なのに突然、ハワードを離れてミヤフジに席を置くと言い出した。それも、祖母しか呼ばないはずの『イズミ』の名前を名乗って」
その顔に浮かんでいる感情は、一体何なのだろう。憎しみとは異なる、複雑なもの。それはきっと依澄さんでさえ知らない感情だろう。
凍りつきそうなほど冷たい顔を見つめながら、私はそう思った。
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