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番外編 〜巡る季節〜
秋.6
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「Cheers to their marriage!」
マンハッタンにあるステーキハウス。ハワードの拠点ビルも近いというその場所で、二人からの祝福を受けながらグラスを掲げた。
カジュアルな店で、多くの人で賑わっている。そう大きくない四角いテーブルの、右隣りが依澄さんで左がヘレン。そして向かいにジム。程よい距離感で、それぞれの声は十分聞こえてくる。テーブルには前菜やステーキが所狭しと並べられていて、それをつまみながら、まっさきに口を開いたのはジムだった。
「まさかここで、イズミのお祝いするなんて。僕、感動で涙が出そうです」
依澄さんはここに来るまでの道すがら、自分のことをボスと呼ぶ二人に、『イズミ』と呼んで欲しいと伝えていた。
そしてその通りに気軽に呼ぶジムの言葉に、不思議そうな表情をしたのに気づいたのか、依澄さんはこちらを向いた。
「仲間にお祝いごとがあるとき、いつもここに来ていたんだ」
「そうなのよ、エマ。最初はイズミがディレクターに昇進したときだったわね」
「そうだったな。ヘレンが秘書になって開口一番が、昇進祝いに行こう、だった。あれからずいぶん経つ」
懐かしそうな表情を浮かべて笑顔を交わし合う二人に、ちょっとしたジェラシーを感じてしまう。自分の知らない彼を知っていて、ずっと一緒に仕事をしてきた人。依澄さんより少し年上だと思うけど、とにかく綺麗な人だ。
けれど私たちを祝ってくれているのに、そんな心の狭いことを考えているなんて悟られたくない。笑顔で装いながら耳を傾けた。
「それからも何かしら理由を付けてここに来たが……。最後に祝ったのは、ジムの結婚が決まったときか。どうなんだ? 結婚生活は」
「もちろん順調ですよ! もう幸せってこういうことを言うんだなって!」
「そうか。それは良かったな。プロポーズまでずいぶんかかったし、少し心配だったんだ」
そういえば、5月に部下の結婚式があるとアメリカに帰国していたが、その相手はジムだったようだ。依澄さんが自分のことのように嬉しそうだったのを覚えている。
「いやぁ、心配無用ですよ。毎日充実してますって」
「そうね、毎日惚気話を聞かされるこっちの身になって欲しいけど。レオン……今のボスにも、なんとかしてくれって言われてるわよ?」
「えぇ⁈ 幸せをシェアしてるだけなのに~!」
「はいはい。レオンにもそう言っておくわ」
軽い調子の会話をする二人を楽しそうに眺めながら、ふと思い出したように依澄さんは切り出した。
マンハッタンにあるステーキハウス。ハワードの拠点ビルも近いというその場所で、二人からの祝福を受けながらグラスを掲げた。
カジュアルな店で、多くの人で賑わっている。そう大きくない四角いテーブルの、右隣りが依澄さんで左がヘレン。そして向かいにジム。程よい距離感で、それぞれの声は十分聞こえてくる。テーブルには前菜やステーキが所狭しと並べられていて、それをつまみながら、まっさきに口を開いたのはジムだった。
「まさかここで、イズミのお祝いするなんて。僕、感動で涙が出そうです」
依澄さんはここに来るまでの道すがら、自分のことをボスと呼ぶ二人に、『イズミ』と呼んで欲しいと伝えていた。
そしてその通りに気軽に呼ぶジムの言葉に、不思議そうな表情をしたのに気づいたのか、依澄さんはこちらを向いた。
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「そうなのよ、エマ。最初はイズミがディレクターに昇進したときだったわね」
「そうだったな。ヘレンが秘書になって開口一番が、昇進祝いに行こう、だった。あれからずいぶん経つ」
懐かしそうな表情を浮かべて笑顔を交わし合う二人に、ちょっとしたジェラシーを感じてしまう。自分の知らない彼を知っていて、ずっと一緒に仕事をしてきた人。依澄さんより少し年上だと思うけど、とにかく綺麗な人だ。
けれど私たちを祝ってくれているのに、そんな心の狭いことを考えているなんて悟られたくない。笑顔で装いながら耳を傾けた。
「それからも何かしら理由を付けてここに来たが……。最後に祝ったのは、ジムの結婚が決まったときか。どうなんだ? 結婚生活は」
「もちろん順調ですよ! もう幸せってこういうことを言うんだなって!」
「そうか。それは良かったな。プロポーズまでずいぶんかかったし、少し心配だったんだ」
そういえば、5月に部下の結婚式があるとアメリカに帰国していたが、その相手はジムだったようだ。依澄さんが自分のことのように嬉しそうだったのを覚えている。
「いやぁ、心配無用ですよ。毎日充実してますって」
「そうね、毎日惚気話を聞かされるこっちの身になって欲しいけど。レオン……今のボスにも、なんとかしてくれって言われてるわよ?」
「えぇ⁈ 幸せをシェアしてるだけなのに~!」
「はいはい。レオンにもそう言っておくわ」
軽い調子の会話をする二人を楽しそうに眺めながら、ふと思い出したように依澄さんは切り出した。
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