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4人で始まった毎年恒例のお疲れ様会。
武琉君が腕によりをかけて作ってくれた料理は、高級レストランに引けを取らないくらい綺麗で美味しかった。
すでに会が始まって1時間程過ぎている。けれど、睦月さんの姿はそこになかった。
「おっそいねぇ。睦月君……」
私の前の席で、シャンパングラスを傾けながら香緒ちゃんはしみじみと呟いた。
こっちの仕事の方が少し早く終わった分、早めに到着して準備をしていた頃、香緒ちゃん宛に睦月さんから連絡が入った。
「睦月君、撮影押してるから先に始めといて、だって」
残念だけど仕方ない。来ないとは言ってないし。それに、きっと睦月さんの事だ。みんなの為に選んだプレゼントを、何時になろうが渡しに来るに違いないと思う。
「珍しいな、こんなに撮影押すなんて」
希海さんは赤ワインのグラスを傾けながらそう言う。私のプレゼントした地ビールは、睦月さんが来てから開けようと置いてくれている。
「まさか睦月君、現場で女の人に囲まれてて動けないとか?」
そんな事を香緒ちゃんが言い出して、私はちょうど飲み物を口に含んだところだったから咽せた。
そんな私に、「わっ!ごめん!さっちゃん」と香緒ちゃんが慌てて謝った。
「こっちこそごめんなさい。ちょっとびっくりして」
私がそう返すと、香緒ちゃんは安堵したように息を吐いた。
「脅かすつもりじゃなかっんだけどさ……。睦月君って、実は司以上に自分がモテる事に気づいてないよね」
香緒ちゃんは呆れたようにそう言う。
そう……だよね
私もそれを聞いて思う。睦月さんは、親しみやすさも相まって、現場で他の女性スタッフや、クライアントの関係者からよく話しかけられているのは見かけていた。
見るとモヤモヤするから、出来るだけ見ないようにしていたけど、香緒ちゃんの言う通り睦月さんはモテると思う。
「睦月さんは司と長く一緒にいる分、感覚は麻痺してそうだな」
アルコールが入ったからか、希海さんはいつもより饒舌にそんな事を言った。
「確かに……」
武琉君も納得したように呟いている。
「でもさぁ……あんなに昔から早く結婚したいって言ってたのに、未だにしてないって、よっぽどお眼鏡にかなう相手がいなかったのかなぁ……」
しみじみと言う香緒ちゃんに、「睦月さんって、そんな事言ってたの?」と驚きながら尋ねる。
すると、香緒ちゃんが昔を思い出すように視線を上に向けた。
「あれって今の僕より若い頃なんじゃないかなぁ?しょっちゅう早く結婚したいって言ってたよね。希海?」
そう言って香緒ちゃんは、希海さんに視線を向けた。
希海さんも懐かしそうな顔を見せて、「そう言えばそうだったな」と口にした。
「僕と希海の両親ってさ、その時の睦月君の年齢には結婚してたから不思議に思わなかったけど、今思えばすっごい結婚願望強かったよ?」
香緒ちゃんは、ちょっと考えるようにそう言って、グラスを口に運んだ。
「だが睦月さん、司に変な事言って引かせてたぞ?」
「変な事?」
思い出したように希海さんが言った台詞に、香緒ちゃんは興味津々で尋ねる。
「あぁ。結婚はしたいけど、身内以外の誰かが家にいるのを想像出来ないって」
思わずそこにいた全員が、無言で希海さんの顔を見た。
「……それ、どう言う事?」
同じ事を思っていたらしく、香緒ちゃんは私の代わりに尋ねてくれた。
「さぁ?真意は分からない。俺もまだ中学生だったし。でも、睦月さんが未だに結婚してないって事は、そんな想像が出来る相手がいなかったって事じゃないのか?」
涼し気に、低い声でそう話すと、希海さんはグラスに残るワインを飲み干した。
私はと言うと、正直戸惑っている。
私が知っている睦月さんは、物凄く家庭的で、いい旦那さん、いいお父さんになりそうな雰囲気しかないのに。
それに……睦月さんの家で一緒に過ごした事のある私は、一体どんな存在なんだろうかと。
「じゃあさ、」
ふと香緒ちゃんが何か思いついたように声を上げたタイミングで、部屋の中にインターフォンの呼び出し音か響いた。
「あ、俺出るよ」
武琉君はそう言うが早いか、すぐに玄関の方へ向かった。
「睦月君、やっと登場だね!」
香緒ちゃんがニコニコと私を見ながら言うのを、私は顔を引き攣らせながら「う、うん……」と答えた。
睦月さんに会うのは1週間振り。前、あんな不自然に帰った私を、睦月さんはどう思ったんだろう?って、今更心配になって来た。
遠くの話し声が近づいて来て、リビングの扉が開くと睦月さんが飛び込んで来た。
「みんな待たせてごめん!」
まるで全力疾走でもして来たように睦月さんは息を切らせている。
「お疲れ様!」
「「お疲れ様です」」
そう言ってそれぞれが声を掛けるが、何というか……本当に疲れ切っている様子だった。
香緒ちゃんは立ち上がると、その場に立ち尽くす睦月さんの背中を押しながら「まーまー座って座って」と、ずっと空いていた私の隣の席に睦月さんを誘導した。
「ちゃんと睦月君の分取り分けてるからね?あ、ビール飲む?さっちゃんが希海にくれたやつ」
後ろから覗き込むように香緒ちゃんが尋ねると、睦月さんは「あ、俺、残念だけど車で来た」と返事をした。
「だよね?そうだと思った。睦月君にはノンアルのビール用意してるから、今日はそれで我慢ね!」
疲れた表情の睦月さんとは裏腹に、香緒ちゃんは楽しげにそう言った。
武琉君が腕によりをかけて作ってくれた料理は、高級レストランに引けを取らないくらい綺麗で美味しかった。
すでに会が始まって1時間程過ぎている。けれど、睦月さんの姿はそこになかった。
「おっそいねぇ。睦月君……」
私の前の席で、シャンパングラスを傾けながら香緒ちゃんはしみじみと呟いた。
こっちの仕事の方が少し早く終わった分、早めに到着して準備をしていた頃、香緒ちゃん宛に睦月さんから連絡が入った。
「睦月君、撮影押してるから先に始めといて、だって」
残念だけど仕方ない。来ないとは言ってないし。それに、きっと睦月さんの事だ。みんなの為に選んだプレゼントを、何時になろうが渡しに来るに違いないと思う。
「珍しいな、こんなに撮影押すなんて」
希海さんは赤ワインのグラスを傾けながらそう言う。私のプレゼントした地ビールは、睦月さんが来てから開けようと置いてくれている。
「まさか睦月君、現場で女の人に囲まれてて動けないとか?」
そんな事を香緒ちゃんが言い出して、私はちょうど飲み物を口に含んだところだったから咽せた。
そんな私に、「わっ!ごめん!さっちゃん」と香緒ちゃんが慌てて謝った。
「こっちこそごめんなさい。ちょっとびっくりして」
私がそう返すと、香緒ちゃんは安堵したように息を吐いた。
「脅かすつもりじゃなかっんだけどさ……。睦月君って、実は司以上に自分がモテる事に気づいてないよね」
香緒ちゃんは呆れたようにそう言う。
そう……だよね
私もそれを聞いて思う。睦月さんは、親しみやすさも相まって、現場で他の女性スタッフや、クライアントの関係者からよく話しかけられているのは見かけていた。
見るとモヤモヤするから、出来るだけ見ないようにしていたけど、香緒ちゃんの言う通り睦月さんはモテると思う。
「睦月さんは司と長く一緒にいる分、感覚は麻痺してそうだな」
アルコールが入ったからか、希海さんはいつもより饒舌にそんな事を言った。
「確かに……」
武琉君も納得したように呟いている。
「でもさぁ……あんなに昔から早く結婚したいって言ってたのに、未だにしてないって、よっぽどお眼鏡にかなう相手がいなかったのかなぁ……」
しみじみと言う香緒ちゃんに、「睦月さんって、そんな事言ってたの?」と驚きながら尋ねる。
すると、香緒ちゃんが昔を思い出すように視線を上に向けた。
「あれって今の僕より若い頃なんじゃないかなぁ?しょっちゅう早く結婚したいって言ってたよね。希海?」
そう言って香緒ちゃんは、希海さんに視線を向けた。
希海さんも懐かしそうな顔を見せて、「そう言えばそうだったな」と口にした。
「僕と希海の両親ってさ、その時の睦月君の年齢には結婚してたから不思議に思わなかったけど、今思えばすっごい結婚願望強かったよ?」
香緒ちゃんは、ちょっと考えるようにそう言って、グラスを口に運んだ。
「だが睦月さん、司に変な事言って引かせてたぞ?」
「変な事?」
思い出したように希海さんが言った台詞に、香緒ちゃんは興味津々で尋ねる。
「あぁ。結婚はしたいけど、身内以外の誰かが家にいるのを想像出来ないって」
思わずそこにいた全員が、無言で希海さんの顔を見た。
「……それ、どう言う事?」
同じ事を思っていたらしく、香緒ちゃんは私の代わりに尋ねてくれた。
「さぁ?真意は分からない。俺もまだ中学生だったし。でも、睦月さんが未だに結婚してないって事は、そんな想像が出来る相手がいなかったって事じゃないのか?」
涼し気に、低い声でそう話すと、希海さんはグラスに残るワインを飲み干した。
私はと言うと、正直戸惑っている。
私が知っている睦月さんは、物凄く家庭的で、いい旦那さん、いいお父さんになりそうな雰囲気しかないのに。
それに……睦月さんの家で一緒に過ごした事のある私は、一体どんな存在なんだろうかと。
「じゃあさ、」
ふと香緒ちゃんが何か思いついたように声を上げたタイミングで、部屋の中にインターフォンの呼び出し音か響いた。
「あ、俺出るよ」
武琉君はそう言うが早いか、すぐに玄関の方へ向かった。
「睦月君、やっと登場だね!」
香緒ちゃんがニコニコと私を見ながら言うのを、私は顔を引き攣らせながら「う、うん……」と答えた。
睦月さんに会うのは1週間振り。前、あんな不自然に帰った私を、睦月さんはどう思ったんだろう?って、今更心配になって来た。
遠くの話し声が近づいて来て、リビングの扉が開くと睦月さんが飛び込んで来た。
「みんな待たせてごめん!」
まるで全力疾走でもして来たように睦月さんは息を切らせている。
「お疲れ様!」
「「お疲れ様です」」
そう言ってそれぞれが声を掛けるが、何というか……本当に疲れ切っている様子だった。
香緒ちゃんは立ち上がると、その場に立ち尽くす睦月さんの背中を押しながら「まーまー座って座って」と、ずっと空いていた私の隣の席に睦月さんを誘導した。
「ちゃんと睦月君の分取り分けてるからね?あ、ビール飲む?さっちゃんが希海にくれたやつ」
後ろから覗き込むように香緒ちゃんが尋ねると、睦月さんは「あ、俺、残念だけど車で来た」と返事をした。
「だよね?そうだと思った。睦月君にはノンアルのビール用意してるから、今日はそれで我慢ね!」
疲れた表情の睦月さんとは裏腹に、香緒ちゃんは楽しげにそう言った。
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