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明日香ちゃんとは高校時代のたった3年の付き合いだけど、しょっちゅう遊びに来てくれただけあって、お父さんとも何度も会ったことがある。
「そういえば昔。咲月の家に学校帰りに遊びに行ったときに、ちょうど調理実習で作ったお菓子持ってて。おじさんにあげたら凄く喜んで食べてくれたなぁ。おじさん、お菓子食べてる時は可愛い顔するのよ、これが!」
懐かしそうに笑いながら、明日香ちゃんがそんなことを言う。
「そういえば……そんなことあったね」
「じゃあさ、とりあえず賄賂じゃないけど、お菓子で釣ってみたら?」
健太は地元名物の竹輪を齧りながらそんなことを言った。
「まぁ……、それで釣られるとは思えないけど、学さんが食べそうなお菓子を手土産にしてみるよ」
睦月さんは、そう言ってようやくジョッキのビールを飲み干した。
それから色々と話をしながら、みんなで楽しく飲み食いする。
結局これと言って策は出なかったけど、睦月さんは私の学生時代の話を聞けて嬉しそうだったし、明日香ちゃんも健太も、睦月さんの仕事の話やニューヨークにいたときの話を聞いて楽しそうにしてくれていた。
「睦月さん。本当にいいんですか?」
「いいっていいって。俺のための会だし、ご馳走させてよ」
お店を出てすぐ、健太は申しわけなさそうにそう言うと、睦月さんは笑顔でそれに返す。
「私までご馳走になってすみません。挨拶、頑張ってくださいね!」
明日香ちゃんもそう睦月さんに言っている。
「ありがとう。何回も通わなくていいよう頑張ってみるね」
歩きながらそんな会話をして、タクシー乗り場までやってくる。今日はさすがに車じゃないから電車で来て、帰りはタクシーに乗ることにしていた。
「じゃあまた!睦月さん、いい報告待ってます!」
健太が笑顔でそう言うと、その隣に並ぶ明日香ちゃんは私に笑顔を向ける。
「咲月もね!話聞かせて」
それに私達は「上手くいくよう祈ってて」「うん。もちろん!」とそれぞれ答えてやって来たタクシーに乗り込んだ。
「楽しかったね。2人とも本当いい子だな。俺のために親身に考えてくれて」
私のほうを見ながらそう言うと、睦月さんはそっと私の手を握る。
「違う視点からのお父さんの姿なんて、改めて聞くと恥ずかしいけど」
「そうだね。でも学さんも、きっとさっちゃんの友達のこと可愛がってたんだなって言うのはよくわかったよ」
そう言って、睦月さんは私に優しく笑いかけてくれていた。
翌日の土曜日。私は久しぶりに自分の家に帰っていた。最近はすっかりただの荷物置き場になってしまっていて、冷蔵庫なんか空っぽどころか、今ではコンセントも差していない。
「さっちゃん、この辺のは蓋していい?」
「うん。適当にしか詰めてないけど大丈夫かな?」
部屋の隅に置いている箱の前で睦月さんに尋ねられ、そう答える。
明日は引っ越しだ。まさかこんなに早く本格的に一緒に住むことになると思っていなかったけど、私は前々からあまり使わないものなどは箱に詰めておいたり処分したりはしていた。
睦月さんから広い家に引っ越そうと思ってると告げられたのは、実家から帰る飛行機の中だった。
確かに以前から睦月さんは家が狭いのを気にしていたし、私も自分のものを増やしてしまっていることを申し訳なくは思っていた。
『勝手に決めちゃってごめんね』
なんて睦月さんは言っていたけど、聞けば同じマンションの3LDK。近隣も便利で住み心地がいいな、と思っていた場所の、そんな広い間取りの部屋で私には願ったり叶ったりだった。
そして、3月の終わりに前の人が退去して、改装が終わった今日、新居の鍵を貰うことになっている。今の家の家賃のことも考えて、4月中には引っ越そうとトントン拍子に話は進み、私は明日引っ越しすることになった。
最初は業者さんに頼もうと思っていたけど、言うほど荷物もなかったし、そう大きな家具もない。どうしようかなぁ?と思いながら、4月の最初にあった香緒ちゃんと希海さんとの仕事のときに、話を聞いてもらったのだけど……。
「じゃあ僕手伝うよ。武琉もきっと手伝ってくれるよ?僕の何倍も力持ちだし」
「え!そんな、悪いよ!」
なんか、催促したみたいで慌ててそう言ったけど、香緒ちゃんは「なんで?手伝わせてよ」と笑顔でそう返した。しかも、その場にいた希海さんまでも「俺も手伝うぞ?」なんて言い出す始末。結局、明日の運び出しを手伝ってもらうことになったのだ。
「詰めるものあったらやるよ?」
手際良く箱の蓋をして、睦月さんは私に尋ねる。
「じゃあ、この棚の中身をお願い」
そこには、そうそう見ることはないけど、今まで仕事をした香緒ちゃんや他のモデルさんの載る雑誌が山のように並んでいる。
「OK!」
そう言って睦月さんはそこから雑誌を取り出し始めた。
「そういえば昔。咲月の家に学校帰りに遊びに行ったときに、ちょうど調理実習で作ったお菓子持ってて。おじさんにあげたら凄く喜んで食べてくれたなぁ。おじさん、お菓子食べてる時は可愛い顔するのよ、これが!」
懐かしそうに笑いながら、明日香ちゃんがそんなことを言う。
「そういえば……そんなことあったね」
「じゃあさ、とりあえず賄賂じゃないけど、お菓子で釣ってみたら?」
健太は地元名物の竹輪を齧りながらそんなことを言った。
「まぁ……、それで釣られるとは思えないけど、学さんが食べそうなお菓子を手土産にしてみるよ」
睦月さんは、そう言ってようやくジョッキのビールを飲み干した。
それから色々と話をしながら、みんなで楽しく飲み食いする。
結局これと言って策は出なかったけど、睦月さんは私の学生時代の話を聞けて嬉しそうだったし、明日香ちゃんも健太も、睦月さんの仕事の話やニューヨークにいたときの話を聞いて楽しそうにしてくれていた。
「睦月さん。本当にいいんですか?」
「いいっていいって。俺のための会だし、ご馳走させてよ」
お店を出てすぐ、健太は申しわけなさそうにそう言うと、睦月さんは笑顔でそれに返す。
「私までご馳走になってすみません。挨拶、頑張ってくださいね!」
明日香ちゃんもそう睦月さんに言っている。
「ありがとう。何回も通わなくていいよう頑張ってみるね」
歩きながらそんな会話をして、タクシー乗り場までやってくる。今日はさすがに車じゃないから電車で来て、帰りはタクシーに乗ることにしていた。
「じゃあまた!睦月さん、いい報告待ってます!」
健太が笑顔でそう言うと、その隣に並ぶ明日香ちゃんは私に笑顔を向ける。
「咲月もね!話聞かせて」
それに私達は「上手くいくよう祈ってて」「うん。もちろん!」とそれぞれ答えてやって来たタクシーに乗り込んだ。
「楽しかったね。2人とも本当いい子だな。俺のために親身に考えてくれて」
私のほうを見ながらそう言うと、睦月さんはそっと私の手を握る。
「違う視点からのお父さんの姿なんて、改めて聞くと恥ずかしいけど」
「そうだね。でも学さんも、きっとさっちゃんの友達のこと可愛がってたんだなって言うのはよくわかったよ」
そう言って、睦月さんは私に優しく笑いかけてくれていた。
翌日の土曜日。私は久しぶりに自分の家に帰っていた。最近はすっかりただの荷物置き場になってしまっていて、冷蔵庫なんか空っぽどころか、今ではコンセントも差していない。
「さっちゃん、この辺のは蓋していい?」
「うん。適当にしか詰めてないけど大丈夫かな?」
部屋の隅に置いている箱の前で睦月さんに尋ねられ、そう答える。
明日は引っ越しだ。まさかこんなに早く本格的に一緒に住むことになると思っていなかったけど、私は前々からあまり使わないものなどは箱に詰めておいたり処分したりはしていた。
睦月さんから広い家に引っ越そうと思ってると告げられたのは、実家から帰る飛行機の中だった。
確かに以前から睦月さんは家が狭いのを気にしていたし、私も自分のものを増やしてしまっていることを申し訳なくは思っていた。
『勝手に決めちゃってごめんね』
なんて睦月さんは言っていたけど、聞けば同じマンションの3LDK。近隣も便利で住み心地がいいな、と思っていた場所の、そんな広い間取りの部屋で私には願ったり叶ったりだった。
そして、3月の終わりに前の人が退去して、改装が終わった今日、新居の鍵を貰うことになっている。今の家の家賃のことも考えて、4月中には引っ越そうとトントン拍子に話は進み、私は明日引っ越しすることになった。
最初は業者さんに頼もうと思っていたけど、言うほど荷物もなかったし、そう大きな家具もない。どうしようかなぁ?と思いながら、4月の最初にあった香緒ちゃんと希海さんとの仕事のときに、話を聞いてもらったのだけど……。
「じゃあ僕手伝うよ。武琉もきっと手伝ってくれるよ?僕の何倍も力持ちだし」
「え!そんな、悪いよ!」
なんか、催促したみたいで慌ててそう言ったけど、香緒ちゃんは「なんで?手伝わせてよ」と笑顔でそう返した。しかも、その場にいた希海さんまでも「俺も手伝うぞ?」なんて言い出す始末。結局、明日の運び出しを手伝ってもらうことになったのだ。
「詰めるものあったらやるよ?」
手際良く箱の蓋をして、睦月さんは私に尋ねる。
「じゃあ、この棚の中身をお願い」
そこには、そうそう見ることはないけど、今まで仕事をした香緒ちゃんや他のモデルさんの載る雑誌が山のように並んでいる。
「OK!」
そう言って睦月さんはそこから雑誌を取り出し始めた。
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