年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月までー月の名前ー

玖羽 望月

文字の大きさ
167 / 183
☆番外編3☆

honey moon 4

しおりを挟む
「そんなことしたの?」

荷物をそれぞれしまったあと、キッチンに集合して軽食を取りながら私達は話をしていた。
話題はもちろん、溜め息を吐きたくなるようなハロウィンパーティーについて、だ。

「そうそう。本格的な仮装は必須、だよね?」

睦月さんはそう長門さんに同意を求めている。
確かに、今でこそ日本でもメジャーになったイベント。日本にあるテーマパークでも仮装OKの日があるくらいだ。こっちは本場なんだから、余計に気合いは入ってそうだ。

「まったくロイのやつ……。言ってるうちに衣装持って現れるぞ」

長門さんは、睦月さんの作ったサンドイッチ片手に盛大に息を吐いていた。ロイさん、と言うのはこの家の持ち主で、睦月さん達がこっちに住んでいたときの家のオーナーでもあるらしい。

「目に浮かぶよ。お祭り好きのロイだからねぇ。俺はいいけど、司がいるって知れたらまた近所中の女性陣がこぞってやってくるんじゃない?」

睦月さんはその時を思い出したのか苦笑いで長門さんにそう言った。

「被り物してる方がマシだっつーの」

あまりにもゲンナリした顔を見せる長門さんに、私はそれ以上聞かずそっとしておいた。

それにしても、この家は想像していた以上に凄かった。約1年前にここを訪れた瑤子さんからは色々話は聞いていたし、写真も見せてもらっていたけど、自分の目で見るとまた違った。

まず、暖炉のある広いリビング。
瑤子さんの時は大きなクリスマスツリーが飾られていたと見せられたスマホの画面は、それはそれは華やかだった。
でも今は……、明かりを付けなきゃ近寄れないほどのホラーハウスになっている。等身大の骸骨の騎士、その回りを取り囲むジャックオランタン。天井からはコウモリや蜘蛛の巣が垂れ下がっている。

絶対ここに一人で夜来れないよ……

私はまず最初にそう思ったのだった。

「さってと!俺は部屋に戻る。明日はみかが歓迎会とやらをしてくれるんだろ?」

長門さんは立ち上がり、伸びをしながら尋ねる。

「そう。夕方からね。それまでは自由行動でいい?」
「そりゃ、お前たちの新婚旅行なんだから好きにすればいい。俺も適当にする」
「OK!じゃ、瑤子ちゃんによろしく。どうせ今から電話するんでしょ?」

笑顔の睦月さんにそう言われて、案の定長門さんは顔を顰める。

「悪いかよ。言っとくがな、俺もまだ新婚だ。いいだろ別に」

不服そうにそう言う長門さんに、睦月さんは思いっきり笑ってしまい、しばらく会話にならなかった。


次の日。
まだ時差に慣れてはいないけど、なんとか朝早い時間に目を覚ますことができ、ニューヨーク観光をすることにした。

最初に来たのは公園だ。ニューヨークのオフィス街のど真ん中にあるそこは、平日の午前中にもかかわらず、結構な人で溢れ返っていた。

「ここでレイちゃんに初めて会ったんだよ」

睦月さんは、懐かしそうにそう言いながら私の手を引いて歩いている。
向こう側に立ち並ぶビルが見える公園には椅子が至るところにあり、コーヒー片手に談笑する人達や、ビジネスの合間の休憩、といった人で賑わっている。

「司とこっちに来たばっかりの頃ってさ、仕事なんて言うほどなくて結構暇でさ」

今でこそ業界内じゃ海外にも名前が知られている長門さんだけど、ニューヨークに来た頃はそうじゃなかったらしい。それは希海さんからも聞いたことがあった。

「そこの図書館で本借りて、ここで英語の練習してたんだよね」

睦月さんがそう言って指を指す先には、まるで神殿のような大きな建物が見える。図書館だけど見どころはたくさんあるとかで、私達は今そこに向かって歩いていた。

「睦月さんでも練習必要だったの?」

私は顔を上げて尋ねる。睦月さんは今は普通に、と言うか流暢に英語で会話している。練習が必要だったなんて、とてもじゃないけど思えなかった。

「はは。最初は聞くだけでいっぱいいっぱいだったよ。発音も不安だったし。で、公園で借りて来た本を朗読してたら、隣でスケッチしてたレイちゃんに思いっきり笑われたんだよねぇ……」

苦笑いを浮かべて睦月さんはそう言う。

「そうなんだ……」

ってことは、今の私くらいだったのかな?なんて思う。

「で、そのあとずっとレイちゃんが先生になってくれたんだよね。それがきっかけで司に仕事回ってきて、おかげでそれなりに名前が売れて、レイちゃんの店も有名になったんたけどね」

図書館の入り口に向かう階段を歩きながら、睦月さんは笑みを浮かべる。

「そんな出会いだったんだ。睦月さんも長門さんも、レイさんとアンさんといい友達なんだなって、見てて感じたよ?」
「うん。本当に、2人は大事な友達。でもさ、あとでレイちゃんに言われたんだけど……」

階段を登りきり、入り口を潜りながら、睦月さんは思い出すように続けた。

moonつきを持つ男が私達にlucky starをもたらすってアンに言われたけど、まさか名前がmoonだと思わなかった、だって」

とにかく当たると言うアンさんの占い。私はその凄さを思い知り、ポカンとしながらそれを聞いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

おじさんは予防線にはなりません

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」 それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。 4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。 女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。 「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」 そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。 でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。 さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。 だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。 ……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。 羽坂詩乃 24歳、派遣社員 地味で堅実 真面目 一生懸命で応援してあげたくなる感じ × 池松和佳 38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長 気配り上手でLF部の良心 怒ると怖い 黒ラブ系眼鏡男子 ただし、既婚 × 宗正大河 28歳、アパレル総合商社LF部主任 可愛いのは実は計算? でももしかして根は真面目? ミニチュアダックス系男子 選ぶのはもちろん大河? それとも禁断の恋に手を出すの……? ****** 表紙 巴世里様 Twitter@parsley0129 ****** 毎日20:10更新

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

処理中です...