偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月

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2.貴公子はやっぱりワンコ

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 結構忙しいうえに人使いの荒い常務の秘書はなかなか大変だ。2年勤め上げれば次は好きな部署選び放題と噂されるくらい。
 そんな常務秘書を2年やり、私は今年、晴れて専務の秘書になったのだ。専務のほうが仕事量少ないのを知っていたし。
 小川さんは張り切って自分から手を上げ秘書になった。たぶん想像以上の忙しさにてんやわんやなのだろう。

「だからって、先輩に雑務投げる?」

 去年まで自分がやっていた朝会のあと片付け。気がつけば今年もまたやっている。

「ま、いいけどさ」

 それでも多少は心配になる。あの子、1年持つかな? と。

 使ったティーセットを給湯室に運び洗う。
 ぼさっと考えごとをしていると、ふと思った。

 そう言えば……倉木さんの下の名前聞いてないな

 私のことは『千春さん』なんて呼びながら、自分は苗字しか言わなかった。

 名前、なんて言うんだろ?

 会社も聞いてないし調べようがない。かと言って聞くつもりはない。次にご馳走になったらちゃんと断るんだから。

 洗った食器を拭きながら、そんな決心をしていた。


◆◆


 開けたばかりの梅雨は、さっそくギラギラと灼熱の太陽を運んでくる。車の中は冷房がかかっているとは思うけど、それでも暑そうだ。
 今日はスモーキーピンクのフレンチスリーブTシャツにネイビーのパンツを合わせた。仕事っぽくみえなくはないけど、また高級な場所に連れて行かれても対応はできるはずだ。

 待ち合わせは10時に駅前。最初は『家まで迎えに……』と言われたが、その家は夏帆の家じゃなきゃおかしい。いくら近所でも人の家の前で待ち合わせは……と無理矢理駅前にした。

 もうそろそろかな?

 腕時計を確かめるとあと5分。駅前のロータリーのすみ。車を乗り降りするには問題ない場所に立っていた。
 
 いったいどんな車で現れるのか……

 そう考えるとドキドキする。
 夏帆に言うと『運転手付きのリムジンだったらどうするよ?』と茶化された。いや、それもありそうで怖い。けど、ドライブ行きませんかって、言ってたのに、自分は運転しないのかと突っ込んでしまいそうだ。

 しょうもないことを考えていると、すうっと静かに黒い車が滑りこんできた。

 あぁ、これ、前にうちの常務が欲しいって言ってたやつだ、とそのピカピカに光る高級SUV車を眺める。最低ランクでも自分の年収を超えるその車。まぁ、世の中にお金持ちはたくさんいるよねとぼんやりしていると、目の前の運転席が開いた。
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