天使に出会った日

玖羽 望月

文字の大きさ
36 / 134
2

18 side 香緒 1.

何でこんな事になったんだろう……

無理矢理乗せられた車の後部座席に横たわりながら僕は考えていた。

撮影後、司に見つからないよう帰ろうとしたのに、1階で待ち伏せされていて捕まってしまった。振り解こうにも体格差がありすぎて無理があり、その上さっきまでの撮影で疲労していて抵抗する力もなかった。

武琉……心配してるだろうな……

必死で名を呼びこちらに向かってくる姿を見て昔を思い出してしまう。また辛い思いをさせたんじゃないかと心配になった。せめて連絡位入れられたらいいのだけど、ご丁寧に持っていたバッグは助手席の座席下に置かれてここからは手も届かない。

「香緒~?どっか飯でも食いに行くか?」

運転席から、全く悪びれない司の声が聞こえた。

「……そんな気分じゃない。友達が心配するからさっきの場所に帰して」

出来るだけ司を刺激しないよう、淡々とそう返事をする。

「友達ねぇ……」

その意味深な物言いに、武琉との休憩中に起こった出来事を、司は見ていたのかも知れないと思った。

「大人なんだから勝手に帰るだろ。それより久しぶりに会ったんだから、俺に付き合ってくれてもいいんじゃないか~?」

同じ家に帰るなんて事を言って、余計な詮索はされたくない。ここは一旦大人しく従って早く解放してもらう方が得策かも知れないと思い直した。

「わかった。食事だけ付き合うから」
「よし!じゃ、何処行くかな~」

司は思いの外嬉しそうに声弾ませそう言った。

僕だって、昔の関係を除けば司は尊敬できる人だし話したい事だってある。ただ、撮影中耳打ちされた言葉が気になっていた。

『……いい顔だ。もう一度俺の腕の中で啼かせたくなるな』

僕はあの頃とは違う。もう流される事なんかない。誰よりも大切な人がいてくれるから。
そう思いながら、小さな窓から見える空を見上げた。

雨……とうとう降って来たな

後部座席の窓にもたれかかるように座り直し外を見る。
ゲリラ豪雨と思われる真っ黒な雲は、一瞬にして辺りを雨の飛沫に包み込んだ。

雨は嫌いだ……。嫌な事を思い出す

武琉と別れなくてはいけなくなったあの日も雨だった。
それから雨の日は憂鬱になる。武琉と再会してやっとそれもなくなったのに、今また同じような状況になり、その時の気持ちを思い出してしまう。

けれど、あの時のような絶望感はない。家に戻れば武琉が待ってくれいる。そう思うだけで気持ちは軽くなった。

「そう言えば、お前希海と一緒に暮らしてんだろ?響のやつも。アイツもしばらく見ないうちにいい顔出来るようになったじゃねぇか。前は生意気なガキだったのにな」
「そうでしょ?響だって努力してるからね」
「まあ、希海がいたからあんな顔も出来たんだろうけど。本当、面白かったわアイツら」

そう楽しげに言う司に、2人は前の撮影時、相当引っ掻き回されたんだなと簡単に想像できた。でなければあんなに疲れて帰ってこないだろう。

本当に……司は性格が悪い……と呆れるばかりだ。

甥と叔父である希海と司の見た目は正反対で、イメージ的には希海が黒で司が白。なのに中身は真逆。
希海は口数は少ないものの、とても優しい。ただ悪戯に甘やかしたりせず、間違いをちゃんと正してくれるような優しさだ。
司の方は天使を唆し堕天させるような、そんな魅惑的だが危険なところがある。希海に『カメラの腕以外は問題だらけ』と言われてしまうのも納得出来る。

「で、どこまで行くの?かなり走ってるけど」

窓の向こう側は雨雲から離れ、青空が覗いている。

本当なら、武琉とこの景色を見ていたかも知れないのに……

僕はそこから見えている青い海を恨めしげに見つめ、溜め息を吐いた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】束縛彼氏から逃げたのに、執着が想像以上に重すぎた

鱗。
BL
束縛の強い恋人、三浦悠真から逃げた風間湊。 逃げた先で出会ったのは、優しく穏やかな占い師、榊啓司だった。 心身を癒やされ、穏やかな日常を取り戻したかに見えた——はずだった。 だが再び現れた悠真の執着は、かつてとは比べ物にならないほど歪んでいて。 そして気付く。 誰のものにもなれないはずの自分が。 『壊れていく人間』にしか愛を見出せないということに。 依存、執着、支配。 三人の関係は、やがて取り返しのつかない形へと崩れていく。 ——これは、『最も壊れている人間』が愛を選び取る物語。 逃げた先にあったのは、『もっと歪んだ愛』だった。 【完結済み】

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

トイレで記憶を失った俺は、優しい笑顔の精神科医に拾われる

逆立ちのウォンバット
BL
気がつくと、俺は駅のトイレで泣いていた。 自分の名前も、どうしてここにいるのかも分からない。 財布の学生証に書かれていた名前は、“藤森双葉”。 何も分からないまま駆け込んだ総合病院で、混乱する俺に声をかけてくれたのは、優しい笑顔の精神科医・松村和樹だった。 「大丈夫ですよ」 そう言って、否定せず、急かさず、怖がる俺を受け止めてくれる先生。 けれど、失った記憶の奥には、思い出したくない“何か”があるようで――。 記憶を失った大学生と、穏やかな精神科医の、静かな救済の話。 ※第一部完結済 双葉の“失われた時間”については、まだ何も分かっていない。 続きを書くとしたら、また彼らの日々をかけたらと思っています。 もしこの先も見守りたいと思っていただけたら、とても嬉しいです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。