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決戦

花と十字架の想い 78話

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幹部を全員倒したシオンたちは、

先へ進み、魔王の玉座の部屋の手前まで来ていた。

シオン「この先だ……」

シュロ「……最後の戦いになるな……」

レオノティス「魔王の力は未知数だ。まともに戦った事がないからな」

ブローディア「でも、退けないよ」

リナリア「死鎌刃魂と逆刃十架のみんなのぶんも……」

シスル「アメシスもいるだろ…」

アスター「アメシスの事は、シオンが何とかできるんだったな」

フクシア「これ以上誰も傷つかないように…」

シオンが扉に手をかける。

シオン【クロッカス…俺は…】

クロッカス【私も、一緒に…】

シオン【巻き込んで、ごめん…】

「……さあ、全てを断ち切るぞ!」

その重い扉を開く。


マーカサイト「来たか。罠か部下によって、何人か死ぬと思ったが…全員来るとは予想外だ」

シュロ「罠に関しては、カイヤのおかげだ。」

アイリス「私とシオンも、ジェイドに助けられたわ」

アメシス(逃げなかったのですね…その代わり、貴方達は彼らを助けてくれた……)

魔王が立ち上がって、一歩歩み出す。

マーカサイト「さて、話し合いをしに来たわけではあるまい。

さっさと始めようではないか。」

アメシス「…私達二人を相手にしてください。私も、手加減は致しません」

アスター「二人同時、か…」

ブローディア「…アメシス! 貴方の相手は私とアイリスよ!」

アメシスが一瞬魔王の方を見て確認する。

頷いたのを了承と取り…

アメシス「分かりました…貴方達が私の相手をしてくださるのですね」

そう言うと、アイリスはランスを手に構える。

アメシスが戦闘状態に入るのを見たのは、そういえば初めてだ。

アイリス「シオン、みんな、気を付けて。」

フクシア「お互いに、巻き込まれないように…」

魔王も抜刀する。その手に持っているのは、アイリス奪還時に持っていた剣だった。

変わって、いない? のか? 魔剣にするつもりが無かったと?

シスル「魔王! ここで、国の仇を討つ!」

リナリア「私も、手伝うわ! あなたの、お母様とお父様の分よ!」

シスルとリナリアが前に出る。

シュロ「僕達は後方支援に徹する!」

レオノティス「前衛は任せたぞ!」

後衛二人は少し下がって武器を構える。

マーカサイト「さあ、シオン。来るがいい」

シオン「行くぞ、魔王マーカサイト!」


同室、アイリス、ブローディア、アメシスの戦闘。

アイリス「ムーンアロー!」

ブローディア「天の雷、落ちろ! サンダースピア!」

先手必勝で技を放つ二人。

けれど、アメシスはその両方を回避して、こちらにランスを突き出してくる。

アイリス「っ!?」

ブローディア「速い!」

アメシス「アカシックピアス!」

アメシスのランスが立て続けに繰り出される。

ブローディア「きゃ!?」

いつものドジっ子が災いしたか、かわした拍子にコケる。

アメシス「時の闇よ…クロノス・レイ!」

カルビ「させない、ルビ!」

カルビが精霊の力を使ってバリアを張る、が、長くはもたず弾き飛ばされる。

ブローディア「カルビ!」

魔法は相殺されたので、ブローディアには当たらなかったが、

思い切り壁にぶつかったせいで、カルビがもう立てない。

アイリス「魔法の詠唱も早すぎる……これが、逆刃十架最強……」

ブローディア「…っ、アイリス、矢を放って!」

言われるままに弓を引く。

アメシス「何を……バイオレット・ランス!」

撃たせまいと技を仕掛けるが、

ブローディア「守護陣! イクシオン!」

ブローディアの陣でアイリスを貫く事はなく…

アイリス「……クレセントアロー!」

アイリスが矢を放つ。それに向かって…

ブローディア「大海の螺旋渦……すべて飲み込め! シュトゥルーデル!」

アイリスの三日月の矢にブローディアの渦が合わさって、

ものすごいスピードと勢いでアメシスに向かう。

アメシス「!!」


同時刻。魔王側。

シオン「くっそ、これだけ大人数でかかってるのに、攻撃が当たらない!」

シュロ「さすが、魔王だな……!」

マーカサイト「どうした? 私はかわしているだけで攻撃していないのに、もう疲れたか?」

上から目線で物言う魔王に腹が立つ。

シスル「あいつらを捨て駒としか見てなかったのはそういうわけか……」

フクシア「自分一人でも問題ないほどだから、いらないと……!」

全員かどうかは知らないが、少なくとも何人かは絶対に、

本気で忠誠を誓っていただろう。

なのに、こいつは……魔王は……

アスター「さすが魔王。人の心を持っていないようだな!」

リナリア「今まで、1000年前も、それより前も、そうやって部下を捨てきたの!?」

レオノティス「外道とはこの事だな……」

口々に言いながら、攻撃を先ほどから仕掛けるが、

本当にかすりもしない。

シオン(いくらなんでも……なにか逸れるようにされているのか……?)

クロッカス【シオン…必中技を使って。

魔王じゃなくて、魔王の剣に当たるように振るって】

シオン「…!? ……わかった」

マーカサイト「何をしても、当たりはしない!」

シオン「それはどうだろうな! デッドアウト!」

必中技を剣にぶつける。すると、なにかパリンと割れる音がした。

マーカサイト「貴様…どうやって見破った!?」

アスター「…何をしたんだ?」

シスル「…! そうか、魔王に攻撃が当たらなかった理由は、

剣によるものだな。相当な集中力を剣に向けて、

自らの肉体に向かう攻撃を読めるフィールドを展開していたのか…!」

つまり、その集中力を剣に当てて削げば、効果は切れると。

シオン「魔王! ここからが本番だ! 次に展開しても、破壊方法は分かった!」


アメシス戦。

アメシス「うっ……」

ブローディア「今のは結構効いたでしょ!」

アメシス「そうですね……なら、私も本気を出しましょう…」

玉座の間に紫の淀みがかかった光があふれる。

アイリス「魔獣化……!」

アメシスの魔獣姿はフェニックス。炎を纏う、不死鳥。

アメシス「これが私の姿…皮肉ですよね…

私自身は、死にたいと言うのに…」

小声で何事か呟いた。すごく、寂しそうな声で…

アイリス「アメシス……私達は、貴方を解放しに来たの」

ブローディア「ジェイドにも頼まれたのよ。貴方を解放してくれって!」

ジェイドの名を聞いた時にハッとする。

アメシスにとって、よく説教していた相手なので、良く思われていないと思っていたからだった。

アメシス「私とて、わざとやられるような真似は致しません。

この身は、魔王様のために…愛する方のために……!」

魔王を愛する心、呪いにより何度も999年待たなければならない苦しみが混同してしまっている。

もう、断たなければ……

フェニックスが炎を撃ちだす。翼も発射口のようだった。

ブローディア「炎なら! アクアボルト!」

水属性魔法で対抗する。むろん、全て消しきる事はできない。

アイリス「アクアフォール!」

水を纏った矢が滝のように降り注ぐ。それでやっと消火しきれるレベルだ。

安心した直後、劈くような鳥の鳴き声の後、上空からこちらに急降下してきた。

フェニックスの翼は刃となって、アイリスとブローディアの腕を傷つける。

ブローディア「いった…!」

アイリス「アメシス……!」

叫んでも攻撃が止まるわけではない。

口から吐き出された炎が、アイリスとブローディアの周りを包む。

シオン「アイリス!」

シオンの声が、炎越しにかすかに聞こえる。

アイリス(解放しないと、アメシスを……!)

ブローディア(そう…私はここで死ねない……!)

その願いは、聖武器に通じる。光始めた聖武器に反射的に飛びのくフェニックス。

アメシス「その光は……!」

その光は次第に強くなり、周りの炎を消火する。

ブローディア「ゼロ・オリジン! ステラ・ガーディアン!」

アイリス「ゼロ・オリジン! セイヴ・フォーチュン!」

アイリスの放つ光の矢と、

ブローディアの撃つ光と風の合成魔法がフェニックスに直撃。

その場に墜落したフェニックスは、閃光を纏い、アメシスの姿に戻った。


アメシス「…まけて、しまいましたね……」

アイリス「アメシス……」

アメシスの事を解放するには、シオンの力が必要だ。だけど……

アメシスと共に、シオンたちの方を見やる。

激戦だった。


シオン「昇雷斬!」

アスター「ダークネス!」

マーカサイト「無駄だ! 殺闇翼!」

今のは魔王の奥義だろうか。闇の翼がシオンとアスターを弾き飛ばす。

レオノティス「業火翔弾!」

レオノティスの連弾も全て弾かれる、が、

それでも魔王の気をそらす事にだけは成功した。

そのおかげで…

シオン「っ! はあああああ! 極光突!」

その隙を見逃さず、光を纏った剣を魔王に向かって突き出す。

アメシス「……っ!」

ブローディア「アメシス!?」

魔王の前に、瀕死のアメシスが飛び出してきた。

むろん、突き技だったため、魔王にも攻撃は届いたが、

アメシスのおかげで、浅く刺さっただけで魔王は済んだ。


【私は、もう生まれ落ちたくなかった…呪いを終わらせたかった…】

【でも、魔王様を愛していたのも事実…】

【これでいい…後は、貴方が魂を砕いてくれれば…】

【死ぬ前は、魔王様を庇ってからと…決めていた……】


シオン「アメシス!?」

マーカサイト「…シオン…貴様……!」

シスル「邪魔させない!」

アスター「シオン! そっちは任せる!!」

シスルとアスターが魔王と剣で衝突する。

アメシスはその場に崩れて座り込んでいる。

アイリス「シオン! お願い! アメシスの魂の解放を!」

うっすら、アメシスが目を開けて呟く。

アメシス「…お願いします…これは、私の望みです……

皆さん……ごめんなさい……」

シオン「……アメシス…アイリスの事、返してくれて、ありがとうな」

話したつもりはなかった。アイリスから聞いたのだろうか。

そう、アイリスと一つになった後、アイリスの意識が自分から表出したのは、

打ち合わせての事だった。

アメシス「…お礼を言われるなんて、思いませんでした……

ありがとう、アイリスさん……」

アイリス「……うん」

シオンが剣を振りかぶる。

シオン「…その魂、残酷な輪廻の運命から解き放たれん…魂救輪廻断!!」

ピシャンと砕ける音がする。

アメシス「ありがとうございます……シオンさん……

魔王様……愛しております…」

そう言って、消え去った。


シスル「ぐっ!!」

アスター「かはっ!」

奥の方で戦っていたシスルとアスターが膝をついている。

フクシア「アスター!」

リナリア「シスル!」

二人が駆け寄る。

マーカサイト「…クク…ハーッハハハハハハ!!!」

急にどうした。アメシスの死が原因か?

マーカサイト「よくも…アメシスを……その魂を砕いたな……

私が封印されてもまた999年……この城を護ってもらおうと思っていたのに……!」

まだ、そんな事を……

レオノティス「これで後に退けなくなったな? 

封印されればもうこの城を護る者などいない!」

シュロ「封印されたが最後、この城は封印を除いて僕達で壊させてもらう!」

沈黙が流れる。みんなはいつ攻撃が来ても良いように、武器を構え直す。

ブローディア「テイル、ゼロ。カルビの傍にいて、後ろに下がっていて」

ゼロ「了解しました」

テイル「気を付けてルイ!」

精霊は安全な所まで下げる。勝てる相手ではない。

マーカサイト「…この武器は、すでに改良されている。

魔剣・ラストディストラクトの力、その身で味わうが良い!」

そう言って剣を掲げると、その姿が変わっていった。

とんでもなく禍々しい模様をのせた剣。

赤い閃光まで纏っている。

アイリス「それが、ラストディストラクト……

聖十華剣・ガイアリカーランスと対になる剣……」

アスター「1000年前、使った剣か……」

その剣を構え、こちらに向き直る。


マーカサイト「さあ……

第二楽章を始めようではないか」
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