下心狂想曲

杉本けんいちろう

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ー第四章ー

≪本性≫

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はい、出た出た!もう、みんなして同じ事ばっか言うんだから。まるで私には、それしか取り柄のない空っぽの女みたい。みんな当たり前のように私の事を一目見るなり、『カワイイ!』って言うの。もちろん、そう言われて嫌な気はしないよ。ってか、分かってるし!小さい時から、ずーっとカワイイって言われて育って来たんだもん。すっぴん自体のレベルが違うのよ。

なーんて…。

ただね、あんまり人には言った事ないんだけど実は、そんなに男にっていうか、人自体に興味がないんだよね。だから、もう18歳だけど私は、まだ処女…。

よくカワイイは、才能だよって言って来る男がいるけど、そう考えると、天は二物を与えないって言葉が凄く身に染みる。だって私は、その"才能"を生かせてないんだもん。天才的なルックスに相反して、薄過ぎる好奇心…。
当然の事ながら、私は、この18年間、彼氏がいた事がない。人を好きにならないんだから当たり前なんだけど…。でもね、初恋はあったよ。たぶんね、あれは恋だったと思う。幼稚園の時に。まだ、前のマンションの時に隣の部屋に住んでた3つぐらい歳は上だったのかな?私が小学校上がる前に引っ越してっちゃってそれっきりなんだけど。翔ちゃん、今どうしてるのかな…。カッコイイ大人になってて欲しいな。

私は、事あるごとに自分でも薄情だなって感じる。例えば、ケータイ。私は、わざと定期的にケータイを新規で買い直してる。それは、常に新機種を手にしていたいだとか、すぐに失くしてしまうとか、そういう事じゃない。人間関係を整理する為なの。私は、私から連絡しない限り連絡が来る事がないような形だけの中途半端な関係が大嫌い。その人の名前がメモリーに入ってるだけで何か冷める。だから私は、迷うことなく、そういう人達と縁を切る。所詮、ケータイだけの繋がりだし何の未練もない。ただ、こんな生活をしてたら、当たり前だけど私に友達は少ない。でも、それで良いんだ。心を開ける存在が一人でもいてくれれば…。
私には、幸いにもたった一人の親友がいる。中学の時からずっと同じクラスで、大学生になった今でも同じ学校で同じ学部。事あるごとに私は、千夏と一緒にいた。

『…ちょっと、優里!』

『千夏、どうしたの?』

『どうしたの?…じゃないわよ!優里、ケータイ替えたの、何で総ちゃんに教えないのよ!』

『だって、ここんとこ連絡無かったし、もう、いいかなって思って。マズかった?』

『もう、何で優里は、そうなの!?せっかく優里の為に紹介してあげたのに。総ちゃん、メール送れなくなったって凄いショックがってたわよ。』

『えーだって、総二郎くんて軽そうなんだもん。』

『だから、そう見えるだけだって言ってるでしょ!全然、中身は違うから!』

『そうかな…。だって、総二郎くんて誰にでも同じテンションで、同じ言い回しするでしょ?』

『それが、何?』

『やっぱ、私だけっていう特別感が欲しいもん。結局、誰でも良いんだなって思っちゃうよ。』

『いや、だってそれは…。ま、分かるけど…。ねぇ優里、あんた、そんな事ばっか言ってたらホントにいつまで経ってもロストヴァージン出来ないよ!』

『千夏って優しいよね…。』

『は…?』

『私は、優しい千夏が近くにいてくれるから、ずーっと処女のまんまで良いよ。』

『何言ってんのよ!もう、優里は、私の友情を何にも分かってないんだから!』

『そんな事ないよ。いつもありがとね、千夏ちゃん!』

『もう、優里ってば…。』

千夏には、ホントに心から私の友達でいてくれた事に感謝している。さすがに千夏がいなきゃ、いくら人に興味が無い私でも、寂しくて死んじゃうもん。時々、こうやって千夏が私の人生の心配をしてくれるから私は、平穏を保って生きていられるんだと思う。
悪く言えば、甘えてるんだよね。わがままを聞いてくれるその存在が私にとっての安らぎである代わりに、好奇心のストッパーでもあるの。その先に踏み込む勇気を優しさで消してしまう。言ってしまえば実は、私の経験を幻にしてるのは他でもない親友という甘え…。興味を示そうとする心は、脳に届く前に甘えに溶けてなくなっていく。私の欲求は結局、その程度の力しかないんだ。

つまんないね、私…。

そう考えると、いつも外見しか褒められない事が見事に自分の空っぽさを証明しているみたいで、ホントに虚しさが止まらなくなる。

キャンパスライフは、他の子達と比べたら、やっぱり楽しんではないんだろうな。誘いがあっても飲み会にも合コンにも行かないし、私は、お嬢様とは言わないけど正直、財産にはある程度、恵まれた家庭だから十分な仕送りに頼って、一人暮らしだけど、バイトもしてないし、学校が終わったら千夏と遊ぶ以外は、ほとんど真っ直ぐ家に帰ってテレビばっか見てる。野球とお笑いが好きだから、野球中継やバラエティー番組を見て時間を過ごしてれば余計な雑念は吹っ飛んでくれる。完全にオヤジだね、私。別に、いいもん!どうせ、彼氏なんか出来ないし!千夏さえ、いてくれればそれだけで十分だもん!

『…ねぇ!優里、聞いて!』

『なーに?』

『私ね、彼氏が出来たの!』

『は!?』

嘘!?千夏に彼氏!?高校3年間付き合ってた直也くんと別れて以来、もう、しばらくは男なんていらないって言ってたのに!早くない?まだ3ヶ月しか経ってないじゃない!ダメダメ!だって、私をかまってくれる人がいなくなっちゃうよ!

『い、いつの間に、そんな人作ってたの?』

『ごめんね!私も、まさかこんな急展開になるとは思わなくって。同じバイト先の人でね彗くんって言うんだけど。昨日、告られてさぁ。なんか押されて思わずオッケーしちゃった!』

『そ、そうなんだ。良かったじゃん!やっぱさ、なんだかんだ言って、直也くんを忘れるには、新しい男を作るのが一番よ!』

『ありがと…。ってか処女姫、優里から、そんなセリフが出てくるとは思わなかったわ。自分でも分かってるんだから、あんたも早く彼氏を作りなさい!』

うるさいわよ!分かったような口叩いてんのは百も承知なんだから!もう、押しになんか負けないでよ!自分の意志は無いの?千夏って、そんな断われない女だった?ねぇ、千夏!私を一人にしないでよ!

『優里もさ、私に彼氏が出来ちゃったら寂しいでしょ?』

『え?』

『分かってる!唯一の親友に男が出来ちゃったら、優里にとっては大事だもんね。大丈夫!直ぐに紹介してあげるから!既に、ホヤホヤの彼氏を使って手配済みだから任せてちょうだいよ!』

千夏は、やっぱり私の事なんて、あっさりとお見通しだった。もしかしたら、人自体にあまり興味がないって事さえも見抜いているのかもね。どことなく冷たくて、心無い感じは、表情にも行動にも出ちゃってるのかもね。それをずーっと一番近くで見てきた千夏は、当の昔から気付いてたのかな…。でも、それを敢えて言わずに、私の事を親友として一緒に時間を過ごしてくれた。千夏は、本当の意味で私を心配してくれているかもしれない。そう思った…。

『ねぇ、優里!どお?悟くん!カッコいいし、優しいし、お笑い好きだし!しかも年上だよ!オクテ優里には、ぴったりだと思うんだけどなぁ。』

『う、うん…。』

『やだ!優里ってば、緊張してるの?』

『ち、違うってば!』

『優里ちゃん、初めまして!千夏ちゃんから、ちょっと聞いてるけど、野球好きなんだって?俺、こう見えて元高校球児だから!おまけに、お笑い好きだったら俺も、優里ちゃんとは絶対に合う気がするけどなぁ。』

半ば強引に、言われるがままに…。
確かに私にも、その気が無かった訳じゃない。千夏の気持ち。実は、寂しいって知ってる私。高校までは、実家だったから、まだ家族がいた。千夏に直也くんがいても、そこまでの寂しさは感じてなかった。でも今は、遠く離れた一人暮らし。明らさまに、寂しさを教えてくれる。人への興味より、処女喪失の好奇心より、何よりも、この空虚感を埋めたかった。ただ、それだけ…。

『…ってかさ、優里ちゃんて、ホントに今まで彼氏いた事ないの?』

『う、うん…。』

『…ってキャラにしてるだけじゃなくて?ホントは、いっぱい遊んでんでしょ?』

『そ、そんな事ないですよ!ホントに、遊んでなんかないですから!』

『いいよ。もう、素直になってごらん。真実を知った所で優里ちゃんを嫌いになんかならないから。あ!ほら、別にタバコも吸っても良いんだよ?』

『もう、ホントに私、そんなんじゃないですからぁ!タバコだって吸った事ないし、超いい子ちゃんなんですから!』

『あははは!冗談だよ!冗談!優里ちゃん、カワイイ!』

『もう、ホントやめて下さいよぉ!』

ウザッ!なんだコイツ!顔は確かにカッコいいとは思うけど、こういう笑いの取り方してくる奴、私ムリ!野球とお笑いの共通項が無かったら、100%アウチだわ!

…あ!だったら試してみようかなぁ。せっかく、彼氏いない歴18年にピリオドを打ったんだし、出来る限り理想に近付けてやる!どこまで私の理想の彼氏になってくれるか見物だわ!

『…ちょっと優里!聞いたわよ!何で?どうして?悟くんの何がいけなかったのよ!?』

『でも、別れようって言ってきたのは悟くんだよ?私は、それに従ったまでだもん。』

『だから何でよ!』

『何がよ?』

『エッチは、結婚するまでしないってどういう事!?優里がそんなポリシー持ってたなんて私、聞いた事ないけど!?他にも、細かい事あれやこれや直させてたみたいじゃない!何なの?嫌がらせ?そんなに悟くん嫌だったの?』

『違うよ。ちょっと試してみただけ。』

『試した?』

『そう。ホントに私の事が好きだったら、私の要求に何でも応えてくれる理想の彼氏になってくれるはずでしょ?だから、ちょっと試してみたの。でも悟くん、なんだかんだ言いながら凄い頑張ってたよ。最後の方は、なんか脱け殻だったけど。辛かったんだろうね。』

『優里…、あんた極悪人だね。ってかドS?そんなん悟くんが、かわいそうじゃない。優里だって初めは、カッコいいって言ってたし結構、気に入ってたよね?それが何でよ!』

『ってかさぁ、男って、そんなにヤリたいの?それしか頭にないの?』

『は!?ちょっと優里、あんた何言って…。』

『だってさ、悟くん、一緒に寝てても、ずっとピクピクしてんの。なんか一人で葛藤してる感じだった。仕方ないからチュウはしてあげたけど、余計に悩ませてる様な感じだったな。』

『優里!もうバカ!バカ!バカ!バカ!バカ!バカ!男から"それ"を取ったらお終いでしょう!アイツ等の脳は、9割エロなんだから!もう、何でそんな事するのよ!』

『そんなに?』

『そんなによ!ってか女だって、ちゃんと性欲ってものがあるでしょう?私だって、週に一回は絶対ヤリたいもん。』

『ヤダ!千夏ってエッチ好きだったんだ。』

『好きよ!悪い!?』

『ううん、悪くない。でも、ホントに私は、いいや。私は、やっぱり興味ないみたい。』

『優里…。』

『ねぇ、千夏の理想の彼氏って何?』

『え?理想の彼氏…?』

『うん。』

『私は、正直あんまりコレってものは無いのかも。私の事を好きになってくれたら、それだけで十分なのかもしれない。それに、ドMだしね。強引に押されたらキュンと来ちゃうもん!後は好きにしてって感じ。ついて行きますって。』

『そうなんだぁ。だったら私と一緒だよ。私だって、別に理想なんて無いもん。ただ、私の事を好きになる理由が知りたいだけなの。この私の何が良いのか、何が好きなのか。だったら、どこまで私に尽くしてくれるのか、どこまで本気なのかって…。』

『優里…。』

『私は、別に嫌がらせしてるんじゃないもん!私だってMだもん!遊んでるんじゃないもん!ただ、ちょっと本性を知りたかっただけだもん!』

『優里!分かった!分かったよ!だから泣かないで、ね?次、また頑張ろう、ね?』

『千夏、私って、やっぱり人を好きにならないのかな…。』

『優里…。』

私の彼氏としての条件、それを理想という言葉に当てはめるとしたならば。
どうしても私じゃなきゃダメだって事を色んな犠牲を払ってまで証明し続けられる人、かな…。だから、具体的には無いと言えば無いの。ルックスだって、歳だって、収入だって別にどうだって良い。私のルックスだけを見て言い寄って来たって、それも同じ。人に興味が無くて好奇心も薄くて、薄情…。この私の何を好きだとほざくわけ?ヤリたいから?処女が欲しいから?好きだって近付いて来るの?だから結局、みんな嘘なんでしょ…。
好きでもないのに嘘並べて近付いて来て、食った女の数にカウントしたいだけなんだよね?そんな下らない自己満足の餌食になんか私はならない。神秘の繁殖機能を何だと思ってるのよ!気持ちわる!気持ちわる!気持ちわる!気持ちわる!だから私は、処女だって誇りを持てる。何にも恥ずかしい事なんてない。ヤル事しか考えてない低脳な本性に私は、堂々と立ち向かうわ!

―――。

『優里、内定おめでとう!』

『ありがとう、千夏!』

『これで学生最後の一年を心おきなく遊べるね!』

『千夏は、もう十分、遊んでると思うんだけどなぁ。』

『そんな事ないよ。まだまだ全然足りないもん。』

『だって、この3年間で一体何人、彼氏変わったのよ!直也くんと付き合った高校3年間が嘘のようだわ。全然、長続きしなくなっちゃったね。一人半年も、もてば良い方なんて…。私は、千夏をそんな子に育てた覚えはないわよ。』

『はいはい。すいませんでした、お母様。…でもね、確かに一人の人と長続きしなくなっちゃったけど、私は、色んな男を知れて楽しかったけどな。』

『色んな男ね…。』

『私は、結局、あの悟くん以降、誰一人として付き合わなかった優里にびっくりだけどね。どう考えても私よりモテてるのに、ことごとく嘲け飛ばす感じが堪らない。ここまで来るとホントに神の領域だわ。』

『もう、そんなに誉めないでよ!』

『いやいや、誉めてないから。むしろ呆れてんの!そうまでして男の下心を蹴散らす意味が分かんないもん。』

『別に、わざとやってるんじゃないもん。結果として、そうなっちゃってるように見えるだけだもん。結局、誰一人として私に本気なってくれる人なんていなかったって事。ヤリ目男なんて、さよーなら!』

『別に、良いじゃない!ヤリ目だって!私だって、セフレぐらいいるよ。やっぱり女だってエッチしなきゃ潤わないもの。色気だって全然、違うはずだよ。…ってかさぁ、単純に優里って結婚願望は無いの?』

『んー、正直言えば、旦那はいらないけど子供は欲しい。』

『出た出た。そのパターン。シングルマザーなんて大変なだけだから。それに絶対、母親と父親、両方からの愛情を貰って育っていく方が良いもん。結婚は、自分のエゴだけを通し切れないからね。』

『分かってるよ。まぁ、とりあえず今は、結婚なんて遠い未来すぎてリアルに考えられないけどね。』

『そうよね。優里は、その前の課題が山積だもん。』

『課題って何よ。』

『まず人を好きになる事ね。そんで、情が湧くくらいの付き合いをしてみる事。後は、セックスしてみる事ね。とりあえず、この3つ。』

『うーん、さすがは千夏ちゃん!私の事を解り過ぎてる。でも、その課題を提出するのは難しそうだな。』

『そんな事言わないでさ!就職も決まって、もう大してやる事ないでしょ?だったら、学生最後の年にちょっとだけ努力してみよ!ね?』

『うーん…。』

『お願い、優里!私の為にも頑張ってみて!』

『千夏の為…?』

『そう!私の為に!親友の私の心配事を減らす為に頑張ってみて!』

『千夏…。』

『優里にも、大好きな人と一緒に毎日を過ごす幸せを味わって欲しいのよ!絶対に人は、一人じゃ生きていけないんだから。人から愛される事を、人を愛する事を知って欲しいの!』

『千夏は、まるで私の先生だね。』

『そりゃ、こんな教鞭口調にもなっちゃうわよ。長いこと近くに、こんな子がいたら。』

『…正直、返す言葉が見つからない。千夏先生の言う通りだと思う。でも、私になんか…。』

『大丈夫よ!とりあえず、まず付き合ってみれば?今、優里の中で基準が悟くんになっちゃってるでしょ。悟くんが最初のラインじゃハードル高過ぎるもん。もっと基準下げてさ、またどうせ、色んな要求吹っかけて耐えられるかどうか試すんだろうから、そこにチャレンジ出来る人数を増やしてあげなよって事。そうやって色んな男と間近で長い時間一緒に居れば、少しずつ考え方も何かしら変わって来るかもよ。』

『もう、千夏先生!私の恩師!…はい。先生のおっしゃる通りに努力してみます。』

『ん!宜しい!それでこそ我が生徒!あははは!…優里、頑張って恋してみよ?』

『千夏…。』

私は、そんな簡単に自分自身を変えられるとは思っていない。でも、千夏の言う事を否定出来ない自分がいるのは間違いない。人への興味、男への興味、セックスへの興味。つまり、下心を持てって事だよね。低脳と蔑むバカな男達と同じ下心を持てって事なんだよね。物凄く抵抗があるのは本当。でも、それが私に知らなかった幸せを教えてくれる答えになるのなら、千夏を安心させてあげられる答えになるのなら、私は、恋をする努力をしてみようと思う。まだ何も知らなかった小っちゃかった頃の、純粋に一緒にいる事の楽しさを教えてくれた翔ちゃんの時と同じように…。

『優里!早速だけど、良い話が来たよ!合コンやるわよ!』

千夏は、仕事が早い。それはもう、心から尊敬に値するくらいに。将来、絶対にキャリアウーマンになるんだろうなって、ホントに普段の行動一つが、デキる女を予感させる。そういう、運を持っているのかもしれない。あの話をしてから間もない内に、一人の年上の男からナンパをされた。その男自体には、大して惹かれた訳ではないが、ピンと来て、これは使えると判断したらしい。その判断は、正解で、あっという間に合コンをセッティングさせた。
私は当然、今までの合コンは千夏に無理に連れて行かれ、心無いまま男達をあしらって来た。でも今回は、私も完全に、"見付ける"気でいた。

『どうも、初めまして。安東清彦って言います。コイツ等と一緒で鳶やってます。射手座のB型。野球とお笑いと絶叫マシーンが大好きな30歳です。』

『清彦ぉ!堅いよ!リラックス!リラックス!』

『いや、だって!こんなカワイイ子達を目の前にしたら、そりゃ、かんちょ…。緊張するっしょ!』

『はい、噛んだぁ!』

『うるせーな!』

『今、確実にカンチョーって言ったよな?』

『言った!言った!カンチョーされたいんじゃないの?』

『お!優里ちゃん、言い事言ったねぇ!』

『んじゃ優里ちゃん、カンチョーしちゃいなよ!ユー!カンチョーしちゃいなよ!』

『あははは!よーし!』

『お!優里ちゃん、ノリ良いねぇ!』

『ちょっ、ちょっとマジで!?』

安東清彦くん。共通項もあって凄く良い人だった。ルックスはね、確かに、悟くんに比べたら劣るけど、それ以上に話が合って、何より楽しかった。この人なら純粋に付き合ってみても良いかなって素直に思えた。ただ、どこまで私の要求を受け止められるかは分かんないけどね。とりあえず、それを試す価値は、ある人なのかなって…。

『優里、もしかして清彦くんだったら本気で付き合えるんじゃないの?』

『まだ分かんないよ。でも、とりあえず、付き合ってはみようと思ってるよ。今度、映画行く事になってるし。』

『あら、そうなの?じゃあ、もう大丈夫じゃない!』

『ううん。だってまだ、肝心なのは、それからだもん。どこまで本気なのかってとこ。』

『やっぱり、試すんだ…。あーあ、清彦くん良い人なのに、なんかかわいそう。たぶん清彦くんは、そんなチャラついた人じゃないと思うけどな。』

『分かんないよ。そう見えて、人間みんな、本性は、何考えてるか分かんないんだから。』

『優里、そのセリフ。そっくりそのまま、あんたにお返しするわ。』

『あら!うふふふ…。』

『ごまかすな!ごまかすな!』

人間みんな、何考えてるかなんて分かんない。だから私は、イマイチ人を信じる事が、好きになる事が出来ないのかな。ただ、怖がってるだけ?裏切られる事に怯えてるだけなの?
じゃあ、何で千夏とは一緒にいられるの?千夏だって裏切らないとは限らないんだよ?
ううん、千夏は私の事を裏切ったりなんかしない。だって、千夏は私が好きだもん!大好きだって言ってる人を裏切れるのなら、それは嘘…。千夏が、私の事を好きじゃないなら、もうとっくに、ほっぽってるよ。千夏には、私を見放せない何かがあるの。それは、私も同じ。それは、下心じゃない。私と千夏の間にある心はもっと上の方。それと同じ心を持ってる男を私は、見付けたい…。

『凄いね、清彦くんって…。もう4ヶ月だよ?悟くん越えたよ?この前、泊まりで海行ったのに耐えたんでしょ?それはもう、本気だよ!本気で優里と付き合って行こうとしてるんだよ!他のチャラ男達とは、絶対違うって!絶対、運命の人なんだって!』

『うーん…。私も、そりゃあキーちゃんは、今までの低俗な男達とは違うなって思ってるよ。私から、あんだけチュウしといて、その後は、あっさり躱したら、それは、さすがにかわいそうだったかなって思う。』

『あら!あの優里がそこまで積極的になったの?優里、それってもう、情じゃない?情が湧いてるんだよ!』

『情ねぇ…。』

『そう!だからもう、ほっとけないって事!優里は、清彦くんが好きになってるって事!もう十分じゃない。認めてあげなよ。それに優里だって、そろそろ清彦くん用のキャラ作るの疲れたでしょ?良い時だと思うよ。』

『うーん…。』

確かにね、キーちゃんは、凄くいい人だと思う。一緒にいると凄い安らぐし、楽しいし、私の要求を全部、受け入れてくれる。それは、もう当のとっくに私の理想像を越える姿に到達してるのに、途中何度も抜け殻になってるのに、笑顔で受け止めてくれる。千夏の言う通り、ホントにキーちゃんを運命の人だと諭すべきなのかな…。今度は、私がキーちゃんの気持ちを受け止める番なのかな…。

12月20日―。

いつもなら何の変哲もない私の誕生日。ただ、今年は少し違った…。

『…はい、優里これ!』

『え?』

『誕生日おめでとう!』

『あ、ありがとう!ってか、びっくりしたぁ!何?キーちゃん、わざわざ私の為に、こんなサプライズしてくれたの?』

『何を言っちゃってんのさ!愛する人の為なんだから、せっかくの、それも学生最後の誕生日だろ?このぐらい、…まぁ、分かりやすいサプライズだけど。企画するぐらい当然しょ!』

『キーちゃん…。』

『…それとだ、優里。肝心なのはこれから!』

『え?』

『そのプレゼントの財布の小銭入れの中、開けてごらん』

『え、小銭入れ…?な、なにこれ!何で?指輪!?』

『優里!』

『は、はい!』

『俺、本気で優里を愛してます!本気で優里を幸せにします!だから、本気で給料3ヶ月分の指輪を買いました!俺の本気の気持ち、受け取って下さい!結婚しよう!』

嘘でしょ!?まさかプロポーズされるなんて思いもしなかった。だってまだ、付き合って半年だよ?何より、私まだ学生だよ?せっかく決まった就職は?内定取り消せって事?どういうつもり?何で、このタイミングなの?そんなに本気って羅列されたって分かんないよ!…でも、もしかして、これは、キーちゃんの限界の合図とも受け取れるよね。ここらで決着付けたいって事なのかな…。

『…優里?聞いてるか?』

『…え?あ、ああ!もちろん!ちゃんと聞いてるよ。』

『返事、聞かせてもらえる?本気の…。』

結婚…。

私が…?結婚?信じられない。あまりに現実味がなさすぎて…。でも、素直に結婚しちゃったら逆に、純粋にキーちゃんを愛する人として受け入れられるのかな。もう十分、キーちゃんは、それに値する人だよ…、そうだよね?千夏…。

『キーちゃん、私ね…。』
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