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ーエピローグー
エピローグ Ⅰ
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引っ越した街での暮らしは、快適だった。それは、何より、私達の事を誰も知らないから。誰も、私達を好奇な目で見る人はいない。何も知らない人との、上辺だけの笑顔の挨拶。でも、それが、この上ない幸せを感じさせてくれた。
『お母さん、言ってきまーす!』
『はい、言ってらっしゃい!車に気をつけるのよ!』
『うん!』
凛太郎は、新しい学校にも、直ぐに馴染んだようで、学校へ向かう後ろ姿に悲壮感を感じる事はなかった。かつての友達と、お別れしなきゃならなくなった事は、本当は、相当に辛かっただろうと思う。それでも、凛太郎は、一切、そんな素振りを見せなかった。その姿勢には、我が息子ながら本当に驚かされる。
『…おっつー!歩実!』
『みなみ!来てくれて、ありがとう!引っ越しの時以来だね。』
引っ越してから二カ月後、幼稚園の時に出会って以来、初めて遠距離になった、みなみが遊びに来てくれた。
『歩実と二カ月会わないなんて初めてじゃない?』
『ね!こんなに離れること無かったもんね。』
『歩実、元気だった?』
『元気だよ。電話でも話してるんだから、大丈夫だよ。』
『そう…。なら良いけど。』
『みなみこそ大丈夫?何か、元気無さそうに見えるけど…。』
『そんな事ないよ。私だって元気だよ。』
『そう…?私が、こんなこと言うの珍しいけど、やっぱり何か、いつものみなみとは違う気がするな…。』
『うーん…。何だかんだで歩実も、ちゃんと私のこと見てるのね。別に、元気が無いとか、そう言う事じゃないんだけど、実はね、歩実に一つだけ、まだ黙ってた事があるんだ。』
『え…?そうなの?それって、六年前の事で?』
『そう。実は、私が襲われた日には、目撃者がいたの。』
『ホントに!?それで!?』
『その当時で、二十台後半のミュージシャン志望の男の人。小田切さんて言うんだけど。ああ!でもね、何か変な事があった訳じゃなくて、私は、未遂だったでしょ?それで、膝とか擦りむいたり、服がボロボロになってたりしたから、部屋に呼んで手当てしてくれたの。』
『そうなんだ…。』
『その時にね、一応、連絡先を交換してて、六年間一度も連絡した事なかったんだけど、ついこの間ね、零児さんが逮捕された事で、心配してると思って小田切さんと連絡を取ったの。』
『うんうん。それで?』
『そしたらね、私の身に何かあったのかって、やっぱり、心配してくれてね。私は、大丈夫で至って元気ですよって伝えたら、凄く優しく言葉をかけてくれてさ。』
『そうなんだ。良かったね。』
『うん。それでね、私も、あの日の事にケリを付けようと思ってたから、今回の電話で小田切さんに連絡先を消しましょうって言ったの。それで、あの日の事は終わりって…。』
『みなみ…。』
『小田切さんも、分かってくれて理解してくれたの。でもね、歩実、どうしよう!私、小田切さんの電話番号を消した途端に、小田切さんが気になってしょうがないの!』
『え!?みなみ、それって…!』
『うん。そうなんだと思う。私、小田切さんに恋してるかも…。』
『えー!?』
『あの優しい声と言葉が、本当に嬉しかったんだ。小田切さんは、六年間ずーっと私の事を気にかけてくれてたんだって。そんな、小田切さんの声が、私から、お願いした事なんだけど、もう聞けないんだって思ったら、急に寂しくなっちゃってさ…。』
『みなみ…。それ、会いに行った方がいいよ!』
『やっぱ、そう、思う?』
『うん!絶対、会いに行くべきだよ!』
『そっか。歩実が、そう思うなら、私も、たまには、歩実の直感を信じようかな。』
『そうだよ!たまには、私を信じて動いてみるのもいいんじゃない?』
『分かった!私、小田切さんに会ってみる!』
『うん!』
みなみからの告白には、正直、驚いた。でも、私の心配ばっかりで、自分の幸せを、ずっと後回しにしていた、みなみには、小田切さんと、どうにか上手く行って欲しかった。
だから、まさか、そんな結末が待っているなんて考えもしなかった…。
『…歩実、私が悪いんだよ!私の、せいだよ!』
『何でよ!みなみは、何も悪くないよ!みなみのせいなんかじゃないよ!』
みなみは、あの告白から数日後、小田切さんに会いに行きました。何の連絡も入れずに、あの時の記憶を頼りに、小田切さんのアパートを訪ねました。でも、いくら呼び鈴を押しても、ノックをしても反応がありませんでした。けれど、鍵が開いていました。みなみは、恐る恐る、ドアを開けました。すると、そこには、カーテンレールにタオルを巻き付け、首を吊った小田切さんの変わり果てた姿がありました。
『…私が!私が、余計な電話なんかしたから!私が、あのまま、何もしなければ、小田切さんは、こんな事になってなかったのよ!絶対!絶対!私が…!』
『そんな訳ないでしょう!何で、そんな事で小田切さんが死ななきゃならないのよ!みなみは、関係ない!関係ないわよ!だって、遺書は!?遺書は、なかったの!?』
『遺書は、探したけど、何処にも無かったの。だから、私なのよ!私の、せいなのよ!私が、連絡したから、衝動的に…!』
『違う!絶対に違うから!みなみ、お願いだから、自分を責めないで!』
私は、みなみを説得するのに必死だった。自分を執拗に責める、みなみを説得するのに…。みなみは、絶対に悪くない。そう思わせないと、今度は、みなみが自らの命を絶ってしまう。そう思ったから…。でも、一体なんで?なんで、小田切さんは、自ら命を絶ってしまったの?私は、その真相を知りたかった。
みなみは、小田切さんの遺体の第一発見者という事で、何度も警察から事情聴取を受けた。その関係性を問われ、死の真相を問われ、完全に疲弊していた。
『みなみ…。大丈夫?』
『うん…。大丈夫だよ。ごめんね、歩実。心配かけて。』
『うーうん。私の事は、別に…。そんな事より、私は、みなみの心の方が、よっぽど…。』
『ありがとね、歩実。私は、大丈夫だよ。それよりね、歩実。小田切さんの遺書は無いって言ってたでしょ?』
『うん。』
『それがね、どうやら、小田切さん、死ぬ直前に母親宛に送った手紙があったんだって。』
『え?ホントに!?』
『うん。でも、警察の人から、あなたは、読まない方が良いですよって言われたの。』
『そうなの?でも、そんな事、言われたら逆に気にならない?』
『うん。でも、いいんだ。私は、もう、このまま何も知らないままでいようと思うの。』
『みなみ…。』
『だから、歩実も…。』
『うん、分かった。みなみが、そう言うんだったら、私も、みなみに同調する。私にとって、みなみの意見は、絶対だから!』
『歩実…。ありがとう。私達、もう、このまま何も知らないでいよう。』
『うん。その方が、幸せだよね。きっと…。』
『お母さん、言ってきまーす!』
『はい、言ってらっしゃい!車に気をつけるのよ!』
『うん!』
凛太郎は、新しい学校にも、直ぐに馴染んだようで、学校へ向かう後ろ姿に悲壮感を感じる事はなかった。かつての友達と、お別れしなきゃならなくなった事は、本当は、相当に辛かっただろうと思う。それでも、凛太郎は、一切、そんな素振りを見せなかった。その姿勢には、我が息子ながら本当に驚かされる。
『…おっつー!歩実!』
『みなみ!来てくれて、ありがとう!引っ越しの時以来だね。』
引っ越してから二カ月後、幼稚園の時に出会って以来、初めて遠距離になった、みなみが遊びに来てくれた。
『歩実と二カ月会わないなんて初めてじゃない?』
『ね!こんなに離れること無かったもんね。』
『歩実、元気だった?』
『元気だよ。電話でも話してるんだから、大丈夫だよ。』
『そう…。なら良いけど。』
『みなみこそ大丈夫?何か、元気無さそうに見えるけど…。』
『そんな事ないよ。私だって元気だよ。』
『そう…?私が、こんなこと言うの珍しいけど、やっぱり何か、いつものみなみとは違う気がするな…。』
『うーん…。何だかんだで歩実も、ちゃんと私のこと見てるのね。別に、元気が無いとか、そう言う事じゃないんだけど、実はね、歩実に一つだけ、まだ黙ってた事があるんだ。』
『え…?そうなの?それって、六年前の事で?』
『そう。実は、私が襲われた日には、目撃者がいたの。』
『ホントに!?それで!?』
『その当時で、二十台後半のミュージシャン志望の男の人。小田切さんて言うんだけど。ああ!でもね、何か変な事があった訳じゃなくて、私は、未遂だったでしょ?それで、膝とか擦りむいたり、服がボロボロになってたりしたから、部屋に呼んで手当てしてくれたの。』
『そうなんだ…。』
『その時にね、一応、連絡先を交換してて、六年間一度も連絡した事なかったんだけど、ついこの間ね、零児さんが逮捕された事で、心配してると思って小田切さんと連絡を取ったの。』
『うんうん。それで?』
『そしたらね、私の身に何かあったのかって、やっぱり、心配してくれてね。私は、大丈夫で至って元気ですよって伝えたら、凄く優しく言葉をかけてくれてさ。』
『そうなんだ。良かったね。』
『うん。それでね、私も、あの日の事にケリを付けようと思ってたから、今回の電話で小田切さんに連絡先を消しましょうって言ったの。それで、あの日の事は終わりって…。』
『みなみ…。』
『小田切さんも、分かってくれて理解してくれたの。でもね、歩実、どうしよう!私、小田切さんの電話番号を消した途端に、小田切さんが気になってしょうがないの!』
『え!?みなみ、それって…!』
『うん。そうなんだと思う。私、小田切さんに恋してるかも…。』
『えー!?』
『あの優しい声と言葉が、本当に嬉しかったんだ。小田切さんは、六年間ずーっと私の事を気にかけてくれてたんだって。そんな、小田切さんの声が、私から、お願いした事なんだけど、もう聞けないんだって思ったら、急に寂しくなっちゃってさ…。』
『みなみ…。それ、会いに行った方がいいよ!』
『やっぱ、そう、思う?』
『うん!絶対、会いに行くべきだよ!』
『そっか。歩実が、そう思うなら、私も、たまには、歩実の直感を信じようかな。』
『そうだよ!たまには、私を信じて動いてみるのもいいんじゃない?』
『分かった!私、小田切さんに会ってみる!』
『うん!』
みなみからの告白には、正直、驚いた。でも、私の心配ばっかりで、自分の幸せを、ずっと後回しにしていた、みなみには、小田切さんと、どうにか上手く行って欲しかった。
だから、まさか、そんな結末が待っているなんて考えもしなかった…。
『…歩実、私が悪いんだよ!私の、せいだよ!』
『何でよ!みなみは、何も悪くないよ!みなみのせいなんかじゃないよ!』
みなみは、あの告白から数日後、小田切さんに会いに行きました。何の連絡も入れずに、あの時の記憶を頼りに、小田切さんのアパートを訪ねました。でも、いくら呼び鈴を押しても、ノックをしても反応がありませんでした。けれど、鍵が開いていました。みなみは、恐る恐る、ドアを開けました。すると、そこには、カーテンレールにタオルを巻き付け、首を吊った小田切さんの変わり果てた姿がありました。
『…私が!私が、余計な電話なんかしたから!私が、あのまま、何もしなければ、小田切さんは、こんな事になってなかったのよ!絶対!絶対!私が…!』
『そんな訳ないでしょう!何で、そんな事で小田切さんが死ななきゃならないのよ!みなみは、関係ない!関係ないわよ!だって、遺書は!?遺書は、なかったの!?』
『遺書は、探したけど、何処にも無かったの。だから、私なのよ!私の、せいなのよ!私が、連絡したから、衝動的に…!』
『違う!絶対に違うから!みなみ、お願いだから、自分を責めないで!』
私は、みなみを説得するのに必死だった。自分を執拗に責める、みなみを説得するのに…。みなみは、絶対に悪くない。そう思わせないと、今度は、みなみが自らの命を絶ってしまう。そう思ったから…。でも、一体なんで?なんで、小田切さんは、自ら命を絶ってしまったの?私は、その真相を知りたかった。
みなみは、小田切さんの遺体の第一発見者という事で、何度も警察から事情聴取を受けた。その関係性を問われ、死の真相を問われ、完全に疲弊していた。
『みなみ…。大丈夫?』
『うん…。大丈夫だよ。ごめんね、歩実。心配かけて。』
『うーうん。私の事は、別に…。そんな事より、私は、みなみの心の方が、よっぽど…。』
『ありがとね、歩実。私は、大丈夫だよ。それよりね、歩実。小田切さんの遺書は無いって言ってたでしょ?』
『うん。』
『それがね、どうやら、小田切さん、死ぬ直前に母親宛に送った手紙があったんだって。』
『え?ホントに!?』
『うん。でも、警察の人から、あなたは、読まない方が良いですよって言われたの。』
『そうなの?でも、そんな事、言われたら逆に気にならない?』
『うん。でも、いいんだ。私は、もう、このまま何も知らないままでいようと思うの。』
『みなみ…。』
『だから、歩実も…。』
『うん、分かった。みなみが、そう言うんだったら、私も、みなみに同調する。私にとって、みなみの意見は、絶対だから!』
『歩実…。ありがとう。私達、もう、このまま何も知らないでいよう。』
『うん。その方が、幸せだよね。きっと…。』
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