今も昔も変わらないもの。

杉本けんいちろう

文字の大きさ
1 / 1

今も昔も変わらないもの。

しおりを挟む
『お母さん…。私達は一体いつまでこんなことをしてればいいの?』

『勝つまでよ。』

『勝つまでって…。本当に勝てるの?今だってどういう状況なのかさえも私達は分からないのに…。お父さんも欽ちゃんも本当に帰って来れるの?』

『いいかい?良子。私達は、お国の為に全てを捧げるの。この体も、夢も全て…。私達は負ける事を認めてはいけないの。勝つ事で治めていくの。私達が生まれた所は、そういう国なの。私達は隷民なのよ。』

反駁は乱を招き、服従こそが〝その権利〟を得れる。ただ、そこで暮らすことの…。
時は遍くも、泥を飲む生活は終わりを知れず。招福という願望は、夢を欺き…。

母は、とにかくよく掃除をする人だった…。
汚れを嫌い、ただでさえボロボロの住家でもたった一つの埃も嫌った…。特に厠の掃除には気を使っていた。

『お母さん…、何でそこまでするの?』

『…いいかい、良子。お母さんはね、この家を守らなきゃいけないの。戦いに行ってるお父さんがいつ帰って来てもいいように、変わらないこの家を守らなきゃいけないの。』

『お母さん…。』

『良子。身の回りを綺麗にすることは、その人自身の成りを表すの。本来は承けるはずだった恩恵すら逃げて行ってしまうわ。特に厠はね、私達の一番の汚れを受け入れてくれる所だからね、感謝の気持ちを込めて掃除をするの。分かった?磨くのは自分だけじゃないのよ。まず身の回り、そこから始まるのよ。欽ちゃんに帰って来て欲しいなら、先ず信じ続けなさい。それから、自分を見つけなさい。だから私達は、掃除をするの。いつ何が来ても受け入れられる様に常日頃から綺麗に整えておくのよ。』

私は、母を尊敬している…。

あの時代、私達に一番求められる事は、信じ続ける事だけだった…。戦争に勝つ事を信じ、そこへ向かった愛する人の帰りを信じ、そして、和平を信じ…。

負ける事で終わった戦争には、あの我慢の日々を戦った母達には気の毒だけど、それらを信じ続けた事実は、この落ち着いた〝今〟を齎した…。

ーーー。

『お婆ちゃん…。』

『ん、何だい?貴子。』

『私、お爺ちゃんに聞いたんだけど、お婆ちゃんて戦争に行ったお爺ちゃんの帰りを何年もずーっと待ち続けてたってホントなの?』

『ええ、本当よ。お爺ちゃんは絶対帰って来るって信じてたからね。』

『でも、戦争に行って帰って来れるなんて奇跡的な事なんでしょ?』

『そうだね…。でもね、貴子。信じ続ける事は、嘘はつかないのよ。貴子は今、好きな男の子はいるかい?』

『うん!同じクラスの慎吾君!足が早くて凄いカッコいいの!』

『そうかい。じゃあ、何があっても信じてずっと想っておく事だね。必ず報いは形となって訪れるわ。』

『ホントに?お婆ちゃん。』

『いいかい、貴子。先ずは信じる事。私達は、そこから始まるの。それだけは、今も昔も変わらないものよ。』

                                ー完ー
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

貴方が望むなら死んであげる。でも、後に何があっても、後悔しないで。

四季
恋愛
私は人の本心を読むことができる。 だから婚約者が私に「死んでほしい」と思っていることも知っている。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...