俺が異世界転移して帰ってくるまでの話

usako

文字の大きさ
3 / 6

俺が異世界転移して帰って来るまでの話 3

しおりを挟む
「え!?帰れるんですか!?」


なんだと!?

突然の転移に混乱していて、そこまでまだ考えが及んでいなかったが、俺の知識(注:漫画・アニメ由来)からすると9割がた帰れないはずだ。

いや、帰れるのは嬉しい。向こうでやりたいことはまだまだたくさんあるのだ。

しかも、明日帰れる?何年もエネルギーとかが貯まるの待ったりしなくていいんだ?


「大丈夫、ちゃんと帰れるから安心して。帰還魔法って使える日が限られてて月一くらいしかないんだけど、明日がちょうどそれだから。君、ラッキーだね。」


軍服マッチョがにこやかに言った。

いや、俺的には転移した時点でアンラッキーなんだが。

何の使命もなく只々異世界へ来て、保護されて次の日うちに帰るって事だろ…?

せっかく異世界へ来て帰る手段もあって安心なのに、異世界を堪能したり現地人と交流する時間もない。

しかも日本時間で今日は水曜日だ。帰れば講義もバイトもある。

あ!バイト!明日の夕方には帰れるのか!?講義は何とかなるがバイトの無断欠勤はクビが飛んでしまう!ただでさえこの前、姉ちゃんがうちにいきなり泊まりにくるからとギリギリでシフトを変えてもらったばっかりなんだ!

しかし、あの時は酷かった…。姉ちゃんが来るなりツマミと酒を買ってこいと使いっ走りさせられるし(流石にお金はくれた)、帰ったら何故か既に水野と一緒に飲み始めてるし、ツマミのセンスが悪いと散々文句を言われるし…。

あの時うちにあるもので水野がちゃちゃっと絶品料理を作ってくれたので事なきを得たが、あれがなければもう一度買いに行かされたに違いない。ホント、水野サマサマだ。

いや、そんなことよりバイトの話だ。


「あの、何時頃帰れるんでしょうか?俺、明日は向こうで用事があって…。」


情けない声で俺が問うと、軍服マッチョはこれまたにこやかに答えた。


「あぁ、それなら心配しないで。帰還時は時空を超えるから、転移した時間とそう離れずに戻れるはずだ。」


時空を超える…。SFか…?よくわからんが、エレベーターを降りた直後に戻れるってことかな。それなら一安心だ。向こうの生活に支障はない。

…ならやっぱり、明日までと言わず、しばらく滞在したかったな…。



あらかた説明は済んだので移動しようと、軍服マッチョと共に石の部屋を出る。

ドアを潜ると、そこはもう外だった。

石の部屋はそれだけの石の建物で、祠のようなものだった。

周りは公園というか庭園というか、とにかく整えられた花壇やら木やら四阿やらがあり、ちょっと向こうにお城が見えた。

そう。お城が、見えた。

日本のお城ではない。ヨーロッパっぽいお城だ。ほら、某テーマパークのお姫様の城っぽいやつ。まさにあれ。尖ったところは青くて、壁は白い。まさにあれだ。


俺がポカンとお城を眺めていると、軍服マッチョが、


「異世界からのお客人は、国が管理しているんだ。わずかな時間ではあるが、あちらの城に滞在してもらうことになるよ。」


と言った。


うぉー、異世界っぽい!異世界ファンタジー定番の西洋風のお城!俄然テンションが上がってきた!

軍服マッチョに導かれ、俺はお城へ向かった。

そしてそこでこの国の王子様(超絶イケメン!)や貴族のエライ人に挨拶したり、ちょっとした食事会に参加したり(おいしかったと思うが王族やら貴族やらがズラッといて緊張しすぎて味も内容も覚えていない)、軍服マッチョ(後で名前はロバートだと教えてもらった)が案内役になってくれて、お城の中を見学させてもらったり、聞かれるまま日本での生活のことを話したり(大学の授業内容とか仕組みとか熱心に聞かれたな)、でっかくて豪華な風呂に入ったり(ホントにマーライオンが付いてた…)ふっかふかのでっかいベッドで寝たりした(もちろん天蓋付きだ!俺はどこでも寝れる派なのでぐっすりよく眠れた)。

そして、朝起きて、運ばれてきた朝食を部屋で食べて、みんなに挨拶して、石の祠からまた魔法陣で転移して、うちに帰って来た。正確には、1階のエレベーターホールに立っていた。


後ろを振り返ると、クリーム色のエレベーターのドアが閉まっている。

周りを見ると、ちゃんとうちのマンションのエントランスで、外は暗い。

スマホを見ると、電波マークが立っていた。時間は23時32分。日付も時間も、確かに俺の出掛けた頃だ。

ホッとして気が抜けて、放心状態でしばらくそこに立っていると、後ろから呼び掛けられた。


「広人?」


「あ、水野…。」


開いたエレベーターのドアから、水野が出てくるところだった。


「こんなとこに突っ立ってどうしたの?牛乳買いに行くんだろ?」


何も言わずに出てきたのに、何でそんな事わかるんだ。エスパーか!


「キッチンに空の牛乳パック置いてあったから。」


だから、何も言ってないのに何で俺の思ったことがわかるんだ!?


「全部顔に書いてあるからな。っていうか、お前こんな時間に1人で外出るなよ。危ないだろ。」


「…あのなぁ、女子じゃないんだからさ。」


水野の言葉にため息をつく。

風呂から出て俺のいないことに気づき、すぐ追いかけてきたんだろう。水野の髪はまだ湿っている。


同じ大学に入ってルームシェアをはじめた頃から、水野は俺に対して過保護だ。

「セツコさんに頼まれてるから」と、俺の体調や食生活を気にかけ、学部が違うのに俺の時間割を把握し共通科目は同じ講義を取り、バイトで遅くなった時や飲み会の時は帰りに迎えに来る始末。ちなみにセツコは俺の母親だ。

そりゃ、俺は水野みたいに見た目から強そうじゃないし、なんならホントに弱っちょろいから心配かもしれないが、女の子のように心配されては男の沽券にかかわるのだ。


「俺が心配で嫌なの。ほら、さっさと行こうぜ。」


水野に手を取られて促される。

おいおい、いいオトナがお手々繋いで仲良くお使いかよ…。どこまで俺をお子様扱いするつもりなんだ。まぁ、こんなことは日常茶飯事なので、今更怒るような事でもないが。

何なら酔っ払って足元がおぼつかず、ベッドまでお姫様抱っこで運ばれた事もある。

俺はすぐに酔っ払うが、記憶はなくさない派だ。さすがにあの次の日は居たたまれなかった。

そういう時は床に転がしといてくれと言ってみたが、体に悪いからと真面目に返されては、否とは言えなかった…。

水野は責任感があるいいやつなんだ。さすがスポーツマンだ。


話がそれたな。

そう、水野は過保護だ。

そんな過保護な水野は、俺が今の今まで異世界へ転移していたと聞いたらどうなるかな?

これはもう、ものすごく驚くんじゃないか?

今まで水野がものすごく驚いたところなんか見たことあっただろうか?

直近で見た驚いた顔は、テスト開けに家で二人で打ち上げをした時、二人とも相当飲んでいつの間にか寝てて、気がついたら二人して水野のベッドで半裸で寝てたときくらいか?しかも俺、どういうわけか水野の腕枕で寝てたんだよな。

目が覚めて傍らの俺に気が付いた時の、目をまんまるに見開いたあいつの顔は、近年まれに見るビックリ顔だったな!

ま、俺はもっとビックリして「うぎゃ!」と叫んだけどな!あんなイケメンが目の前にあったら、そりゃ叫ぶだろ!

叫んだ瞬間、二人とも頭痛で頭抱えて呻くハメになったな…。酒には気を付けよう…。

まぁ、あれもそうとう驚いてたとは思うが、声を出すほどではなかったもんな。


それならば、俺の短くも壮大な異世界冒険譚を、こいつに聞かせてやろうじゃないか!



「なぁ、水野。俺、さっき異世界から帰ってきたんだよ。」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...