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救出編
17譜-Fiamma-
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その男は今まで見て来たどんな人間よりも清廉な気配を感じさせた。
金色の目に浅黒い肌、炎のような赤い髪は軽く結われている。
その雰囲気に思わず息を飲む一同だったが男は優し気に微笑むだけだ、少なくともあのドラゴンとは違い敵意はないのだろう。
「なるほど、彼が暴れていたのは君たちが来たからか人間に人間もどき、如何にも彼が嫌いそうだ」
「……あなたは、違うのですか」
「私はここを任されている身に過ぎない、辿り着いた者がこの炎を預けるに値するのかをね」
男の少し背後には白い炎がゆらりと燃えており、真衣はようやくここまで辿り着いたことに安堵を覚える。
だが、男の言葉の意味をそのまま受け取るのであればそう簡単に入手出来るわけではないのだろう。
説明が必要だろうかと口を開いたと同時に後ろから走ってくる音がする。
「人間風情がこの地に!」
「お黙りなさい、この地へ来たと云う時点で等しく試練を受けるに足る人物です」
「グッ」
同じ顔だが立場が違うのだろう、人間の姿に化けているドラゴンは悔しそうに黙ってしまう。
真衣は一歩進み出て男の前で膝を着いた。
「高貴なお方とお見受け致します。この地への突如の来訪ご容赦くださいませ」
「ほう?」
「この地に眠ると云う白き炎を拝借願えませんでしょうか」
「いいですよ、と私としては返したいところですが、人間の身にこの炎はいささか重たいでしょう、触れることも叶わず一瞬で焼け死んでしまいます」
ドラゴンの時にも気付いていたがここは紛うことなき神の領域だ。
神を信じないなど云ってもいられない、この目の前にいるのは真衣が自ら足を折るに足る何かなのだけは確実だった。
白い炎の正体は神の炎と云うことだ、確かにそうであれば傀の氷をも溶かせるに違いない。
そんな真衣の願いも虚しく返って来た返答はある意味当然の回答でもあった。
真衣は男を見るもその金色の眸からは考えを読み取ることはもちろん出来ない。
「ですが、試練を等しく与えるようにと仰せつかっています」
「試練、ですか」
「この炎を所持するに相応しいかどうか、スルト様より」
「古の炎の神……」
この大陸で炎の神と云えばレムリアのことだが、それより以前は別の神が炎の神を名乗っていたと云う。その名がスルト、真衣はぞくりとする感覚に襲われる。
先ほど以上の緊張感に唾を飲み干す。
人間の身では踏み入れてはならない場所に踏み入れてしまったのではないかと云う今更ながらの考え。
「何、簡単なことです。この炎に触れて死ななければいいのですよ」
「はい?」
先ほど自分が云ったことをこの男は忘れたのだろうか。
人間が触れればその前に死んでしまうと云ったこの炎に触れるなど死ねと云っているようなものだ。
その言葉に背後で暗乃と鼓が動くのを感じるが手だけで二人を静止させる。
「触れることが出来ればいいのですか」
「はい、そのように出来ていますから」
嘘ではないのだと云うことはわかるがあまりにも無謀だ、だからとここで「はい、そうですか」と帰るわけにもいかない。
かと云えど鼓や暗乃に何かをさせるわけにもいかない。
傀を助けると云うのは真衣の望みなのだ。
「真衣、いったん作戦を」
「今私は彼女と話しています、お黙りください」
暗乃の言葉は男によって遮られた。
やはり、真衣一人で何とかするようにと云うことなのだろう。
先ほどのドラゴンと戦って何とかしろと云う試練の方が何倍も楽ではないかと真衣は背中に伝う汗に思う。
神の炎を人間が、更に真衣とは属性も違う。
白い炎を見付けてどうやって持ち替えるべきなのかと云うのはずっと考えていたことではあったがこのような状況は想定外だった。
どうすると考える真衣に男は微笑みを崩さない。
真衣がここで焼け死ねば後ろの二人も帰るだろうと云う認識なのだろうか。
「もちろん、ここで諦めるのも賢明だと私は思います」
「やります」
「ほう?」
諦めるなど傍から頭にはない。
後ろで鼓が自分の名前を呼ぶのがわかるが真衣は二人を振り返って笑った。
「大丈夫」
それは二人を安心させる為の言葉であると同時に自分に云い聞かせる言葉でもあった。
男は身体をずらし真衣を炎の前に誘導する。
大丈夫なわけない今すぐ帰ってそれから不慣れでも街を、国を立て直すのがいいに決まっている。でもそこに傀の姿がないのでは不十分だと云うのだけは真衣が誰よりもわかっている。
先ほどの洞窟の中ですら感じなかった熱を近寄る度に感じる。
それでも歩みを止めないのは本当に愚かなのかもしれない。
神に手を伸ばしその罪故に魔物に姿を変えられた神話の内容を思い出す。
自分もそうなるのだろうか、手を伸ばすにも熱すぎるそれに僅かに顔を顰めながら真衣は願う。
そして、真衣は炎に包まれる。
「真衣!」
「お静かに、試練はまだ終わっていません」
叫び近寄ろうとした鼓に男は冷たくそう云い放った。
熱い苦しい痛い、そして寒い。
真衣は気付けば真っ暗な空間に立っていた。
やはり炎に焼かれ所謂あの世とやらにでも来てしまったのだろうか。
周りを見回しても何もない、先ほどとは異なるシャンラン山脈で味わったような寒さに蹲りたくなる気持ちを抑え足を進めた。
しばらく歩いた真衣の目に白い光が現れる。
己を焼いた炎だと気付くのに数瞬時間が掛かったが、真衣は苦笑する。
「私では役不足でしたか」
返ってくるはずもないただのぼやきだった。
鼓にも、何よりも暗乃に悪いことをしてしまったと真衣は俯く。
それだけではない、真衣がいなくなった後リーウェンの民はどうなるのだろう。
せめて真衣だけでもと願ったダゴンの言葉は、嘘を吐いたことになる。
それでも足を止められないのは傀の偉大さを過去浴びて来たからだ。
優しくて苛烈で皇帝になるに相応しいと云われ続けていた兄、彼がいなければリーウェンの復興など出来はしない。
そんな真衣の肩に誰かが触れた。
背後を振り返るとそこには見たこともない女性が立っていた。
美しい澄んだ空色の髪に金色の眸、同性である真衣ですらこんなにも目を奪われる美しい女性だ、男の人ならば一瞬で虜にしてしまうだろう。
「大丈夫」
女性はそうまるで天啓のように囁いた。
鈴が鳴るような美しい声は真衣の心の不安を全て打ち払う気分にすらさせた。
「大丈夫よ、可愛い子」
真衣の頬を撫で彼女は更に微笑む。
その言葉が全てであるかのように真衣の手を取り白い炎に手を伸ばすように腕を動かす。
白い炎に翳された手をまるで伝うように炎は真衣の身体を再び包む。
けれど不思議なことに熱さはなく、先ほどまで感じていた寒さもない。
炎はくるりと回った後、真衣のペンダントへと吸収されていった。
「大切なもの?」
「……はい」
女性の質問に真衣は素直に答える。
この旅が終われば去ってしまうかもしれないヒト。
この数週間で何度も助けられたヒト。
美しいのに残酷さを持つ不思議なヒト。
「そう、それは苦しいわね」
言葉にしてもいないのに女性は真衣の気持ちを分かったようにそう告げる。
そして真衣の手を包み込むように握り締める。
「でも、大丈夫」
またあの言葉だった。
「ほら、ここにいては駄目よ」
彼女はそう続ける。
真衣の耳に先ほどまでは聞こえなかった鼓と暗乃の声が響いてくる。
この空間は果たして何だったのか、真衣が女性に目を向けるとそれでも彼女は静かに微笑んでいた。
「そうだ、貴女に一つお願いがあるの、彼を──を」
彼女の言葉は最後まで聞き取れないまま真衣は意識を覚醒させた。
炎に撒かれた身体は何ともない、熱さを感じていたがそれも問題ない。
先ほどまでの暗い空間は何だったのか身体を慌てて起き上がらせた真衣に鼓と暗乃がほっとした顔でこちらを見る。
その背後にはにこやかなままの男が立っていた。
「炎は貴女を主と認めたようです」
「え?」
急な男の言葉に真衣は情けない声を出していた。
そして思わずペンダントを見るとそこには暗乃の物とは違う魔力の塊が渦巻いているのがわかる。
先ほどの暗い空間は何だったのだろうかと云う真衣の疑問に男が口を開いた。
「白き炎は心清きモノにしか持つことは許されません、貴女は持つことを許された。それだけのことです」
「清きモノ……」
繰り返しながらも真衣はそんな対したモノではないとも思う。
それでもこの炎を手に入れたことは間違いなくこの旅の到着点にもなるだろう。
ほっとした気持ちでペンダントを眺めていた真衣の前に男が今度は膝を折った。
「試すようなマネをして申し訳ありません」
「え」
「その炎を持つ者は主と同じ、彼も貴女に危害を加えることはありませんし、我らスルト様の傍仕え聖霊は貴女に力を貸すことでしょう」
「聖霊……」
正体を掴みあぐねていた男の正体を明かされて尚真衣は不思議な気持ちだった。
聖霊が人の形を持っていることが不思議な気分と云うのが正しいだろうか。
男の金の眸は先ほどのものよりも優しく見えるのは気のせいではないはずで、言葉も本当のことなのだろう。
真衣は安心したように微笑んで気を失う。
「試練に人間の身体では負担が大きかったのでしょう」
「死んでたらどうするつもりだったのさ」
「?それはそれ、我らが主にふさわしくないモノだっただけのことです」
暗乃の質問に男は何を云っているのか分からないと云う風に返す。
それが本質であり、真衣に跪いたのもけして真衣を認めたからではない。
その反応に暗乃は吐き気がすると云ったような反応を見せるがそれを鼓がいなす。
「彼女を休ませたい、何か場所はあるか」
「主の寝室であればすぐ用意させましょう」
男は尚もにこやかに返す。
真衣を鼓が抱きかかえると寝室と呼ばれる場所まで案内され、二人はそこで真衣の目ざめを待った。
時間にすれば数刻程度で真衣は目を覚ました。
自分のいる環境がわからずパニックになりかけている真衣に暗乃と鼓で話をまとめる。
夢ではなかったことに安心してペンダントを握り締める真衣に二人も安堵して微笑み合った。
ここに長居するわけにもいかない。
真衣が起きたのならば本当の最後の旅をしなければならない。
ここまで来た道を引き返すのだ、それはまたきっと色々とあるだろうが、希望のあるものに違いがないことだけは真衣にはわかる。
「戻ろう、ルベドの森に!」
金色の目に浅黒い肌、炎のような赤い髪は軽く結われている。
その雰囲気に思わず息を飲む一同だったが男は優し気に微笑むだけだ、少なくともあのドラゴンとは違い敵意はないのだろう。
「なるほど、彼が暴れていたのは君たちが来たからか人間に人間もどき、如何にも彼が嫌いそうだ」
「……あなたは、違うのですか」
「私はここを任されている身に過ぎない、辿り着いた者がこの炎を預けるに値するのかをね」
男の少し背後には白い炎がゆらりと燃えており、真衣はようやくここまで辿り着いたことに安堵を覚える。
だが、男の言葉の意味をそのまま受け取るのであればそう簡単に入手出来るわけではないのだろう。
説明が必要だろうかと口を開いたと同時に後ろから走ってくる音がする。
「人間風情がこの地に!」
「お黙りなさい、この地へ来たと云う時点で等しく試練を受けるに足る人物です」
「グッ」
同じ顔だが立場が違うのだろう、人間の姿に化けているドラゴンは悔しそうに黙ってしまう。
真衣は一歩進み出て男の前で膝を着いた。
「高貴なお方とお見受け致します。この地への突如の来訪ご容赦くださいませ」
「ほう?」
「この地に眠ると云う白き炎を拝借願えませんでしょうか」
「いいですよ、と私としては返したいところですが、人間の身にこの炎はいささか重たいでしょう、触れることも叶わず一瞬で焼け死んでしまいます」
ドラゴンの時にも気付いていたがここは紛うことなき神の領域だ。
神を信じないなど云ってもいられない、この目の前にいるのは真衣が自ら足を折るに足る何かなのだけは確実だった。
白い炎の正体は神の炎と云うことだ、確かにそうであれば傀の氷をも溶かせるに違いない。
そんな真衣の願いも虚しく返って来た返答はある意味当然の回答でもあった。
真衣は男を見るもその金色の眸からは考えを読み取ることはもちろん出来ない。
「ですが、試練を等しく与えるようにと仰せつかっています」
「試練、ですか」
「この炎を所持するに相応しいかどうか、スルト様より」
「古の炎の神……」
この大陸で炎の神と云えばレムリアのことだが、それより以前は別の神が炎の神を名乗っていたと云う。その名がスルト、真衣はぞくりとする感覚に襲われる。
先ほど以上の緊張感に唾を飲み干す。
人間の身では踏み入れてはならない場所に踏み入れてしまったのではないかと云う今更ながらの考え。
「何、簡単なことです。この炎に触れて死ななければいいのですよ」
「はい?」
先ほど自分が云ったことをこの男は忘れたのだろうか。
人間が触れればその前に死んでしまうと云ったこの炎に触れるなど死ねと云っているようなものだ。
その言葉に背後で暗乃と鼓が動くのを感じるが手だけで二人を静止させる。
「触れることが出来ればいいのですか」
「はい、そのように出来ていますから」
嘘ではないのだと云うことはわかるがあまりにも無謀だ、だからとここで「はい、そうですか」と帰るわけにもいかない。
かと云えど鼓や暗乃に何かをさせるわけにもいかない。
傀を助けると云うのは真衣の望みなのだ。
「真衣、いったん作戦を」
「今私は彼女と話しています、お黙りください」
暗乃の言葉は男によって遮られた。
やはり、真衣一人で何とかするようにと云うことなのだろう。
先ほどのドラゴンと戦って何とかしろと云う試練の方が何倍も楽ではないかと真衣は背中に伝う汗に思う。
神の炎を人間が、更に真衣とは属性も違う。
白い炎を見付けてどうやって持ち替えるべきなのかと云うのはずっと考えていたことではあったがこのような状況は想定外だった。
どうすると考える真衣に男は微笑みを崩さない。
真衣がここで焼け死ねば後ろの二人も帰るだろうと云う認識なのだろうか。
「もちろん、ここで諦めるのも賢明だと私は思います」
「やります」
「ほう?」
諦めるなど傍から頭にはない。
後ろで鼓が自分の名前を呼ぶのがわかるが真衣は二人を振り返って笑った。
「大丈夫」
それは二人を安心させる為の言葉であると同時に自分に云い聞かせる言葉でもあった。
男は身体をずらし真衣を炎の前に誘導する。
大丈夫なわけない今すぐ帰ってそれから不慣れでも街を、国を立て直すのがいいに決まっている。でもそこに傀の姿がないのでは不十分だと云うのだけは真衣が誰よりもわかっている。
先ほどの洞窟の中ですら感じなかった熱を近寄る度に感じる。
それでも歩みを止めないのは本当に愚かなのかもしれない。
神に手を伸ばしその罪故に魔物に姿を変えられた神話の内容を思い出す。
自分もそうなるのだろうか、手を伸ばすにも熱すぎるそれに僅かに顔を顰めながら真衣は願う。
そして、真衣は炎に包まれる。
「真衣!」
「お静かに、試練はまだ終わっていません」
叫び近寄ろうとした鼓に男は冷たくそう云い放った。
熱い苦しい痛い、そして寒い。
真衣は気付けば真っ暗な空間に立っていた。
やはり炎に焼かれ所謂あの世とやらにでも来てしまったのだろうか。
周りを見回しても何もない、先ほどとは異なるシャンラン山脈で味わったような寒さに蹲りたくなる気持ちを抑え足を進めた。
しばらく歩いた真衣の目に白い光が現れる。
己を焼いた炎だと気付くのに数瞬時間が掛かったが、真衣は苦笑する。
「私では役不足でしたか」
返ってくるはずもないただのぼやきだった。
鼓にも、何よりも暗乃に悪いことをしてしまったと真衣は俯く。
それだけではない、真衣がいなくなった後リーウェンの民はどうなるのだろう。
せめて真衣だけでもと願ったダゴンの言葉は、嘘を吐いたことになる。
それでも足を止められないのは傀の偉大さを過去浴びて来たからだ。
優しくて苛烈で皇帝になるに相応しいと云われ続けていた兄、彼がいなければリーウェンの復興など出来はしない。
そんな真衣の肩に誰かが触れた。
背後を振り返るとそこには見たこともない女性が立っていた。
美しい澄んだ空色の髪に金色の眸、同性である真衣ですらこんなにも目を奪われる美しい女性だ、男の人ならば一瞬で虜にしてしまうだろう。
「大丈夫」
女性はそうまるで天啓のように囁いた。
鈴が鳴るような美しい声は真衣の心の不安を全て打ち払う気分にすらさせた。
「大丈夫よ、可愛い子」
真衣の頬を撫で彼女は更に微笑む。
その言葉が全てであるかのように真衣の手を取り白い炎に手を伸ばすように腕を動かす。
白い炎に翳された手をまるで伝うように炎は真衣の身体を再び包む。
けれど不思議なことに熱さはなく、先ほどまで感じていた寒さもない。
炎はくるりと回った後、真衣のペンダントへと吸収されていった。
「大切なもの?」
「……はい」
女性の質問に真衣は素直に答える。
この旅が終われば去ってしまうかもしれないヒト。
この数週間で何度も助けられたヒト。
美しいのに残酷さを持つ不思議なヒト。
「そう、それは苦しいわね」
言葉にしてもいないのに女性は真衣の気持ちを分かったようにそう告げる。
そして真衣の手を包み込むように握り締める。
「でも、大丈夫」
またあの言葉だった。
「ほら、ここにいては駄目よ」
彼女はそう続ける。
真衣の耳に先ほどまでは聞こえなかった鼓と暗乃の声が響いてくる。
この空間は果たして何だったのか、真衣が女性に目を向けるとそれでも彼女は静かに微笑んでいた。
「そうだ、貴女に一つお願いがあるの、彼を──を」
彼女の言葉は最後まで聞き取れないまま真衣は意識を覚醒させた。
炎に撒かれた身体は何ともない、熱さを感じていたがそれも問題ない。
先ほどまでの暗い空間は何だったのか身体を慌てて起き上がらせた真衣に鼓と暗乃がほっとした顔でこちらを見る。
その背後にはにこやかなままの男が立っていた。
「炎は貴女を主と認めたようです」
「え?」
急な男の言葉に真衣は情けない声を出していた。
そして思わずペンダントを見るとそこには暗乃の物とは違う魔力の塊が渦巻いているのがわかる。
先ほどの暗い空間は何だったのだろうかと云う真衣の疑問に男が口を開いた。
「白き炎は心清きモノにしか持つことは許されません、貴女は持つことを許された。それだけのことです」
「清きモノ……」
繰り返しながらも真衣はそんな対したモノではないとも思う。
それでもこの炎を手に入れたことは間違いなくこの旅の到着点にもなるだろう。
ほっとした気持ちでペンダントを眺めていた真衣の前に男が今度は膝を折った。
「試すようなマネをして申し訳ありません」
「え」
「その炎を持つ者は主と同じ、彼も貴女に危害を加えることはありませんし、我らスルト様の傍仕え聖霊は貴女に力を貸すことでしょう」
「聖霊……」
正体を掴みあぐねていた男の正体を明かされて尚真衣は不思議な気持ちだった。
聖霊が人の形を持っていることが不思議な気分と云うのが正しいだろうか。
男の金の眸は先ほどのものよりも優しく見えるのは気のせいではないはずで、言葉も本当のことなのだろう。
真衣は安心したように微笑んで気を失う。
「試練に人間の身体では負担が大きかったのでしょう」
「死んでたらどうするつもりだったのさ」
「?それはそれ、我らが主にふさわしくないモノだっただけのことです」
暗乃の質問に男は何を云っているのか分からないと云う風に返す。
それが本質であり、真衣に跪いたのもけして真衣を認めたからではない。
その反応に暗乃は吐き気がすると云ったような反応を見せるがそれを鼓がいなす。
「彼女を休ませたい、何か場所はあるか」
「主の寝室であればすぐ用意させましょう」
男は尚もにこやかに返す。
真衣を鼓が抱きかかえると寝室と呼ばれる場所まで案内され、二人はそこで真衣の目ざめを待った。
時間にすれば数刻程度で真衣は目を覚ました。
自分のいる環境がわからずパニックになりかけている真衣に暗乃と鼓で話をまとめる。
夢ではなかったことに安心してペンダントを握り締める真衣に二人も安堵して微笑み合った。
ここに長居するわけにもいかない。
真衣が起きたのならば本当の最後の旅をしなければならない。
ここまで来た道を引き返すのだ、それはまたきっと色々とあるだろうが、希望のあるものに違いがないことだけは真衣にはわかる。
「戻ろう、ルベドの森に!」
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