capriccio

月季花

文字の大きさ
21 / 28
救出編

幕間-Interludio-

しおりを挟む
 彼女たちを見送って男はひと段落と云った風に息を吐く。
 彼女たちには今後彼の同胞が力を貸すだろう、彼女に資格がないと炎が判断した時炎はこちらに帰還する。
 本来の持ち主は神であるスルトなのだ。
 それだけは変わらない。
 だが、何故あの炎はあんな小娘を主と認めたのだろう。
 彼としてはあの小娘にそのような資格があるようには見えなかった。
 俗世にまみれた汚い人間、清廉なモノなど神を以てしても限りがある。
 だから、彼は小娘が生還して驚いたのだ。
 人間に膝を着くのも屈辱的でしかなかった。
 少し前にこの地に足を踏み入れた人間は炎を前に恐怖で逃げ出した、あの小娘にはそれがなかったのだろうか。
 考えたところで無駄なことだ、彼は神代が終わった後も従順にその使命を果たすだけの精霊なのだ。ただ、帰らざる主の姿を真似てここで神の炎を守り続ける、それだけでいい。
 そう息を吐いた彼はそう云えばもう一人の従者が静かなことに疑問を覚えた。
 主の命令であれど人間などに従うのは彼のほうが屈辱に感じるであろうことはわかりきっていた。
 彼の悔しさの咆哮の一つでも聞けたならば気持ちも落ち着くと云うものなのだが、と彼の元に向かおうとして男は自分の胸に深々と刺さる剣に気付いた。

「は?」

 情けない声だったと思う、痛みがじわじわと身体を蝕むように湧いて来る。
 この痛みは果たして何だと云うのか、聖霊の身を傷つけるなど神でもなければあり得ない。
 だからこそあり得ない、神は死んだ。
 神代は終わったのだ。
 だからこそ男とドラゴンはこの地で無敵であれた。
 うねった蛇のような刃を手で握り引き抜こうとして痛みに悶える。
 引き抜きあの炎に身を投じれば炎の聖霊である男ならば回復が出来る。
 それでも刃は抜けず、男の身体からぼたぼたと血が抜け出る。
 この地を守りに辺り主から与えられた主とうり二つの身体、その誇りが崩れ落ちる。
 ダメだと必死に刃を抜こうとして自分の手がずたずたになるのも気にせず男は必至に暴れる。

「意外だった、まだ生きてたんだって」

 唐突に男の背後から聞き慣れない声が響いた。
 振り返るとそこにはドラゴンの首を持った男がへらへらと立っていた。
 自分に傷を付けたこともだが更にあり得ないものを見たと彼は男を見て口から零れる血を抑えもせず叫んだ。

「この破壊神め!」

 汚いどの種族とも違う黒水晶の眸。
 間違いない、神代を終わらせたあの破壊神だ。
 彼は悶えながらも炎に後ずさる。
 伝えなければ伝えなければ。
 あの破壊神が、神々の恥じがこの時代に帰って来た。
 今度は何をするつもりかなどわかったものでもない。
 この身体はもうダメだ、だから悔しいが聖霊の身体に戻り世界中の聖霊に伝達する。

「逃げちゃダメじゃないか」

 ドラゴンの首をどこかに放り投げ破壊神は彼に近寄る。
 恐怖が彼を支配する。
 何故今になって、何故この場所に、何故生きている。
 様々な問いは言葉にならず破壊神は背後から彼に刺さっていた剣を抜く。

「が、は……」
「この子はボクの愛剣でね、傷口を広げながら敵を切り裂けるんだ」

 頼んでもいない紹介をされ彼は振り返る。
 これほどまでに出血しても死なないのは聖霊のしぶとさだろうか。
 黒水晶は彼を見下ろしている。
 破壊神と云えど神は神だ、その重圧に彼は逃げると云う選択肢を見失った。
 ただただ恐怖に打ち震え身体が震える。
 命乞いをしろ助けを請えそんな頭が動く。

「か、カオスさま」
「うん?」
「どうか、お許しを」

 その言葉と同時に彼の首を破壊神が切り落とした。
 人間と変わらない血が噴き出すが破壊神は気にしない。
 少し汚れてしまったかなと顔に付着した血を拭い、動かなくなった聖霊を燃やす。
 白き炎はない、黒い炎だ。
 それは魂をも焼き尽くす炎、破壊神の持つ剣に宿る精霊の持つ力。
 この聖霊はもう二度と転生も許されない。

「神域なんて、今の時代には似合わないよ」

 破壊神はそう笑うとその場を後にした。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...