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救出編
18譜-Sulla via di casa-
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ムスペルヘイムを後にすれば戻るべきはルベドの森、なのだがこれも一朝一夕に何とかなるものではない。
シャンラン山脈を越える必要もあればカナンの幽霊街にリーウェンの幽霊街の惨状を報告する必要もあるだろう。
行きの道とは違う道を通りながら真衣は何度も考える。
傀が戻った後のことだ、実際はどうなるかはわからないが真衣もその手伝いをすることになるだろう。その際に問題なるのはカナンのことだ。
今のカナンが果たしてどのような状況なのか今まで歩いて来た街や村を見るにけして豊かな状況とは云えない、その状況でも真衣を狙う理由があるのだろうか。
十騎士が真にすべきは他のことなのではないか。
だが、王命でどこまでも追って来るのは間違いないだろう、そうなった時に真衣は本来の役目を果たせるのだろうか。皇女として、傀の支えとなるべきなのに傀に守られてばかりにならないだろうか。
今回の騒動もそれから始まったことなのだ、だからこそ真衣はこの旅を続けることが出来た。
今では刀を振るうことも出来るがそれだけではない、あちら側は真衣以外を殺してもいいと思っている。
それが一番問題なのだ、こちらの意思に関わらず殺意を躱すのは難しい。
傀はそれでもいいと云うだろうがそれではダメなのだ、根本の部分をどうにかしなければリーウェンの再興は望めない。
「今日はずいぶんとぼんやりだね」
「そんなに、ぼんやりしていた?」
「戦闘は問題なかったけど歩いてる時とかはね」
夕飯の後で暗乃にそんな会話をされては真衣もそうだったのかと考えてしまう。
鼓もきっと気付いているだろう、心配をさせるのは良いことではない。
「何か深い悩み事でも?」
「ううん、この旅が終わった時のことをちょっと」
「ああ、森に戻ったら大変そうだもんね」
「色々問題が山積みで、それを考えてたの」
「真衣は真面目だね」
「暗乃は……」
どうするの、と真衣はそんな言葉を飲みこんだ。
聞いたら答えてくれるだろうが、その回答が希望に沿ったものとは限らない。
中途半端に切ったこの場に暗乃は何かを察しているのか口を開いた。
「僕はフリーな旅人だからね」
「うん」
「さすがに金貨三十枚ももらったら少しゆっくりするかもね、かなり刺激的だったし」
暗乃の言葉はある意味当たり前の言葉であったようにも思う。
自由なその姿が少し羨ましくも思う、この旅が終われば暗乃の話は聞けなくなってしまうのはとても悲しい。
自分は今どんな顔をしているのだろうか。
真衣は暗乃から顔を背ける、あの時、暗乃が大けがを負った際の感情が胸に蘇る。
ピアスは今日も真衣がプレゼントした物だ。
「それとも離れがたく思ってくれてる?」
背けたせいで顔色はわからない、けれど一際優しい声だったように思う。
離れがたく思っているのだろうか、わからない。
真衣は再び暗乃を見た、その顔はいつものように少し微笑んでいるような軽薄さを感じさせるが眸はどこまでも黒いが火に当たり暖かさを感じさせる。
その顔はやはり美しく整っている。
「そう、かもしれない」
その顔を見つめながら思った言葉をそのまま告げる。
言葉を交わせなくなるのもきっと離れたくないとも思ってしまっている。
けれど真衣のそんな我儘でこの自由なヒトを縛りつけてしまうのは良くないことだと云うのは真衣が誰よりもわかっている。
傀の組織は死の平等の前に全てを受け入れると云っていた、長寿の別種でもきっとそれは変わらない、これだけは断言出来る。傀はそのようなことを気にする人間ではない。
だが、組織に属すると云うのは何も簡単なことではない。
それが国の名の元の組織であれば猶更だ。
「返事は旅の終わりまでに考えておくよ」
そんな真衣の考えをまるでわかっているかのように暗乃はそう微笑んだ。
とても狡くて優しい言葉だと真衣は思う。
そんな夜もやがて明けて朝が来る。
今日は昨日のように云われないようにしなければと真衣は気を引き締める。
そんな真衣の目に飛び込んできたのは大量の飛竜の群れだった。
一瞬カナン兵を疑ったがその背中に人影はない。
「飛竜の巣に入ってしまったみたい」
「珍しいなお前が」
あっけらかんと間違いを認める暗乃に鼓が驚いた声で話しかける。
今までもそうした大型生物の巣などは避けていたはずだが、今日は何かあったのだろうか。
「ああ、でも、一匹捕まえて空中散歩は楽出来るかも」
「手綱がないと操縦は難しいぞ」
鼓の冷静な言葉に暗乃は「だよね」と返す。
やはり今日の暗乃は少し可笑しい気がする。
飛竜の入り込めない林の奥まで逃げ込み水を飲みながら真衣は暗乃を見る。
いつも通りにも見えるが何かあったのだろうかとまで考えてまさかとも思う。
本当に昨夜のことを考えてくれているのだろうか。
うぬぼれてしまってはいけないと真衣は水を入れていた革袋をしまい、地図を見直す暗乃の横顔を見つめる。
そんな真衣を見ながら鼓が頭を抑えているのを真衣は知らない。
あれから軌道修正を行いシャンラン山脈の麓まで来た真衣たちだったがここで問題が発生する。
龍皮のマントがないのだ、シャンラン山脈を越えるには必須アイテムと云っても過言でないだろうが麓の村で手に入れようにも不自然に買い占められており食料調達がやっとだった。
恐らくカナン兵による工作だろうと暗乃と鼓の意見が一致した。
道も前回使った道は使えない、果たしてその状況でどうやって山を越えるか悩む真衣たちの元に木々を薙ぎ払って何かが走って来た。
『ニンゲン!』
あの反対側で行方不明になっていた謎の獣ヤクだ。
白い毛並みは泥だらけになっているが見間違えはない、真衣に近付きいつぞやのように舐めようとして鼓に止められる。
「お前、また逃げたのか……」
『チガう!オウチモえた!』
「燃えた?」
冷静に話す鼓にヤクは何度も頷いて見せる。
きらきらとした目は変わらないままにヤクは話をすすめる。
『スきにハシりマワッてもオコられない!』
「雪山越えられるってこと?」
何かを思いついたように暗乃がヤクに話しかける。
ヤクは頷きながら来た道を振り向き云う。
『ニンゲンのニオい!あったからキた!』
あの少しの交流で何故こんなにも懐かれているのかはわからないが、ヤクは尻尾を振りながら真衣の周りを走る。
何かすればバレかねないかとひやひやするが暗乃が驚く提案をして来た。
「君、人間運べる?」
『?』
「そこの二人背負って走れる?」
『うーん?デキるんじゃないかなー?』
その言葉にまさかと鼓と顔を見合わせる。
「僕は何とかなるから二人はこれに運んでもらいなよ」
ヤクを指差して暗乃はにこやかに云う、確かに普通に通るよりは楽が出来るかもしれないが、暗乃だけ別と云うのも納得が出来ない。
そう云う前に真衣はヤクに咥えられてしまう。
かなり気を遣っているのはわかるが力を入れられてしまうと牙で身体を貫かれそうで少しぞっとしながらも大人しくされるがままに背中に乗せられる。
ごわごわとしているが確かに暖かい。
「わかったわかったから、自分で乗るから屈んでくれ」
『はーい』
諦めたように鼓がそう云うとヤクは鼓が登れるように屈む。
確かにヤクの身体ではこれ以上人が乗るのは難しいだろう。
暗乃に大丈夫なのか聞こうとした瞬間、ヤクがいきなり走り始めた。
いきなりの走りに思わずヤクにしがみつくかたちになり、それは鼓も変わらないようで揺れる背中は乗り心地が良いとは決して云えない。
山を越えるまでしがみついていられるだろうかと思いながら真衣は見えなくなった暗乃のいた方向を見ていた。
研究所の跡地に着いたのは獣の健脚もあるのだろう、一瞬のようにも数時間にも感じた。
ヤクにしがみついていたおかげで凍える寒さはなかったがすっかり目が回ってしまったと真衣は俯いている。
まだ世界が回転して見えるのと寒さを耐えながら歩くのは果たしてどちらが良かったのだろう。
ヤクの云う通り以前入った研究施設は無残に焼け落ち人影すらもない。
ヤク曰くいきなり燃えた研究所で出会った人間にもう自由だと山に放されたのだと云う。
追いかけるモノもいない苦しくて痛いこともない、こんな山にヤクはすっかり馴染んでいた。
果たしてこの生き物はいつまで生きるのだろうか、孤独と云う感情は生まれないだろうか、そんな感情で真衣はヤクを撫でた。
気持ち良さそうに目を細めるヤクは無邪気と云う言葉が似合う。
少し肌寒いが暗乃を置いて行くわけにもいかない、それよりもここが合流地点でいいのだろうかと真衣は思いながら、暗乃を待った。
意外にも暗乃は数刻後に合流してきた。
あの山をどうやってと聞く鼓に「内緒」と笑う姿はいつもの暗乃だ。
ヤクの興味は既に他のものに行っており、暗乃を一舐めするとどこかに走り去ってしまった。
まるで嵐のようだったが助かったと笑う真衣によだれまみれになった暗乃が小さく文句を言っていたのは気のせいではないはずだ。
暗乃の衣服をそのままにも出来ないとは云ったがどうする手段もなく近くの洞窟で早い休憩を取ることになった。
大きめの外套を羽織り暗乃は不服そうに座っている。
服を洗おうにもこの寒さでは難しいだからと着ていては体調を崩してしまう。
そんなに身体はヤワではないと云う暗乃だったがよだれ自体は不快だったらしく衣服を脱ぐと早々に外套を羽織って座り込んでしまった。
いつ着替えたのか真衣も鼓もわからなかったが一先ず岩に干された衣服を見て安心する。
そんな暗乃にたまには真衣が夕飯を作ると張り切り、珍しいこともあるものだと見ていた鼓が料理を途中で止めた。
黒いヘドロもとい真衣の料理に鼓は大きく空を仰ぎ暗乃が機嫌を直し笑う。
「俺が作る」
「でももうすぐ完成する……」
「頼むから休んでいてくれ」
何が完成するのか聞きたくないと云うように鼓は真衣を暗乃の反対側に座らせると夕飯を作り出す。
ヘドロの行方は分からない。
翌日には乾いた服を纏い暗乃は少し複雑そうな顔をしていた。
幽霊街で洗濯でも出来ればいいと云う真衣の言葉に苦笑いしながらそうだねと云い歩みを進めた。
シャンラン山脈を越える必要もあればカナンの幽霊街にリーウェンの幽霊街の惨状を報告する必要もあるだろう。
行きの道とは違う道を通りながら真衣は何度も考える。
傀が戻った後のことだ、実際はどうなるかはわからないが真衣もその手伝いをすることになるだろう。その際に問題なるのはカナンのことだ。
今のカナンが果たしてどのような状況なのか今まで歩いて来た街や村を見るにけして豊かな状況とは云えない、その状況でも真衣を狙う理由があるのだろうか。
十騎士が真にすべきは他のことなのではないか。
だが、王命でどこまでも追って来るのは間違いないだろう、そうなった時に真衣は本来の役目を果たせるのだろうか。皇女として、傀の支えとなるべきなのに傀に守られてばかりにならないだろうか。
今回の騒動もそれから始まったことなのだ、だからこそ真衣はこの旅を続けることが出来た。
今では刀を振るうことも出来るがそれだけではない、あちら側は真衣以外を殺してもいいと思っている。
それが一番問題なのだ、こちらの意思に関わらず殺意を躱すのは難しい。
傀はそれでもいいと云うだろうがそれではダメなのだ、根本の部分をどうにかしなければリーウェンの再興は望めない。
「今日はずいぶんとぼんやりだね」
「そんなに、ぼんやりしていた?」
「戦闘は問題なかったけど歩いてる時とかはね」
夕飯の後で暗乃にそんな会話をされては真衣もそうだったのかと考えてしまう。
鼓もきっと気付いているだろう、心配をさせるのは良いことではない。
「何か深い悩み事でも?」
「ううん、この旅が終わった時のことをちょっと」
「ああ、森に戻ったら大変そうだもんね」
「色々問題が山積みで、それを考えてたの」
「真衣は真面目だね」
「暗乃は……」
どうするの、と真衣はそんな言葉を飲みこんだ。
聞いたら答えてくれるだろうが、その回答が希望に沿ったものとは限らない。
中途半端に切ったこの場に暗乃は何かを察しているのか口を開いた。
「僕はフリーな旅人だからね」
「うん」
「さすがに金貨三十枚ももらったら少しゆっくりするかもね、かなり刺激的だったし」
暗乃の言葉はある意味当たり前の言葉であったようにも思う。
自由なその姿が少し羨ましくも思う、この旅が終われば暗乃の話は聞けなくなってしまうのはとても悲しい。
自分は今どんな顔をしているのだろうか。
真衣は暗乃から顔を背ける、あの時、暗乃が大けがを負った際の感情が胸に蘇る。
ピアスは今日も真衣がプレゼントした物だ。
「それとも離れがたく思ってくれてる?」
背けたせいで顔色はわからない、けれど一際優しい声だったように思う。
離れがたく思っているのだろうか、わからない。
真衣は再び暗乃を見た、その顔はいつものように少し微笑んでいるような軽薄さを感じさせるが眸はどこまでも黒いが火に当たり暖かさを感じさせる。
その顔はやはり美しく整っている。
「そう、かもしれない」
その顔を見つめながら思った言葉をそのまま告げる。
言葉を交わせなくなるのもきっと離れたくないとも思ってしまっている。
けれど真衣のそんな我儘でこの自由なヒトを縛りつけてしまうのは良くないことだと云うのは真衣が誰よりもわかっている。
傀の組織は死の平等の前に全てを受け入れると云っていた、長寿の別種でもきっとそれは変わらない、これだけは断言出来る。傀はそのようなことを気にする人間ではない。
だが、組織に属すると云うのは何も簡単なことではない。
それが国の名の元の組織であれば猶更だ。
「返事は旅の終わりまでに考えておくよ」
そんな真衣の考えをまるでわかっているかのように暗乃はそう微笑んだ。
とても狡くて優しい言葉だと真衣は思う。
そんな夜もやがて明けて朝が来る。
今日は昨日のように云われないようにしなければと真衣は気を引き締める。
そんな真衣の目に飛び込んできたのは大量の飛竜の群れだった。
一瞬カナン兵を疑ったがその背中に人影はない。
「飛竜の巣に入ってしまったみたい」
「珍しいなお前が」
あっけらかんと間違いを認める暗乃に鼓が驚いた声で話しかける。
今までもそうした大型生物の巣などは避けていたはずだが、今日は何かあったのだろうか。
「ああ、でも、一匹捕まえて空中散歩は楽出来るかも」
「手綱がないと操縦は難しいぞ」
鼓の冷静な言葉に暗乃は「だよね」と返す。
やはり今日の暗乃は少し可笑しい気がする。
飛竜の入り込めない林の奥まで逃げ込み水を飲みながら真衣は暗乃を見る。
いつも通りにも見えるが何かあったのだろうかとまで考えてまさかとも思う。
本当に昨夜のことを考えてくれているのだろうか。
うぬぼれてしまってはいけないと真衣は水を入れていた革袋をしまい、地図を見直す暗乃の横顔を見つめる。
そんな真衣を見ながら鼓が頭を抑えているのを真衣は知らない。
あれから軌道修正を行いシャンラン山脈の麓まで来た真衣たちだったがここで問題が発生する。
龍皮のマントがないのだ、シャンラン山脈を越えるには必須アイテムと云っても過言でないだろうが麓の村で手に入れようにも不自然に買い占められており食料調達がやっとだった。
恐らくカナン兵による工作だろうと暗乃と鼓の意見が一致した。
道も前回使った道は使えない、果たしてその状況でどうやって山を越えるか悩む真衣たちの元に木々を薙ぎ払って何かが走って来た。
『ニンゲン!』
あの反対側で行方不明になっていた謎の獣ヤクだ。
白い毛並みは泥だらけになっているが見間違えはない、真衣に近付きいつぞやのように舐めようとして鼓に止められる。
「お前、また逃げたのか……」
『チガう!オウチモえた!』
「燃えた?」
冷静に話す鼓にヤクは何度も頷いて見せる。
きらきらとした目は変わらないままにヤクは話をすすめる。
『スきにハシりマワッてもオコられない!』
「雪山越えられるってこと?」
何かを思いついたように暗乃がヤクに話しかける。
ヤクは頷きながら来た道を振り向き云う。
『ニンゲンのニオい!あったからキた!』
あの少しの交流で何故こんなにも懐かれているのかはわからないが、ヤクは尻尾を振りながら真衣の周りを走る。
何かすればバレかねないかとひやひやするが暗乃が驚く提案をして来た。
「君、人間運べる?」
『?』
「そこの二人背負って走れる?」
『うーん?デキるんじゃないかなー?』
その言葉にまさかと鼓と顔を見合わせる。
「僕は何とかなるから二人はこれに運んでもらいなよ」
ヤクを指差して暗乃はにこやかに云う、確かに普通に通るよりは楽が出来るかもしれないが、暗乃だけ別と云うのも納得が出来ない。
そう云う前に真衣はヤクに咥えられてしまう。
かなり気を遣っているのはわかるが力を入れられてしまうと牙で身体を貫かれそうで少しぞっとしながらも大人しくされるがままに背中に乗せられる。
ごわごわとしているが確かに暖かい。
「わかったわかったから、自分で乗るから屈んでくれ」
『はーい』
諦めたように鼓がそう云うとヤクは鼓が登れるように屈む。
確かにヤクの身体ではこれ以上人が乗るのは難しいだろう。
暗乃に大丈夫なのか聞こうとした瞬間、ヤクがいきなり走り始めた。
いきなりの走りに思わずヤクにしがみつくかたちになり、それは鼓も変わらないようで揺れる背中は乗り心地が良いとは決して云えない。
山を越えるまでしがみついていられるだろうかと思いながら真衣は見えなくなった暗乃のいた方向を見ていた。
研究所の跡地に着いたのは獣の健脚もあるのだろう、一瞬のようにも数時間にも感じた。
ヤクにしがみついていたおかげで凍える寒さはなかったがすっかり目が回ってしまったと真衣は俯いている。
まだ世界が回転して見えるのと寒さを耐えながら歩くのは果たしてどちらが良かったのだろう。
ヤクの云う通り以前入った研究施設は無残に焼け落ち人影すらもない。
ヤク曰くいきなり燃えた研究所で出会った人間にもう自由だと山に放されたのだと云う。
追いかけるモノもいない苦しくて痛いこともない、こんな山にヤクはすっかり馴染んでいた。
果たしてこの生き物はいつまで生きるのだろうか、孤独と云う感情は生まれないだろうか、そんな感情で真衣はヤクを撫でた。
気持ち良さそうに目を細めるヤクは無邪気と云う言葉が似合う。
少し肌寒いが暗乃を置いて行くわけにもいかない、それよりもここが合流地点でいいのだろうかと真衣は思いながら、暗乃を待った。
意外にも暗乃は数刻後に合流してきた。
あの山をどうやってと聞く鼓に「内緒」と笑う姿はいつもの暗乃だ。
ヤクの興味は既に他のものに行っており、暗乃を一舐めするとどこかに走り去ってしまった。
まるで嵐のようだったが助かったと笑う真衣によだれまみれになった暗乃が小さく文句を言っていたのは気のせいではないはずだ。
暗乃の衣服をそのままにも出来ないとは云ったがどうする手段もなく近くの洞窟で早い休憩を取ることになった。
大きめの外套を羽織り暗乃は不服そうに座っている。
服を洗おうにもこの寒さでは難しいだからと着ていては体調を崩してしまう。
そんなに身体はヤワではないと云う暗乃だったがよだれ自体は不快だったらしく衣服を脱ぐと早々に外套を羽織って座り込んでしまった。
いつ着替えたのか真衣も鼓もわからなかったが一先ず岩に干された衣服を見て安心する。
そんな暗乃にたまには真衣が夕飯を作ると張り切り、珍しいこともあるものだと見ていた鼓が料理を途中で止めた。
黒いヘドロもとい真衣の料理に鼓は大きく空を仰ぎ暗乃が機嫌を直し笑う。
「俺が作る」
「でももうすぐ完成する……」
「頼むから休んでいてくれ」
何が完成するのか聞きたくないと云うように鼓は真衣を暗乃の反対側に座らせると夕飯を作り出す。
ヘドロの行方は分からない。
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