勇者様より私ががんばってます

空沙樹

文字の大きさ
15 / 26
メインストーリー

14.噂と現状

しおりを挟む
 あれから数ヶ月が経った。
 未だ魔界のみんなからの賛同はもらえていない。
 しかし、勇者様の噂を少しずつ聞くようになったのは喜ばしいことだった。
 あれから、魔界も人間界も反戦争の団体が内乱を起こした。
 そのせいかしばらく人間と魔物の大きな争いは起きていない。
 小さな小競り合いで、今日も数百の生命は死んでいくのだ。

「とうしたのかにゃ? そんな暗い顔しちゃって」

 幹部のみんなとは仲良くなれたし、魔界の外にも私の噂は広がっているようだ。
 だけど、その噂のせいで私はしばらく城にいないと危険という意見が出た。
 私のお父さんの意見を世迷いごととぼやく老人や若者も少なくなかった。
 血の気の多い連中や古き軍人魂とやらを持った奴は、とことんお父さんの意見に反対した。
 その反乱分子は未だに外にいるようだった。

「まあ、ナノ様の言いたいこともわかるにゃ。あなたに力があることも知ってるにゃ。でも、それだけじゃ変えられないのが現状なんだよ」

 いつも明るいアカネが悲しそうな声で私に言った。
 みんな分かっているはずなのに、この戦争に意味なんてないことが。
 
猫又の一族は魔物の中では貧弱なために、馬鹿にされたりすることが多い。
 彼女は自分が力を示し、一族を守るために幹部になった。
 今も人気を出すためにアイドル見たいこともしてるし、政治にも積極的に意見を出している。
 だけど、未だに猫又への偏見は無くならない。
 その経験から私に話してくれているのだろう。

「でもにゃ! リーダーがそんな顔しちゃダメにゃんだよ、笑ってなくちゃね」

 彼女なりの慰め方なのだろうと私は思った。
 魔物だってこんな優しいのに、人間と争うなんて間違ってる。

「ありがとね」

 アカネは営業スマイルをして私のもとを去って行った。

(カラカラコロコロボキ)

「訳すね、お前の父親は迷っても止まらなかった。女子だとしてもお前が止まることは許されない」

 スカルはお父さんのことを幹部で知っている数少ない中の一人だ。
 お父さんに賛成派の魔物は揃って、反乱分子に殺された。
 中立の立場に立っていたスカルは、お父さんを殺すこともしなかったし、助けることもしなかった。
 昔は憎んで憎んで憎んでいたが、今となれば彼の気持ちも少しわかる気がしてしまった。

「相変わらず手厳しいな~スカルさんは」

(ガラボキ、ゴキボギボギゴギ)

「減らず口を叩くなら、目元のクマをとっととなくせ、まあ、もっと訳すとしっかり寝ろだね」

 なんだかんだ言って、私を支えてくれる彼らが私は大好きだ。
 とにかく明るい蛇娘も、真面目なイカ娘もカルロもスカルもジェントルゾンビだって猫だって全員大好きだ。
 だからこそ、私の見ている桃源郷を私は必ずみんなに見せたい。

「僕が入ってないのは悲しいものだな」

「忘れてたね、うん」

 この妖怪は妖怪で、減らず口ついでに魔界の状況について教えてくれた。
 本当に性格が治ればいい奴なのに、つくづく惜しいものだ。

 勇者様もだいぶ進んできたんだ。
 裏切ってしまっていることは忘れて、今はみんなの意見を一つにまとめるために頑張りたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処理中です...