とりあえずのとりあえず

syu-innonne

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かきちらし2

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「きゃぁ!」

どん!という背中に当たる感覚。
ーーーー誰だ?

「ごめん。滑った」

後ろを振り向くと焦げ茶色の長い髪の女の子。
女の子と言っても平均より身長は高い(と思う)。
ーーーー流石、ノースユーロ人。成長が早い。
    胸元はまだまだだが。


鼻筋が通った西洋のお人形さんを彷彿をさせる、
愛らしい顔つきの少女、聖羅くなせだ。

「ああ。聖羅か。おはよう」

オレは無表情で挨拶を交わし、彼女に近づいた。

「怪我、してないか?」

「おはよう、シント・・・・わたしはだだだだ、大丈夫だから!!!!!」

彼女はバランス崩して倒れた身体を慌てて起こし、教室に走っていった。

ーーーーおいおい。そこまで慌てなくてもいいだろう。

オレは驚きとあきれの感情を同時に抱いた。

今日は授業はなく遠足だ。
まず、一回教室に集合した後、出席の確認をしてから
敷地内に入ってきたバスに乗った。

そして、バスに揺られて目的地に向かう。
着いたのは水族館。
グループではなく、それぞれ並んで進んでいく。
オレ達は9組なので、一番最後。
8組の最後の一人が入館してから出発だ。

8組の最後の一人が入館した後、ほぼバスの座っている席順でオレ達は水族館に入った。


「・・・きれい」

「・・・すごい」

 しばらく進むと感嘆の声を聞こえてくる。
 水族館で見える光景。
おそらく、今はどこでも見えないだろう。

大災害と呼ばれる天変地異が起きてから、数百年。
それ以前なら普通にみられた生き物も今はみることすら叶わないことが多い。

「・・・美味しそう」

ふと聞こえる声。
オレは真っ先に疑った。
ーーーー声の主は女の子だ。間違いない。

ちらっと周りを見ると、焦げ茶色の長い髪を揺らした少女が、静かにオレから離れて行った。

ーーーー知ってるから恥ずかしがらなくてもいいのに

男どもの憧れの的である聖羅、実はああ見えてもかなりの大喰らいという噂を聞く。
ちなみに証拠も証言もすべて揃っている。

オレはこの後のことを考え、注意深く周りを見ながら進んだ。

しばらく歩くと展示は終わり、お土産を買う売店になっていた。
海の生き物をモチーフにしたアクセサリー、クッキーやチョコレートのような食べ物などいろいろ売っていた。

オレは周りを見回すと魚を主原料とした煎餅の類をいくつか手に取った。
ーーーーとりあえずこれだけあればいいだろう。

ふと見るとある光景が目に入った。

ーーーー気になったのだろうな。

あの愛らしい彼女が何かを手に取り、ため息をついた。

そして、沈んだ顔のままでその場を離れた。
彼女の姿が消えたのを確認するとオレは彼女がため息をした場所に近づいた。

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