幽閉塔の彼女と僕

紅花

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竜神様

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 僕の言葉に少女は、意味が分からないと言いたげな顔をした。
「どういうことなの、貴方?」
「貴方?あ、名前をまだ名乗ってなかったね。僕はルーク。この塔の近くに住む狩人。君は?」
「私はミス……いいえ、ミィよ。で、お話の続きをお願い、ルーク」
 ミィは僕と違和感なく話し始めた。その事についても驚きがある。
「ミィは貴族なのに、平民である僕と話すことが嫌ではないんだね」
 一般的な貴族は、平民と話すことを嫌う。自らは高貴な血だから平民とは違うのだ、と血による区別を明確にしたがる者なのだ。僕から言わせてもらうと、平民も貴族も同じ色の血だし、すぐに死ぬのだからどちらも変わらない人間である。まあ、貴族の方が腐った匂いがするから嫌いではあるが。
「貴族とそうでない者の違いなんてないと思っているから」
 つまらなさそうにそう言った後、少女は目を輝かせながらニコニコと語っていた。
「それに、私は竜神様についてよくお話を聞いて回っていたから。こういう伝承は貴族でない方の方がよく知っているもの」
「竜神様、ね」
 先程も思ったが、未だに竜神を信じている者がいる事に驚いている。もう、人間にとって、竜が身近にいたのは随分と昔の話のはずだ。
 彼女の輝くような笑顔を見ていたら、少し意地悪を言いたくなってしまう。
『竜神様なんて存在はこの国にはいない』という意地悪を。
 ただ、彼女より年上の僕がそんな意地悪を言ってはいけないと良心が止める。赤子のような彼女に、彼女の先祖の罪を押し付けるのは良くないと告げている。
 僕は弱い者を虐めるためにここに来たわけではないし、彼女にだけは特別に加護を掛けても良いと思っている。
「ねえ、さっきのお話の続きを教えてちょうだい」
「あ、そうだったね」
 考え事をしていて、彼女の声が聞こえていなかったみたいだ。身の丈に合わない真実を知った人間は、自ら死のうとする。聞いた時に受ける衝撃が大きすぎるのもあるが、彼ら自身に隠し通す覚悟がないから。しかし、彼女も真実を知りたがっている。それは彼女に知ることへの覚悟があるから。
 竜神のことを調べているのであれば、彼女は知っているだろう、竜神がいないことも、どうやって殺されたのかも。それを知っているのであれば、真実を少しくらい話しても良いだろう。
「この国は他国から攻められない。この国から月華草が消えない限りね」
 僕は、胸元にいつも挿している月華草をくるくると回しながら、真実の一端を彼女に告げた。
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