恋せよ乙女!

高尾 閑

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フレア:ヒロイン転生

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『小さなギーはもういない』
モブ×ヒロイン/乙女ゲーム/転生/モフモフ/
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_______________


むかし、途中までやった乙女ゲーム。

その乙女ゲームの主人公に生まれ変わるなんて、思いもしなかった。



 ▼ ▼ ▼



小さな山の麓の小さな村。大自然溢れるのんびりと平和なこの村で、あたしは生まれた。

豊かな自然のなかでのびのびと育てられていたあたしが違和感を覚えたのは、三つのとき。遠くの空を飛ぶ大きな鳥を指差して、お父さんにあれはなにかと聞いたときだ。

「フレア、あれは飛竜だよ。家よりも大きな生き物なんだ。だけど珍しいな。飛竜が姿を現すなんて」

今日は良いことがあるぞ、なんてニコニコしてるお父さんの横で、あたしは竜という言葉に引っ掛かりを感じていた。

それからも、ちょくちょく生活のなかで違和感を覚えるも、その正体はわからなかった。ただなんとなく、引っ掛かるというか、腑に落ちないというか。

その違和感の正体がわかったのは、あたしが四つになったときだった。

その日は朝からお山の神様の機嫌が悪くて、空は重たい灰色の雲に覆われていた。雨が降りだす前にと、木の実を集めに行っていたあたしは、帰り道に不思議なものを見つけた。

大きな木の根元に、隠されるように置かれたそれ。布でくるまれたそれは、赤ちゃんだった。

「ドーバ、あかたん!」

近くにいた三つ年上のドーバを呼んで、あたしは赤ちゃんをくるむ布をそっと捲った。すると。

「なにこれふぁんたじー」

赤ちゃんの頭から、耳が生えていたのだ。ふわふわの。犬や狼みたいな三角の耳が。

どう見ても人間の赤ちゃんなのに、頭から生えた動物の耳。その姿に、あたしは無意識に呟いていた。ファンタジー、と。そしてその言葉に首をかしげる。

ファンタジーってなに? 今まで聞いたことない。だけどあたしは知っている。

グルグルと頭のなかを駆け巡る疑問と確信。モヤモヤとした不快感。あとちょっと。あとちょっとで全てがわかりそうなのに、手が届かない。

ファンタジー。ファンタジーなんだ。見つけた赤ちゃんも、遠くの空を飛んでいた竜も、お山の神様も、恥ずかしがりやの妖精さんも。みんなみんな、ファンタジー。

だけどファンタジーってなに? そんなの聞いたことないし、見たことない。だけど知ってる。あたしは知っているんだ。

だってここは、地球じゃないんだから。

「…………あ、そっか」

グルグルと考え込んでいる間に、ドーバが赤ちゃんを抱っこして、あたしの手を繋いで家まで送り届けてくれたみたいで、いつの間にか座っていた自分のベッドの上で、あたしは小さく呟いた。

そっか。そうだよ。そうだったんだ。どうりで違和感を感じるわけだ。

ここは地球じゃない。その答えは、すんなりとあたしの中に入ってきて、すとんと落ち着いた。そして次の瞬間、ものすごい勢いで大量の情報が頭の中に流れ込んできた。

「うっ…………ぁ……。いぁ……っああ、…………!」

たくさんの高層ビル。テレビ。遊園地。コンクリートジャングル。ひまわり畑。合格通知。高速道路。ショッピングモール。学校。授業風景。公園。人で溢れる駅のホーム。ノートパソコン。アイスクリーム。ファミレス。花火。図書館。夕焼け空。プール。ひこうき雲。本。

ぐちゃぐちゃと、何のまとまりも順番もなく、押し込めるように流れてくる大量の情報に、脳が揺れる。まるで殴られているかのように頭が痛い。涙と痛みで視界はぼやけ、今自分が座っているのか、それとも倒れているのかもわからない。

容赦のない情報攻撃に、吐き気すら込み上げてきたそのとき。腹部への猛烈な痛みの情報と、赤く染まった視界。そして──。

「ぁ…………っ」

あたしの意識は、ブツンと途切れた。



 ▼ ▼ ▼



中学二年生の夏休み。久しぶりに会った同い年のいとこに勧められたゲームは、乙女ゲームといわれるジャンルだった。

いとこや周りの友達の家と違って、我が家は両親の方針で、ゲームの類いは家に一切なかった。だから、ゲーム機を持ったのも、実際にプレイするのもその時が初めてだった。

そのゲームの舞台は小さな国で、人だけではなく竜や獣人、神や妖精が実在する世界だった。主人公の女の子は国境付近の小さな村で生まれ育ち、やがて貴族の養女となり王都に移り住む。

物語はその数年後。貴族の娘として教育を施された主人公が、学園に入学するところから始まる。

大まかな内容は、元平民の主人公が学園で王子や貴族の令息達と恋に落ち、愛を育む。そして仲間達と国の問題を解決して、英雄として讃えられ、国中から祝われて想い人と結婚するのだ。

いとこはかなり興奮ぎみにこのゲームの素晴らしさを語り、あたしにそのゲームを貸してくれた。だけど残念なことに、あたしにはゲームが合わなかったみたいで……。プロローグ辺りを少し過ぎた先で飽きてしまった。

ひとりでじっとして画面を見ているより、みんなで外で遊んでいる方が楽しい。だからいとこには申し訳なさを感じながらも、あたしが再びそのゲームをやることはなかった。

だけどまさかそれを、生まれ変わった先で後悔するとは、思いもしなかったなぁ。



目を開けると、なんだか頭が重くて体が怠かった。しかも目もボッコリと腫れている気がする。

なんでだろう?と不思議に思いながら頭を動かすと、目を赤くしたお母さんが視界に飛び込んできた。

「フレアちゃん! 良かった。目が覚めたのね……! どこか痛いところはない? 苦しかったり、気持ち悪かったりは?」

目を潤ませ、優しくあたしの頭を撫でながら、必死な顔でそう言うお母さんに、あたしはゆっくりと首を横に振った。

「だいじょーぶだよ」
「本当に? 我慢しなくていいのよ?」
「うん。だいじょーぶ」
「ああ……! フレアちゃん、良かった! 二日間目が覚めなかったから、お母さん心配で心配で……」

無事で良かった、と言ってあたしを抱き締めるお母さん。あたしはそんなお母さんにしがみついて、胸元にぐりぐりと頭を押し付けながら心の中でお母さんの言葉を反復した。

二日間、目が覚めなかったから……。

あたしは二日間も眠りっぱなしだったのか。そりゃ頭も重くなるし、体も怠くなるよね。だけどどーして……。

どんなに疲れていても、一日眠ればけろりと回復していたのに、どうして二日間も眠りっぱなしだったのか。唯一思い当たるのは、前世の記憶、かな……。

意識を失う前の、あの怒涛の情報攻撃は凄まじかったからなぁ。それに前世の記憶も混乱せずに受け入れられてるし。多分、二日間かけて情報整理と気持ちの整理をやったんだと思う。

だって突然前世の記憶を思い出して、しかもここは前世と違う世界で、さらには前世ではゲームだった世界に生まれただなんて。そんな訳のわからない状態だっていうのに、こんなにも落ち着いていられるんだもん。

普通に考えて、四才のあたしは理解できない内容だし、前世の記憶により精神年齢が上がったとしても、混乱しないわけがない。

それなのに今、落ち着いていられるってことは、二日間、頑張ったってことだと思うんだよね。

そこまで考えて、あたしはふと思い出した。そう言えば、あの赤ちゃんはどうなったんだろう、と。あたしが前世の記憶思い出すきっかけになった、あの赤ちゃんは。

あの赤ちゃんを見たときに言った通り、この世界はファンタジーだ。かなり遠かったけど竜が飛んでいるのを見たし、我が家の食料庫の物陰には恥ずかしがり屋の妖精さんが住んでいる。

だけど。だけど動物の耳が生えた人には会ったことがない。この村はかなり田舎だし、住人も少ない。だから都会の方には当たり前のようにいるのかもしれないけど、この村にはいない。

あたしはゲームをちゃんとやっていないから、この世界の詳しい情勢なんて、これっぽっちもわからない。だから、動物の耳を持った人がどんな立場なのか、まったくわからない。

もしかしたら、竜や妖精のように、当たり前に受け入れられているのかもしれない。だけどもしかしたら、まったく受け入れられずに、差別や迫害を受けているかもしれない。もしかしたら、都会では受け入れられてても、田舎のこの村では差別があるかもしれない。

そうと決まった訳じゃないのに、悪い方、悪い方へと頭がいってしまう。

だって、あの赤ちゃんは捨てられてた。あんなに小さかったのに。タオルにくるまれて。木の根元に、隠すように。

「あかたん!」
「へ……?」
「おかーさん! あかたんは?」

バっと顔を上げて訊ねる。もし、もし捨てられちゃってたら。最悪の場合、殺されちゃってたら。恐ろしい考えに、血の気が引く。

お母さんはあたしの言葉にきょとんと首を傾げ、それからふわりと笑った。

「ふふ。あの子ならグーテがお世話をしているわ。そうよね。フレアちゃんが見つけたんだものね。後で一緒に会いに行きましょうか」
「うん!」
「ふふふ」

フレアちゃんはいい子ね、なんて笑うお母さんに、ぎゅっと抱きついた。安心して、目頭が熱くなる。

よかった。最悪の事態にはなってなかった。グーテの家なら安心だ。グーテはドーバのお母さんで、八人の子どもを育てるベテランママさんだから。

「さあフレアちゃん。体、キレイキレイしましょうか。お腹も空いているでしょう?」

それからあたしは、お母さんに体を拭いてもらって、着替えさせてもらって、ご飯を食べて。ようやく一段落ついて、今あたしはお母さんと二人、グーテの家の前にいる。

「グーテ~。ヨマリよ~。今ちょっといいかしら?」
「はーい。今手が離せないから勝手に入ってきてちょーだい」

ドアをノックして、大きな声で呼び掛けるおかあさん。その姿を見上げながら、この世界にはインターホンないからなぁなんて思う。

家の中から聞こえてきた遠い声に、お母さんは遠慮なくドアを開けると、あたしの手を引いて家の中に入っていく。

鍵が掛かってないなんて無用心だなぁなんて思ったけど、すぐに鍵という概念がないことを思い出した。ここはほんとに田舎だし、少ない住民たちも皆、家族のようなもの。だから鍵をする必要性がないのだ。

都会ではどうなんだろう。なんてぼんやりと考えて、あたしは頭を振った。違った違った。今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。

部屋の奥から赤ちゃんの鳴き声がする。

ああ、元気だ。元気に泣いている。



【みかん】
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