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フィスカルボの諍乱
拒絶 1
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ノルドグレーンの晩春の夜はまだまだ肌寒く、白夜の季節が近づき日没が遅いため、薄明るい夕闇が続く。トウヒやアカマツなどの雑木林に囲まれたトレインスレット郊外の廃址はまるで、此岸と彼岸の境にあるかのような、幽玄な雰囲気に包まれていた。
ベアトリス・ローセンダールは周囲を見渡し、崩れた城壁や物見台の残骸が無情に打ち棄てられた様子にため息をついた。
「よくこんな、辺鄙な場所を見つけたものね……山賊が住み着いていてもおかしくなさそうだけれど」
「それです。ジュニエスからこっち出番のない隊長さんに、活躍の場を与えようと思いまして」
「余計な気遣いを」
「まあ冗談ですけれども。……もちろん下調べはしましたよ。この城はねえ、街道からも程よく離れて、追い剥ぎしようにもなかなか難儀な場所なんですね」
ステファン・ラーゲルフェルトは崩れた城壁の端にほどよい段差を見つけ、砂を払って腰掛けた。オラシオ・アルバレスは直立したまま腕組みし、ヒョウのようにしなやかな背筋を伸ばして、灌木の茂みなどに注意を払っている。
「野犬や狼くらいは、いるかもしれませんがね」
その心配がないことを確認しながら、アルバレスはうそぶいた。馬車の御者が駆け寄ってきて、ベアトリスのそばにスツールを置く。
「それで……オットソンの事業の調子は?」
「まあまあ宜しくないようで」
「払えないこと自体は確かなのね」
「いえ、奴の資産状態はそこまで悪化してません。問題は、そのことについて全く断りがない、ということですね」
「なるほど……」
「債務不履行に正当性を与えた者がいる、と書いていたわね」
「憶測ですが」
オーヴァシエル県令イェルケル・オットソンはベアトリスに対し膨大な債務を抱えていたが、ここ二ヶ月ほどその返済が滞っている。問題は遅滞そのものではなく、その借財に至る経緯がすべてベアトリスの陰謀で、課せられた支払い義務じたいが不当である、と不払いを自己正当化している点にあった。
「誰が裏で手ぐすね引いているかといえば、やはり……」
「リードホルムのノア王ですかねえ」
「……そんなわけないでしょう」
「まあ冗談ですけれども」
「この男のつまらぬ冗談はともかく……よほど恨みが深ければ、信頼させた果てに裏切り、絶望させるというのは、最上の復讐でしょうね」
「そんな話をしにきたんじゃないわ」
ベアトリスは軽くせせら笑いながらも、アルバレスの何気ない諧謔に、内心で戦慄を覚えていた。自分はノアに関して、本当になんの恨みも買っていない、などと言い切ることができるだろうか? 今この場所とは遠く離れた不安を振り払うように、ベアトリスは話題を戻した。
「ともかく……オットソンは、私にならば会うと言っているわけね?」
「まともに交渉する気はなさそうですが、一応は」
ベアトリス・ローセンダールは周囲を見渡し、崩れた城壁や物見台の残骸が無情に打ち棄てられた様子にため息をついた。
「よくこんな、辺鄙な場所を見つけたものね……山賊が住み着いていてもおかしくなさそうだけれど」
「それです。ジュニエスからこっち出番のない隊長さんに、活躍の場を与えようと思いまして」
「余計な気遣いを」
「まあ冗談ですけれども。……もちろん下調べはしましたよ。この城はねえ、街道からも程よく離れて、追い剥ぎしようにもなかなか難儀な場所なんですね」
ステファン・ラーゲルフェルトは崩れた城壁の端にほどよい段差を見つけ、砂を払って腰掛けた。オラシオ・アルバレスは直立したまま腕組みし、ヒョウのようにしなやかな背筋を伸ばして、灌木の茂みなどに注意を払っている。
「野犬や狼くらいは、いるかもしれませんがね」
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「まあまあ宜しくないようで」
「払えないこと自体は確かなのね」
「いえ、奴の資産状態はそこまで悪化してません。問題は、そのことについて全く断りがない、ということですね」
「なるほど……」
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「憶測ですが」
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「ともかく……オットソンは、私にならば会うと言っているわけね?」
「まともに交渉する気はなさそうですが、一応は」
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