簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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フィスカルボの諍乱

闇の中で 4

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「様子はどうだ?」
「出入り口はすべて押さえられているようです」
「なるほど。そこらの押し込み強盗の手口じゃありませんねえ」
 ラーゲルフェルトは呑気のんきな調子で言うが、その分析にはアルバレスとベアトリスも同意している。邸内にいる者を逃さない、暗殺を目的とした戦術だ。
「主公様はこちらに隠れていて下さい。私が呼びに来るまで、決して扉を開けませぬよう」
「わかりました。武運を祈るわ、オラシオ」
 回り階段の脇には掃除用具などを置いていたスペースがあり、その横には階段下を利用した倉庫の扉がある。ベアトリスはそこに身を隠し、小扉を家具などで隠してしまおう、というのがアルバレスの考えだった。
「ちょっと隊長さん、僕の隠れ場所は?」
「……さあ?」
「待ちなさいよ君! 僕はこれでもフィスカルボを仕切ってる身だぞ」
「……主公しゅこう様と共にいて、いざとなったら身代わりとして死んで下さい」
「よしわかった。死ぬとき呪いかけてやるからな。次の日から安眠できると思うなよ?」
 アルバレスとラーゲルフェルトが、場違いなほどに緊張感を欠いて、いつもの調子でののしり合っている。これはアルバレスの圧倒的な実力に裏打ちされた余裕と、その彼への信頼から生み出された奇妙な弛緩しかんだった。
 ラーゲルフェルトとベアトリスが倉庫に隠れると、従者の二人が古びた花台かだいでその扉を覆い、さらに誰のものかわからない肖像画を立て掛けた。
「さて、敵さんは律儀りちぎにも、正面扉の鍵をこじ開けようとしているようです。こちらに気づかれているにもかかわらずね」
「あれ、それほど丈夫な扉ではないんですけどね」
「我々は今のうちに、廊下の明かりを消して回りましょうか」
 アルバレスと従者たちは二手に分かれ、警戒のため一部だけ残していた燭台しょくだいの灯を消して回った。フォルサンド邸内部から一切の光が消え、先の見通せぬ闇に支配された。

 わずかに残っていたフォルサンド邸の窓明かりが消え、その周囲を小さなランタンの明かりがいくつも漂うさまは、さながら廃墟を彷徨さまよう鬼火のようだ。
 ふと正面入口の左側の方で、陶器製の皿が割れるようなけたたましい音が響いた。黒ずくめの四人の男たちは、一瞬その音に気を取られ、誰か様子を見に行こうかと顔を見合わせている。その男たちの頭上で、衣服が風にはためくようなごく小さい音が聞こえたかと思うと次の瞬間、三人の男が地面に倒れ伏した。
「まずは三人」
 二階から飛び降りてきたアルバレスが、またたく間に三人を斬り伏せたのだ。細身の長剣に付いた血を振り払いながら、アルバレスは不気味なほど穏やかな笑みを見せた。
「……この程度で、お引き取り願えませんかね?」
「て、よくもオズモを……!」
 入り口扉の鍵穴に針金を差し込んでいた一人が激昂げきこうし、背中から小型の戦斧せんぷを抜いて襲いかかってきた。アルバレスはその斬撃を難なくかわし、身をひるがえしながら、黒ずくめの男の腹から右肩にかけて斬り上げた。男の手から離れて宙を舞っていた戦斧を、アルバレスの左手が受け止める。
「聞き分けのない……愚かしいことだ」
 アルバレスは周囲に他の手勢がいないことを確認すると、控え壁を蹴って高く跳び上がり、二階の窓からフォルサンド邸内に戻っていった。
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