簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安

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ノア王の心裏

Lの円環 3

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「ベアトリス・ローセンダール、あなたの察しのとおりよ。あたしたちは、ノア王の依頼でここに来たの」
 体の内側を、氷よりも冷たい風が吹き抜けてゆく――ベアトリスは悪寒おかんのような心のざわめきを感じた。
「あたしたちは、ノア王とすこし因縁いんねんがあるの。それでジュニエスの戦いのあと、王家が表立ってはできないような裏仕事を手伝ってる」
「王家とつながってりゃ、金以外に得られるものもあるからな」
「たとえば情報などね」
「ご明察めいさつだ。……ただ、リードホルムの政情が安定してくるに従って、当然おれたちみたいなのの仕事も少なくなってきた」
「そうは言っても、ノア王の敵はまだまだ多いのよ。国内にくすぶってる門閥もんばつ貴族とか、前の王の後宮勢力とか……けどとりあえず、今は小康状態ってところ」
「だから新しい『仕事』として、この鉱山の占拠をけ負ったと?」
ていに言やあ、そのとおりだ」
「あたしたちとしては、それ以上でも以下でもないわ」
「ノア王は、あんたがこの鉱山をほったらかしにしてた理由も知ってる。そこで俺たちに白羽の矢が立ったわけさ」
「あたしたちは……と言ってもあたしやバックマンは違うけど、もともと鉱山技術者の集団なの。閉山後に国からひどい扱いを受けていたのを、先代がまとめあげたのよ」
「そう……やっぱり知っていたのね……」
 当たってほしくなかった予測が、次々と的中する。ベアトリスには、技術者不足でスタインフィエレット鉱山の開発がとどこおっていることをノアに言った覚えはない。彼が独自の情報網で、ベアトリスの内情を調べ上げたのだ。
――どうして何も言わずに奪うような真似を? ……私を敵と見なしていて、今ついに実行に移したということ?
「どうやらノア王から何も聞かされずに来たようだが、まあ無理もねえ」
「私に事情を話せない理由があるとでもいうの?」
 れたようにベアトリスが聞き返す。
「ああ。いまリードホルム貴族のあいだじゃ、あんたはとびきり警戒されてる。アッペルトフト反乱のときに王家の肩を持ったことを、旧国王派の門閥貴族はよほど腹にえかねてるんだと」
「……そうらしいわね」
 だから何? とでも言いたげにベアトリスは口をとがらす。
「ノア王が手中に収めてる軍事力じゃ、門閥貴族に対抗できるなんてお世辞にも言えねえ。だがその後ろにあんたの影がチラついてるとなると、連中もうかつにゃ手を出せねえよな。……だから、ノア王とあんたがリードホルム城内で顔を合わすたび、必ず誰かが近くで聞き耳を立ててる」
「あ……」
 ベアトリスは言葉を失い口ごもった。
 ノアには説明する手段が、機会がなかったのだ。理由が不詳であったとはいえ、嫌がらせや当てこすりを疑うのは浅はかだった。神経質なまでにノアの裏切りを恐れていた自分に、ベアトリスは赤面した。
「あたしたちも、ノア王の即位後は一度しか会っていないわ」
「だから今回の件も本人とは話せてねえ。手紙で依頼があって、俺たちなりに下調べをしてから受けたんだ」
「手紙……? では誰か、ノア様とあなたたちの間を行き来する人物はいるわけね?」
「そうよ」
「さすがに名前は言えねえぜ。極秘事項だからな」
「ただまあ……そうね、実直じっちょくな人だから、配達途中で手紙の内容を盗み見たりはしてないと思う。つまりその人も、この件に関しては知らないはずよ」
 ベアトリスはその人物のことを知っている気がした。
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