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簒奪女王
憎悪の向こう 4
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五日前にグラディスから届いた報告書には、いくつかの驚くべき情報が付記されていた。不確定ではあるが――という前置きはされつつも、行方不明だったリードホルムの前宰相、シーグムンド・エイデシュテットがすでに死亡していたのだという。
エイデシュテットは前王の時代に権勢を誇った重臣で、政治に無関心だったときの王ヴィルヘルムに代わって国政をほしいままにしていた。そうでありながらノルドグレーン外務省と秘密裏に通謀しており、彼の推進した政策の多くはリードホルムの国力を衰退させるためのものだった。
表向きは不正な蓄財や汚職もない忠臣の顔をしていたエイデシュテットだったが、ジュニエスの戦いに前後して内通が発覚する。だが戦争を目前にリードホルムは混迷のただ中にあり、エイデシュテットは裁きを受けることなく逃げるように姿を消していた。
そんな不義の佞臣の消息が、四年の時を経てようやく知られるところとなったのだ。
リードホルム中部からノルドグレーンの首都ベステルオースの間には、ラルセン山脈という自然豊かな山岳地帯が広がっている。その山間を縫うように旅人や行商人のための細い山道が通っており、途中途中には休憩所がいくつも設けられていた。いずれも粗末なあずま屋ではあるが、それでも人馬が雨や雪をしのぐことはできる。その屋根の存在ひとつで、天候の急変時も旅人が不運な死を避けられた事例は、数えきれないほど存在する。
そうした山道の道すがら、ベステルオースまで半日ほどの場所に、付近に小川が流れる片流れ屋根の休憩所があった。その建物にほど近い茂みの中に、通りがかりの行商人がぼろ布を被せられた白骨死体を発見した。行き倒れの死体など無視して通り過ぎる者も少なくない中、行商人は律儀に変死体の情報をベステルオース治安維持部に届け出た。
係官は冬空の下の調査を渋ったが、それでも型通りの身元調査がなされた。その結果、白骨死体のくすり指に残されていた、S・Eというイニシャルが刻まれた指輪が発見された。
指輪は純金製の非常に精巧な作りで、それだけの技術を持った職人はベステルオースじゅうを探してもそう多くはない。いくつかの宝石商に問い合わせた結果、顧客台帳に残っていた指輪の発注者がシーグムンド・エイデシュテットという名であることが判明した。
仮に白骨死体が本人でなかったとしても、四年以上も行方不明のままの老人が、夜盗などに指輪を奪われたうえで生存しているとは考えにくい。こうしてエイデシュテットは死亡したものとみなされた。
ただしシーグムンド・エイデシュテットはノルドグレーン公国人ではないため、この事件は彼と関係のあったノルドグレーン外務省が内々に処理して幕を引いた。だがその秘密主義が、かえってエディット・フォーゲルクロウの情報網を揺らしたのだった。
報告によると、エイデシュテットのものと思われる死体には不可解な点が見受けられた。頭蓋骨と胴体がやや離れた場所にあり、首の骨は――どうやったら硬く太い頸骨がそのような状態になるのかわからないが――関節部でない箇所がきれいに切断されていたという。
エイデシュテットについて、以前ノアは強い怒りをあらわにしていた。数年前まで存命だったノアの父と兄が――愛憎相半ばする間柄ではあったにせよ――いま世を去っている直接的な要因が、エイデシュテットにあることは明白である。ノアにエイデシュテットの死を伝えれば、いくらか胸のすくこともあるだろう。
エイデシュテットは前王の時代に権勢を誇った重臣で、政治に無関心だったときの王ヴィルヘルムに代わって国政をほしいままにしていた。そうでありながらノルドグレーン外務省と秘密裏に通謀しており、彼の推進した政策の多くはリードホルムの国力を衰退させるためのものだった。
表向きは不正な蓄財や汚職もない忠臣の顔をしていたエイデシュテットだったが、ジュニエスの戦いに前後して内通が発覚する。だが戦争を目前にリードホルムは混迷のただ中にあり、エイデシュテットは裁きを受けることなく逃げるように姿を消していた。
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そうした山道の道すがら、ベステルオースまで半日ほどの場所に、付近に小川が流れる片流れ屋根の休憩所があった。その建物にほど近い茂みの中に、通りがかりの行商人がぼろ布を被せられた白骨死体を発見した。行き倒れの死体など無視して通り過ぎる者も少なくない中、行商人は律儀に変死体の情報をベステルオース治安維持部に届け出た。
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指輪は純金製の非常に精巧な作りで、それだけの技術を持った職人はベステルオースじゅうを探してもそう多くはない。いくつかの宝石商に問い合わせた結果、顧客台帳に残っていた指輪の発注者がシーグムンド・エイデシュテットという名であることが判明した。
仮に白骨死体が本人でなかったとしても、四年以上も行方不明のままの老人が、夜盗などに指輪を奪われたうえで生存しているとは考えにくい。こうしてエイデシュテットは死亡したものとみなされた。
ただしシーグムンド・エイデシュテットはノルドグレーン公国人ではないため、この事件は彼と関係のあったノルドグレーン外務省が内々に処理して幕を引いた。だがその秘密主義が、かえってエディット・フォーゲルクロウの情報網を揺らしたのだった。
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エイデシュテットについて、以前ノアは強い怒りをあらわにしていた。数年前まで存命だったノアの父と兄が――愛憎相半ばする間柄ではあったにせよ――いま世を去っている直接的な要因が、エイデシュテットにあることは明白である。ノアにエイデシュテットの死を伝えれば、いくらか胸のすくこともあるだろう。
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