山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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過去編・夜へ続く道

11 愛の欠如 2

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 石造りのめがね橋を早足で渡りながら、先頭をゆくダールがリードホルムの二人に念押しするように言った。
「はじめに言っておきますが、手に手を取り合って、生きていることを喜び合えるような状態ではございません。気持ちを強く持たれますよう」
「わかった。……心遣いに感謝する」
「それと、あの盗賊たちは……」
「貴官らは賊も捕まえたのか」
「散発的な戦闘がありましたが、当方に犠牲は出ませんでした。……後ほど詳しく説明いたします」
 ダールが話題を切り上げた理由は、ノルドグレーン軍の陣幕が見えてきたためだった。橋全体を望める小高い丘の上に、篝火かがりびに照らされたいくつかの陣屋が姿をあらわした。警備に立っていた三名の衛兵がダールに敬礼する。
 ノアたちは他のものよりも小ぶりで入り口がノルドグレーンの国旗で覆われた陣屋に案内された。縫い合わされた革の垂れ幕を通して、内部の明かりが薄っすらと見える。
「我らは軍の一部隊。上等な毛布など持ち合わせていない点はご容赦ください。……お二人で確認されますか?」
「いや、私だけでよい。ブリクスト、少し待っていてくれ」
「承知いたしました」
 ブリクストは小さく頷き、ダールを促して陣屋から距離を取った。
 外にいた兵たちの耳に届いたのは、若い女の悲愴な哀哭あいこくだけだった。ダールは眉根にしわを寄せた陰鬱いんうつな顔で微動だにせず、ブリクストはうつむいて首を横に振った。

 ノアが陣幕の切れ間をゆっくり開けてくぐると、内部で何かがびくりと動いた。毛皮を敷いた椅子の上に、フェルト地の布に包まった誰かが座っている。
「……リースだね?」
 そう呼びかけられた人物は再び身を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。たしかにノアの知るリースベットだが、わずか数日前の面影さえ失われかけている。唇の端は切れて血がにじみ、大小さまざまの傷や土汚れ、青あざや打撲による腫れなどが、まだあどけない顔を覆っていた。布の間からのばす腕は包帯が巻かれてすり傷だらけ、袖口は破れ手指の爪は先端が削れて、間に血や皮膚が挟まっている。ノアはグローブを脱ぎ、静かにその手を取った。
「リースベット……済まなかった」
「……兄さ……ん」
「帰ろう」
 リースベットはうつろな目で兄の腕にすがりつく。涙が頬をつたい、雨だれのように顎先から滴り落ちる。小さな嗚咽おえつは、すぐに慟哭どうこくに変わった。
 二人はそれ以上言葉を交わすことなく、川の流れとともに時間だけが過ぎていった。
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