山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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絶望の檻

24 血の桎梏 2

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「ブリクスト、その女性はリースベット、四年前に行方不明になった、私の妹のリースベットだ」
「……」
 リースベットはなおも無言でうつむいたままだ。ブリクストは慌ただしく一歩下がって片膝をつき、剣を地面に置いて頭を下げた。
「なんと……知らぬこととは申せ、貴女あなた様に剣を向けた蛮行……いかなる裁きもお受けします!」
「隊長さんよ、もうあたしは王女様じゃねえ。気にすんな」
「よいのだ、ブリクスト……」
「敵が目の前に出てきたら斬り殺す。他にやりようはねえだろ。あんたも軍人なら、似たような生き方をしてきたはずだ」
「……ご寛恕かんじょ、感謝いたします」
 ブリクストは平身低頭へいしんていとうして更に一歩下がり、片膝をついた姿勢のまま動かない。ノアとリースベットは悲しげな顔のまま、しばらく黙って向き合っていた。
「……エーベルゴードを救ってくれたそうだが」
「まあ、カッセルに恩を売っとこうと思ってね」
「奇遇だな。私もカッセルとは親交を持ち、そちらに基盤を築こうとしているのだ」
「そうかい。もしかして、こいつを助ける相談にでも行ってたのか?」
「その通りだ。ミュルダール軍務省長官に口添えしてもらい、刑の執行を遅らせているうちにな」
「大したもんだな」
「そうでもないさ。結局、解決策は出せなかった」
 二人は散文的な会話を続けるが、互いに口調はまるで上の空だ。その不自然なよそよそしさで、心情を覆い隠しているかのようだった。
「つまり、彼を見殺しにするという方針を携え、我々は戻るところだったのだ……」
「……そう言いながらあんたは、そのことを気に病んでる」
「いずれ……何も感じなくなる。私が今いるのは、そんな世界だ」
――そうなんだろうか。そうかも知れない。だとしたら、もしあたしがずっとこの人と一緒にいたとして、いずれ失望したんだろうか。
 二人はまた、悲痛さを飲み込んだような顔で押し黙った。お互いに、立場が違えば言いたい言葉、二人きりなら伝えたい言葉、時代が変わったら願い出たい言葉を飲み込んで、今はただ向き合ったまま立ち尽くしている。
 リースベットは大きく息を吸ってから、肩を落としてため息をついた。
「じゃあな。お互い急ぐだろ」
「そうだな……我々が予定通り帰らなければ怪しまれる。彼を無事送り届けてくれ」
「わかった」
「私の名を出せば、エーベルゴード家も門を開いてくれよう」
「……そうだ。あんたにプレゼントがあるんだ。ヘルストランドに用意してある。戻ったら驚くぜ」
――口をついて出るのはこんな言葉? この人が喜ぶかどうかも怪しいのに。けれど、もう少し状況が変わったら、その時はもっと素直に話せるかも……。
 ノアは小さく頷き、ようやく柔らかな表情になった。
「リース、無事で良かった」
 リースベットは口を開かず、悲しげな微笑みだけを返した。

 ノアの車列が左右に別れて道を開けた。ブリクスト麾下きかの兵士たちが敬礼する間を、緊張した面持ちのユーホルトが引く馬車がゆっくりと進んでゆく。リースベットはほろ馬車の中で膝に腕を乗せて手を組み、ノアの姿が見えなくなるまで顔を伏せたままだった。
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