山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

59 反撃 2

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 戦況の急変は他の部隊にも伝播でんぱし、レイグラーフは事態の確認を急がせていた。
 ランガス湖のほとりを前進していたリースベットたちも足を止め、マイエルの破天荒な戦いぶりを、全貌ぜんぼうこそ見えないものの確信をもって感じていた。マイエルはノルドグレーン軍を圧倒している――
「リードホルム軍最強のおっさんが、はるばるボルガフィエルから駆けつけたんだろ? 勢いに乗って、ここまで残してたありったけの騎兵を突入させりゃいいのに」
「そうもいかん。兵士たちの士気は上がっているが状況は混乱し、騎兵を動かす場所が作れんのだ。レイグラーフ様はまだ、対応を決めかねているだろう」
「……いまは前衛の兵が勢いづいている、それで良いはずだ。ジュニエス河谷かこくは狭い。自軍部隊の前後入れ替えさえ容易ではないからな。まして、マイエル将軍がどう動くかも未知数だ」
 ノアの同意を得たメシュヴィツは、リースベットに得意げな顔を向けた。
「けっ……まあいいや。あたしらはどう動く?」
「まずはマイエル将軍の到来を告げて回ろう。ここで全体を勢いづけ、どれだけ押し返せるかが勝負の分かれ目だ」

「マイエルが参戦したですって?!」
 この戦いに臨んでから初めて、ベアトリスは驚きに声を荒げた。座席から立ち上がり、混乱し蹂躙じゅうりんされる自軍を苦々しげに眺めている。
「全軍をあげての参戦ではないようですが、それでも2000ほどは率いてきたとのこと」
「……では一体、ターラナに展開するノルドグレーン軍は何をしていたのかしら」
「報告によりますと……ボルガフィエル常駐軍の移動に気付いた時には、すでにラインフェルトの部下が守備の穴埋めに到着していたとか。マイエルの後方をやくすような動きは取れなかったようです」
「ターラナと向き合うボルガフィエルからは、800キロメートルもあるというのに……」
 ベアトリスは、開戦前ラインフェルトが赴任していたリードホルム東部とジュニエス河谷、マイエルがいたはずの南方ボルガフィエルの位置関係から、移動にかかる時間を計算した。
 ラインフェルトは、ベアトリスが明確にリードホルム侵攻の動きを見せたひと月ほど前の時点で既に、部下をボルガフィエルへ向けて出発させている――そうでなければ絶対に、マイエルの参戦は不可能なのだ。
 ノルドグレーンのターラナ地方には常に、数千のノルドグレーン軍が展開している。開戦の半月ほど前の時点では、その部隊とマイエルがにらみ合いを続けていたことをベアトリスは確認し、この戦いに臨んだのだった。
「まさかボルガフィエルを守りながら、リードホルムのほとんど全軍をこの地に集結させるとは……」
「まったく……」
 ベアトリスは力なく腰を下ろした。マイエルがいなければ勝利は目前であっただけに、その落胆は小さくない。
 だが気落ちしてばかりもいられない。怯懦きょうだを振り払うように何度か頭を左右に振り、乱れた前髪をなでつけながら、菫青石アイオライトの瞳をふたたび戦場に向けた。
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