228 / 247
楽園の涯
8 継承者
しおりを挟む
リースベットの訃報が山賊団全体に知れ渡り、副長のテオドル・バックマンが布告担当官の役割から開放されると、今度は別の、より深刻な問題が彼の双肩にのしかかった。
バックマンは目下のところ、首領を失った集団の、暫定的な取りまとめ役という立場なのだ。誰かが正式にリースベットの後任者となり、物寂しく空いたままの玉座に座らねばならない。問題はその玉座が、輝かしい権力の座どころか拷問椅子にさえ見えることだ。立場に付随する重責に、だれも候補者として手を上げたがらない。
バックマンは山賊団の主要な人物たちを食堂に招集し、さっそく問題の解決に取り掛かった。
「さて、偉大な創始者を失った山賊は、散り散りになって、職を失った鉱山労働者と山道のごろつきに戻るか?」
「冗談だろ?」
「嫌よそんなの」
「同感だ。悪いが俺は、そんなに諦めのいいほうじゃなくてね」
「しかし、あの頭領の代わりか……」
拠点の拡張工事などを指揮していたクリンゲンバリがつぶやく。彼は元鉱夫たちの代表という立場だ。
他にはアウロラ・シェルヴェンとエステル・マルムストレム、ドグラスやヨンソン、鑑定士オスカリウスなどが顔を並べている。その後ろには、長老と呼ばれている盲目の老人の姿もあった。彼がこうした場所に居合わせることは珍しい。
「……リースベットは出ていく時、後をアウロラちゃんに任せたいと言っていたわ」
エステルの言葉で、全員の視線がアウロラに集まった。
「私……? 無理よそんなの!」
アウロラは全身を使って否定する。
「だって……リーダーって、戦えればいいってわけじゃないでしょ」
「俺が言うのも何だが、アウロラの言う通りだ。先陣きって戦う力と、人を指示して動かす力は違う」
「なるほど、じゃあ副長のお前が繰り上がるってことか? 俺はそれでも構わねえぞ」
しばらくのあいだ腕を組んでなりゆきを傍観していたドグラスが、ひとつの穏当そうな道を示した。
山賊団の人数が十人を超えた頃から、バックマンが方針を示し、それにリースベットが賛同するという流れで、集団としての性格が確立されてきていた。その点でバックマンは中心人物だったとも言え、彼を指導者に推す者はおそらくドグラスだけではないだろう。
だが当人には、どうやらその気はないようだ。
「俺みたいなのがトップに立つってのは、この山賊団にとっちゃあまりいい選択肢じゃねえな」
「それはお前が、ノーラントの人間じゃねえからか?」
少なくとも食堂内にいる者たちの中で、バックマンの肌だけが際立って浅黒い。移民以外はみな一様に白い肌をもつリードホルムにあって、明確に出自の異なる存在であることは一目瞭然だった。
バックマンは目下のところ、首領を失った集団の、暫定的な取りまとめ役という立場なのだ。誰かが正式にリースベットの後任者となり、物寂しく空いたままの玉座に座らねばならない。問題はその玉座が、輝かしい権力の座どころか拷問椅子にさえ見えることだ。立場に付随する重責に、だれも候補者として手を上げたがらない。
バックマンは山賊団の主要な人物たちを食堂に招集し、さっそく問題の解決に取り掛かった。
「さて、偉大な創始者を失った山賊は、散り散りになって、職を失った鉱山労働者と山道のごろつきに戻るか?」
「冗談だろ?」
「嫌よそんなの」
「同感だ。悪いが俺は、そんなに諦めのいいほうじゃなくてね」
「しかし、あの頭領の代わりか……」
拠点の拡張工事などを指揮していたクリンゲンバリがつぶやく。彼は元鉱夫たちの代表という立場だ。
他にはアウロラ・シェルヴェンとエステル・マルムストレム、ドグラスやヨンソン、鑑定士オスカリウスなどが顔を並べている。その後ろには、長老と呼ばれている盲目の老人の姿もあった。彼がこうした場所に居合わせることは珍しい。
「……リースベットは出ていく時、後をアウロラちゃんに任せたいと言っていたわ」
エステルの言葉で、全員の視線がアウロラに集まった。
「私……? 無理よそんなの!」
アウロラは全身を使って否定する。
「だって……リーダーって、戦えればいいってわけじゃないでしょ」
「俺が言うのも何だが、アウロラの言う通りだ。先陣きって戦う力と、人を指示して動かす力は違う」
「なるほど、じゃあ副長のお前が繰り上がるってことか? 俺はそれでも構わねえぞ」
しばらくのあいだ腕を組んでなりゆきを傍観していたドグラスが、ひとつの穏当そうな道を示した。
山賊団の人数が十人を超えた頃から、バックマンが方針を示し、それにリースベットが賛同するという流れで、集団としての性格が確立されてきていた。その点でバックマンは中心人物だったとも言え、彼を指導者に推す者はおそらくドグラスだけではないだろう。
だが当人には、どうやらその気はないようだ。
「俺みたいなのがトップに立つってのは、この山賊団にとっちゃあまりいい選択肢じゃねえな」
「それはお前が、ノーラントの人間じゃねえからか?」
少なくとも食堂内にいる者たちの中で、バックマンの肌だけが際立って浅黒い。移民以外はみな一様に白い肌をもつリードホルムにあって、明確に出自の異なる存在であることは一目瞭然だった。
0
あなたにおすすめの小説
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
黄金の魔族姫
風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」
「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」
とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!
──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?
これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。
──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!
※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。
※表紙は自作ではありません。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる