童話短編集

コクレア

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白い怪物

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人間になりたかった怪物の話

あるところに一匹の怪物がいました。
怪物は大きなアゴに鋭い牙をもっていました。
全身はとげにおおわれ、近づく者を傷つけます。
なので怪物に近づく者はいませんでした。

怪物は普段海に住んでいました。
海の深い深い所にいて、暗闇に姿を隠すように生きていました。

怪物はいつも泣いていました。

もっと日の当たるところに出たいと泣いていました。

それでも日向に行くことはありませんでした。

ですがある時、日向に行く方法を知っている魔法使いの魚がいるという噂を聞きました。
怪物は外に出たかったので、必死にその魔法使いを探しました。


必死に探して探して、海のもっと深いところにいる魔法使いのところにたどり着きました。

怪物は聞きました。
「一度でいい、私は陸に行って見たい」
「でもこの姿がそれを許さない。どうしたらいい」

魔法使いは言いました。
「ならば期限つきで姿を変えてやろう。昼間は人間の姿で、夜は元の姿に戻る。それに魔法の効き目はひと月のみ。それでもいいか?」

「それでもいい。」

怪物はその時から昼間だけ人間の姿になることが出来るようになりました。

怪物は初めて海の外の世界を知りました。
陸には海では見たことのない景色がたくさんありました。
怪物はたくさん歩いて歩いて、疲れてしまいました。
「見たい物がありすぎて、困るなあ」

そう言うとその場にへたりこんでしまいました。
その時、人間の男の子が声をかけ、助けてくれました。
「大丈夫ですか」

怪物は初めてのことで戸惑いました。それにもうすぐ夕方になりそうです。
「ありがとう。また今度お礼はさせて下さい」
怪物は男の子と別れ、急いで海に戻りました。

次の日も怪物は陸に上がりました。
昨日の男の子にお礼をするために昨日と同じ風景を探します。
と、探る前に浜辺で男の子と出会いました。

「昨日はありがとう」
怪物は言いました。

「ああ、昨日の人だね。気にしないで」
男の子は言いました。

「それにしても、こんなところでどうしたの
男の子は聞きました。

「ええと、散歩です」
怪物は答えました。

「ふうん・・・」
男の子は若干怪しがりましたが納得することにしました。

「この辺に来て間もないので、何も知らなくて」
「なるほどね、引っ越してきたばかりとか?」
「そ、そうです」
苦し紛れに怪物は言いました。

「なら、僕が少しだけど案内しよう」
「良いのですか?」
「ああ、勿論」

怪物は男の子に町を案内されることになりました。
海の近い港町です。
色々な建物が立ち並びます。

「あれが市場に倉庫に・・・」
「あれは?」

「あれはクレーンというんだよ。荷物を運ぶときにつかうんだ」

「首の長い生き物みたいね」
「そうかな?」

そんな話をしながら時間をかけて二人は町を歩きました。

そして夕方が近づいてきました。

「そろそろ帰らなくちゃ」怪物は言いました。
「そうか、もうちょっと案内したかったけど、残念だね」

怪物は自分の姿が変わる前に海に帰らなくてはなりません。
町の案内をしてもらい、その日は別れました。

怪物はその日は中々眠れませんでした。色々なものをみて、ワクワクしていたからです。
「明日はどんなことがあるんだろう」

そんなある日、怪物は街でお祭りがあることを知りました。

「私も出てみたいなあ」

ですがお祭りは日が暮れてからです。怪物の姿に戻ってしまうのも日が暮れて夜からです。
どうしても出てみたい怪物は、魔法使いの魚に頼んでみました。
「どうしてもといわれても、約束は約束通りだ。期限付きなのは変わりない」
「そう・・・」

諦めきれない怪物は、それでもお祭りを一目見ようと、決心しました。

そして、男の子と一緒にお祭りを見に行くことになりました。
「一体どんな物が見れるんだろう」
怪物はわくわくしていました。

お祭りの日、怪物は陸に上がり、人間の姿になったまま、日暮れぎりぎりを待ちました。
男の子は少しの違和感に気付いて声を掛けました。
「さっきから様子がおかしいけど、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」

怪物は自分の体のトゲが出ないように祈るばかりです。
そしてお祭りの時間がやってきました。
皆それぞれ仮装をしてパレードに参加しています。

「わあ、きれい」
怪物は感動していました。
生まれて初めて見る景色に見とれていました。

しかし、怪物が元の姿に戻る時は刻一刻と迫ってきます。
トゲがすこしずつ出て来ました。
男の子は気付きました。
「今なにか尖ったものが見えたような」
「き、気のせいよ」

怪物は激痛を感じながらもトゲの出た部分を無理やり隠しました。

「尻尾みたいなものも見えたような・・・」
「こ、これは」

怪物の体はもう元の姿に戻りつつありました。隠しきれません。
大きな牙も、隠しきれません。
「これはそういう仮装なのよ」

苦し紛れに怪物は答えました。
「ずいぶんユニークな仮装だね」
男の子は怪物に触れようとしました。

「だめ!」

男の子はトゲに触れ、傷付いた所からは血が流れていました。
「ああ・・・」
怪物は怪物であることがバレてしまいました。

辺りは騒然となり、逃げ惑う人や悲鳴を上げる人で溢れました。
「お祭りになんて来なければよかった・・・」

怪物は悲しみながら海に引き返しました。
ですがその後を男の子が追ってきました。
「どうして追ってくるのよ」
「どうして逃げるんだい」

怪物は驚きました。本物の姿を見ても逃げない人間がいることに。
「確かに、トゲはあるし危ないかもしれないけれど、うまく話しをすることはできるだろう」
「僕は今まで君と過ごしてきた。どんな姿でも君と分かる」
「僕は君の友達だ」

怪物は泣きました。泣いて泣いて、泣きました。
そんなことを言われたのは初めてだったからです。
「それでも僕は、君を諦めない」
男の子がにじり寄ってきます。
「わかったわ、危ないからこの距離で話しましょう」

「私は魔法使いの魚に頼んで人間の姿に変えてもらっていたの」
「でもその魔法ももうすぐ解ける」
「それでも私と友達でいてくれるの?」

男の子は言いました。
「ああ、勿論だ」
怪物は言いました。
「この牙でかみ砕いてしまうかもしれないわ」
「それは痛そうだから避けたいかな」
「このトゲであなたを傷つけてしまうかもしれないわ」
「それは知ってるよ」
「この姿は人を遠ざけるわ」
「僕はそれでもここにいるさ」
「分かったわ」

「私は、あなたと友達になる」

こうして怪物には、ただ一人の友達ができたのでした。
二人はお互いが傷づかない距離で、交流を続けました。

そしてある時、魔法使いの魚が言いました。
「完全に人間になる魔法を見つけたんだ、試してみるかい?」
魚は異様にワクワクしていました。

怪物は言いました。
「私には友達がいるわ、そんなものはもういらない」









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