【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓

文字の大きさ
6 / 27

6

しおりを挟む
 父の私室の前にやって来ると、この家の家紋が描かれた両開きの扉が私の前に立ちはだかる。
 普段もあまり父の元へ来る事が無いからここを開ける時は緊張するのだが、今回は理由が理由なだけに緊張で胸が張り裂けそうだ。
 落ち着くために深呼吸をしていると、先に話を通しておいてくれたルドルフが私の横に立ちながら。

「それほど怒っている様子はありませんでしたからご安心下さい……多分」

「最後にボソッと何か言ったよね」

「いえ、何も言っておりません」

 きっぱりとそう言い切ったが一瞬だけルドルフは目を逸らし、やはり何か言ったのだと察する。
 しかし、そんな事を気にしている暇がない私は彼の言葉を信じることにして、もう一度深呼吸してから扉をノックする。

「イルメラか? 入っておいで」

 中から聞こえた父の声に返事をしながら入ると、何かの書類にペンを走らせる父の姿があった。
 その表情が全く読めない顔を見て不安を覚えていると、父は私の方をちらと見て。

「取りあえずそこ座りなさい」

「は、はい」

 父が指差した先、仕事机の前に置かれた椅子に腰かけると、一層緊張でお腹が痛くなって来る。
 大丈夫だと自分に言い聞かせていると父は羽ペンを置き、私に目を合わせて。

「さて、一応お前の口からも話を聞いておこう。話してごらん」

「実は――」

 私はルドルフも説明したのであろうことに加えて、より細かくフロイデンが話していた内容や、最近冷たくて挨拶もしてくれない事を話した。
 黙って頷きながら聞いていた父は全て聞き終えると、さっきまで何かを書いていた書類を私に差し出して。

「あの男が本当にお前を愛していないと分かったら、これにサインをしなさい。そうしたら、私がこれを提出してあげよう」

「えっ」

 その紙は貴族間で使われる婚約破棄の書類で、既に父の名前と判は押されていて、後は私が名前を書くだけで提出出来る状態になっている。
 てっきり止められるのだと思っていただけに驚きが隠せず、困惑しながらも受け取ると、父はおかしそうに笑う。

「父さんがダメだって言うと思ったのか?」

「はい、てっきり殿下の子どもを授かれと言われるのではないかと思っていました」

 実際、王族の婚約者に選ばれた貴族令嬢は別れることなんて許されず、例えどれだけ嫌がっても子どもを授かるように言われた娘があの学園にいる。
 だからこそ、私もそう言われるのだと思っていたのだが……本当に婚約破棄してしまって良いのだろうか。
 すると父は最近ハマっているという味付けされた干し肉を引き出しから取り出しながら。

「確かに父さんとしては殿下と仲良くして欲しいものだが、ムリなものはムリだからな。判断はお前に任せる」

「分かりました。ありがとうございます」

 まさかこんなとんでもないわがままを許してくれるなんて、父はなんて優しいのだろうか。
 心からの礼を言って立ち上がると、父は頑張ってなとだけ言って仕事に戻り、もう一度礼を言った私はルドルフと共に部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

全てから捨てられた伯爵令嬢は。

毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。 更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。 結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。 彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。 通常の王国語は「」 帝国語=外国語は『』

わたしに冗談なんて通じません。だから二度と婚約者面なんてしないでくださいね

うさこ
恋愛
特殊な騎士の家で育った私には婚約者がいた。 今思えば、彼は私に好きになれと強要していた。 そんな私は婚約破棄を言い渡されーー ※ざまぁです

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

処理中です...