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27話

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 時刻は夜中の十二時。
 しっかりと仮眠したこともあって眠さは無く、頭もスッキリとしている。今日の見回りは楽しく出来る事だろう。

「じゃあ、見回り始めましょうか」

「うん、今日はよろしくね」

 とても楽しみなようで彼女の尻尾はゆらゆらと揺れ、軽い足取りで一階へ降りる。
 廊下はトイレに行きたくなった子のために付けられているため懐中電灯は要らないけれど、それでも薄暗くてちょっと不気味だ。 
 しかし、隣にいるご機嫌な千春のおかげで全く恐ろしさは無く、振り回されている尻尾を見ていると自然に笑ってしまう。

「警備員やってて怖かった事ってある?」

「うーん、誰もいないはずの部屋で物音がした時でしょうか。たぬきが盗み食いしてただけでしたけどね」

「かわいいね。ちなみに誰だったの?」

「ぽこ乃……詩音ちゃんです。たぬきの中で一番幼いので、イタズラがあったら大体あの子です」

「悪い子だねえ」

 わざわざ私が分かりやすいように言い直してくれた千春に心の中で感謝しながら廊下を練り歩く。
 外でうるさく騒ぐ虫や蛙のせいで屋敷の中の音はほとんど聞こえず、もしも幽霊が出て物音を立てていても気付くことは出来なさそうだ。
 と、千春は一つの部屋の前で止まり、襖を静かに開ける。

「ここ、時々盗み食いしてる子が偶にいるので気を付けてください……こんな風に」

「あらぁ……」

 リスのように頬を膨らませてお菓子を頬張る詩音の姿がそこにあり、ふわふわ尻尾が慌てたかのようにピーンと立ち上がる。
 
「ち、違うの!」

「ホントに?」

「うん! お腹がすいちゃっただけなの!」

 何も違くなくて笑ってしまっていると、千春がお母さんのようにムッとした顔をしてお菓子を没収する。

「こんな時間にお菓子を食べたらダメって言ってるでしょ。虫歯になったら歯医者さんでドリル使われるからね?」

「痛いのヤッ」

「じゃあ盗み食いはやめなさい」

「うん」

 私も何か言った方が良いのかもしれないが、母子のような会話をする二人が可愛すぎて何も言葉が出て来ない。
 どうしようかと考えながら眺めていると、廊下を駆け付けて来る音が聞こえ、振り返ればたぬき娘が二人来ていた。
 
「ごめんなさい、ちょっと目を離した隙にいなくなってて……」

「この子はちょっとした隙を突いてすぐいなくなるから、なるべく膝に乗せるとかして見張ってね。後、歯磨きさせてきて」

「はーい」

 二人に両手を繋がれて洗面所の方へ連れて行かれる詩音に手を振っていると、千春は少し疲れた様子で笑う。
 
「あの子、本当に食いしん坊で摘まみ食いとか盗み食いとかよくするです。まあ、たぬきの幼少は大体あんな感じなんですけどね」

「って言うと、千春もしてたの?」

「何度か経験はあります。でも、歯医者を出されて毎回泣かされてました……」

 気恥ずかしそうに笑った彼女は、誤魔化そうとするように歩き出し、そんな彼女の後に続く。
 そうして一時間ほど千春と話をしながら屋敷内を歩いて回り、薄暗い廊下にも慣れ始めた頃、千春は「カメラ室」と書かれた札のかかった部屋の前で立ち止まる。

「さて、見回りはしましたので次はカメラの確認しましょうか。偶に野生の動物が中に入って来ていることがありますから」

 そう言いながら扉を開けた千春に、昼間の蛇を思い出して恐る恐る尋ねる。

「蛇とか……?」

「よく入って来ます。その時はあの捕獲道具で捕まえて追い出します」

 そう言って彼女が指差した先には動物捕獲用の摩股があり、かなり使い込まれているのが黒ずんだその見た目から分かる。
 部屋の奥には複数のモニターとそこに映し出される複数の監視カメラの映像があり、思っていたよりもしっかりとした防犯対策が成されていると分かる。
 
「これ、カメラ何個あるの?」

「二十個です。業者さんがこの屋敷を管理するにはこれくらい必要って言って、たくさんつけて行って下さったんです」

「それ、大丈夫なところ?」

 田舎で業者と聞くと詐欺ではないかと疑ってしまう。
 しかし、千春は全面的に信頼しているらしく、えっへんと胸を張って。

「大丈夫です! 長年お世話になっていますから!」

「そ、そっか」
 
 後で美農に問い質して大丈夫なところか確認しておいた方が良さそうだ。
 そんなことを考えていると千春が壁に立てかけられていた椅子を引っ張って来て、モニターの並ぶ机の前に元々置かれていた椅子の隣へそれを移動させた。
 
「やることも無いですし、のんびりカメラ見ながら談笑でもしましょっか」

「だね。おあつらえ向きにトランプもあるし」

 ポンと置かれていたトランプをシャッフルしながらそんなことを言っていると、カメラの一つに動きがあった。
 それは一階の階段前に設置されているカメラで、たぬき娘二人に挟まれている詩音の姿がある。
 しかし、二人は話すことに夢中で詩音の方を見ておらず、詩音はそんな二人の元からコソコソと逃げ出した。
 
「……早速事件発生だね」

「あの子たち……」

 呆れたように苦笑した彼女と共に立ち上がった私は、詩音の捜索を行うべく足早に部屋を出た。
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