婚約者の幼馴染に圧勝するまでの軌跡

きんもくせい

文字の大きさ
8 / 12

独占欲

しおりを挟む
ベネディクトの大きな身体に隠れて、ちょうどフラヴィアのことは見えなかったのだろう。駆け寄ってきたアンナは、レモンイエローのフリルを見てギョッとし、フラヴィアの顔を見てあからさまに眉を顰めた。

「アンナ、今日はフラヴィア嬢と昼食を摂る。お前は女性訓練場の方に戻れ」

ベネディクトが何でもなさそうな様子でそう言うと、アンナは益々複雑そうな顔をした。

「え?だ、だって、いつも一緒に……」

「べつに約束はしていないだろう?それに、お前とはいつも一緒に食べているじゃないか」

「だから、今日も一緒に食べて良いじゃん……。そもそも、なんでお嬢様・・・がこんなとこに……」

いつも通り帰る帰らないの問答を続ける2人を気にせず、フラヴィアは卵焼きを頬張った。ほのかに甘い味付けは彼女の好みを把握しきった、絶妙な味付けである。 
爽やかな風の吹く中、己の知識欲を満たし、空腹も満たす。
これ以上幸せなことはなかった。
 


一方、アンナは絶望的な心境だった。

ずっと一緒にいた、女嫌いの幼馴染にできた婚約者。いつもなら、そう言う類のお嬢様は彼にベタベタとまとわりつき、剣技の邪魔をするため、何もしなくたって嫌われ、遠ざけられていた。だから、今回だって心配していなかった。歴代の婚約者候補の中で一番綺麗で可愛かったけれど、それだけだと思っていた。

ベネディクトと自分の共通点である、剣技の経験。それはアンナにとってはこれ以上ない宝物であり、特別な武器だった。

そんな剣技の場にフラヴィアがいるだけで不愉快だったのに、自分よりも優先されるなんて、度し難いことだった。心の奥底がザワめき、イライラとした嫉妬が募る。

「そもそもさあ、前も思ったけど、私に一言あっても良くない?約束してなくても、いつも一緒に食べてるんだし!」

「なら、今日は無理だ」

「………っ!そもそも、フラヴィアちゃんは、こんなの見てて楽しいのっ?」

アンナの矛先が自分に向いたので、空を眺めていた横顔を彼女の方に写し、しばし考えてから返答をした。

「楽しい、というよりも、充足感がありますね。文字で見るのと実際に観戦するのではやはり理解度が違いますから。動きを伴った剣術を見ることができて光栄です」

「………っ、あ、そう。実際にやってみたら良いんじゃないの?」

「機会があればそれも良いかもしれませんね。お父様が許可してくれるかしら……」

「…それは難しいんじゃないか…?とにかく、今日は共に食事をとることは難しいから、戻れ」

キリのない押し問答に見切りをつけるように、ベネディクトがそう言った。
アンナは悔しそうに・不愉快そうに顔を歪め、頬を真っ赤にしながら2人を睨みつけた。

「言われなくてもっ!別にいつも一緒に食べてるからそうしようと思っただけだし!」

肩を怒らせて去っていく後ろ姿に、ベネディクトの中で、少しの違和感が堆積した。唯一話が通じる女性だと思っていた幼馴染は、あんなにも感情的な性格だったろうか?と……。

同時に、先ほどのフラヴィアの言葉が脳裏に思い出される。


____『楽しい、というよりも、充足感がありますね。文字で見るのと実際に観戦するのではやはり理解度が違いますから。動きを伴った剣術を見ることができて光栄です……』

やはり、変わっているな、と思いながら、その美しい横顔を盗み見た。

心地の良い風が一陣、頬を撫でていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。

Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

処理中です...