12 / 12
ベネディクト視点3・違い
しおりを挟む
微かに首を傾げた彼女に、補填するように言葉を重ねていく。
「俺は昔から、女性があまり得意ではない。母も早くに亡くしたからな、唯一よく知るのは近衛騎士団の娘のアンナくらいだ」
アンナという名前を出すと、フラヴィアは納得したように頷いた。
「ああ。幼馴染だという方ですね。それと、先ほどの言葉は否定させていただきますわ。私のような女性は、視野を広げればきっと沢山いるでしょう。貴方に寄ってくるような積極的な女性が必然的に似通った特徴を持っていただけですよ」
もう、彼女の口にすること全てが新鮮だった。
何でもないように、詩の暗誦をするのと同じくサラリと言われた言葉。彼女にしてみればなんでもないような問答だろう。しかし、そんなことを言われたのは初めてだった。
自分に寄ってくる女が、必然的に似たような性格だっただけ。
……確かに、少し視野を広げてみればそうだったのかもしれない。しかし自分は近寄ってくる女性を捌くのに精一杯で、周囲のの人を見る余裕なんて無かった。その余裕の無さが女性に対する苦手意識に繋がっていたのだろう。今になって振り返ると、ほんの少しはそう思えた。
そんなふうに思えた自分にも何だか少し、ハッとさせられた。
「…………そんなことを言われるのも、初めてだ。アンナにも似たような事を言ったことがあるが、その時は…」
その時は、「そりゃそーだよ!ベネディクトと剣技の話なんてできる女、私くらいしかいないし!ていうか私ってけっこう男っぽいところあるし、そんなお嬢様いないでしょ」と、そんなふうに返答された気がする。
そう言おうとして思わず閉口してしまったのは、書庫に乱入者が現れたからだ。
「あーーーっ!!やっと見つけた!」
そこからは、静かに2人で話す時間は無くなってしまった。
乱入してきたアンナに丁寧に挨拶をし、あまつ仮にも婚約者同士の逢瀬なのに立ち入りを許可するフラヴィアはやはり変わっていたが、それよりも幼馴染の稚拙さにため息が出た。
子供っぽくて活発で、面倒臭くない。だから、アンナは無理に遠ざけたりしなかった。しかし、婚約者がいるならば流石に自重すべきだとは思う。だが、当の婚約者本人はまるで気にした様子もなく、「コーネリアス家の書庫は素晴らしいものですから」と見当違いなことを言ってアンナを歓迎している始末。
イレギュラーな女性すぎて、どう対応していいかも分からない。きっとこれからも、彼女のこうしたズレた言動を目の当たりにするだろう。
ああ、けれど。しかし。
「本日は、本当にありがとうございました。ベネディクト様」
出会った時よりも数段柔らかく笑う彼女を見て、それもいいかと思えた。
これから彼女を知っていけば、そんなイレギュラーもレギュラーになるだろうと、そう考えて。
「俺は昔から、女性があまり得意ではない。母も早くに亡くしたからな、唯一よく知るのは近衛騎士団の娘のアンナくらいだ」
アンナという名前を出すと、フラヴィアは納得したように頷いた。
「ああ。幼馴染だという方ですね。それと、先ほどの言葉は否定させていただきますわ。私のような女性は、視野を広げればきっと沢山いるでしょう。貴方に寄ってくるような積極的な女性が必然的に似通った特徴を持っていただけですよ」
もう、彼女の口にすること全てが新鮮だった。
何でもないように、詩の暗誦をするのと同じくサラリと言われた言葉。彼女にしてみればなんでもないような問答だろう。しかし、そんなことを言われたのは初めてだった。
自分に寄ってくる女が、必然的に似たような性格だっただけ。
……確かに、少し視野を広げてみればそうだったのかもしれない。しかし自分は近寄ってくる女性を捌くのに精一杯で、周囲のの人を見る余裕なんて無かった。その余裕の無さが女性に対する苦手意識に繋がっていたのだろう。今になって振り返ると、ほんの少しはそう思えた。
そんなふうに思えた自分にも何だか少し、ハッとさせられた。
「…………そんなことを言われるのも、初めてだ。アンナにも似たような事を言ったことがあるが、その時は…」
その時は、「そりゃそーだよ!ベネディクトと剣技の話なんてできる女、私くらいしかいないし!ていうか私ってけっこう男っぽいところあるし、そんなお嬢様いないでしょ」と、そんなふうに返答された気がする。
そう言おうとして思わず閉口してしまったのは、書庫に乱入者が現れたからだ。
「あーーーっ!!やっと見つけた!」
そこからは、静かに2人で話す時間は無くなってしまった。
乱入してきたアンナに丁寧に挨拶をし、あまつ仮にも婚約者同士の逢瀬なのに立ち入りを許可するフラヴィアはやはり変わっていたが、それよりも幼馴染の稚拙さにため息が出た。
子供っぽくて活発で、面倒臭くない。だから、アンナは無理に遠ざけたりしなかった。しかし、婚約者がいるならば流石に自重すべきだとは思う。だが、当の婚約者本人はまるで気にした様子もなく、「コーネリアス家の書庫は素晴らしいものですから」と見当違いなことを言ってアンナを歓迎している始末。
イレギュラーな女性すぎて、どう対応していいかも分からない。きっとこれからも、彼女のこうしたズレた言動を目の当たりにするだろう。
ああ、けれど。しかし。
「本日は、本当にありがとうございました。ベネディクト様」
出会った時よりも数段柔らかく笑う彼女を見て、それもいいかと思えた。
これから彼女を知っていけば、そんなイレギュラーもレギュラーになるだろうと、そう考えて。
171
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。
Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる