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番外編8・スタート
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数えきれないほど天井に吊されたシャンデリアは、互いの光を反射し合い、流星のように鮮烈に輝いている。
列を成した娘達は、それぞれが最も美しいと納得する装飾に身を包まれ、今か今かと「その時」を待ち侘びていた。
この日のために召集された王宮付きの音楽隊はすでに優美な音色を奏で始めており、爵位の関係で先頭列に配置されたソフィアは、自身の胃がキリキリと痛むのを感じていた。
今、とうとう第二王子の婚約者を決める「選別会」が行われようとしている。
パーティーを開催する前に、1人ずつ王子に挨拶をするため、令嬢達は笑顔の練習をしながらこうして順番待ちしているのだ。そのうちファンファーレが鳴り響き、カミーユが堂々と特等席に座するのだろう。侯爵令嬢という立場上、ソフィアは一番最初にカーテシーを披露しなければならない。
後ろに無数の令嬢たちの視線と、目の前には王家の存在。一つでも粗があればたちまち噂は駆け巡るだろう。まるでこの場にいる全員が審査員に見えてきた。
───早く帰りたい。
ただただそう思って憂鬱になるソフィアの隣に、ふと誰かが並んだ。
「もし」
ふわりと香る薔薇の芳香。視界の端で捉えたチョコレート色の巻毛に、チュンと分厚い真っ赤な唇。びっしりと睫毛に縁取られた目力のある瞳は、迷いなくこちらを向いていた。
暗い茶色の髪と美しい唇の乙女の顔には、見覚えがあった。
「まあ……、お久しぶりですわ、スカーレット様」
「お目にかかれて光栄です、ソフィア様。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」
スカーレット・ヘルヴァン。代々王家への忠誠心が高い、保守派筆頭のヘルヴァン伯爵家に生まれた、その名に相応しく美しい娘である。社交界でも幾度となく顔を合わせており、同じ学園に通う同級生でもあった。
ソフィアが第二王子・カミーユの第一婚約者候補だとするならば、スカーレットは第二婚約者候補。
つまるところ、今宵の一番のライバルである。少なくとも、スカーレットにとってはそうだろう。
ますます己の胃がキリキリと唸り始める音を聞きながら、ソフィアはすまし顔で微笑んだ。
「こちらこそ、こうして華やかな場でスカーレット様にお会いできたこと、大変嬉しく思いますわ。もう聞き及んでいるかもしれませんが、私、ここには形式的に、あくまで“お付き合い”として、参加をしているにすぎませんから……」
暗に、敵じゃありませんアピールをしつつ眉を下げる。周囲の令嬢たちも、ツートップの会話に耳を傍立てているのが分かった。
「……そうですね。ソフィア様の事業のお話は、学園でも拝聴しておりました。ですが、それなら、尚更……」
「尚更?」
「……いえ、ソフィア様が来てくださると、いつだって、場が華やぎますから。尚更、めでたい場にはふさわしいことですわ」
「まぁ……。その様に形容していただけると、今宵のために着飾った甲斐はありますわ。スカーレット様も、相変わらず薔薇のように麗しい」
「ソフィア様にそう言っていただけると、嬉しさも一入ですわ」
うふふ、と本当に嬉しそうにはにかむスカーレットを見て、ソフィアはホッと安堵の息をついた。婚約するつもりの無い者が何をしにきたのだ、と罵られる覚悟さえして挑んだ今日であったため、つつがない挨拶には心底安心する。それが顔見知りのご令嬢相手とあらば益々だった。
和やかに談笑しつつ、気は抜かず。シャンデリアの光に負けない、輝かしい2人が相対していると、突如音楽隊の奏が止まった。
きた、と身体を強張らせた令嬢達が、いそいそとこうべを垂れる。鳴り響いたファンファーレと共に、どこからか花吹雪が舞った。
「カミーユ殿下が御成でございます!!」
列を成した娘達は、それぞれが最も美しいと納得する装飾に身を包まれ、今か今かと「その時」を待ち侘びていた。
この日のために召集された王宮付きの音楽隊はすでに優美な音色を奏で始めており、爵位の関係で先頭列に配置されたソフィアは、自身の胃がキリキリと痛むのを感じていた。
今、とうとう第二王子の婚約者を決める「選別会」が行われようとしている。
パーティーを開催する前に、1人ずつ王子に挨拶をするため、令嬢達は笑顔の練習をしながらこうして順番待ちしているのだ。そのうちファンファーレが鳴り響き、カミーユが堂々と特等席に座するのだろう。侯爵令嬢という立場上、ソフィアは一番最初にカーテシーを披露しなければならない。
後ろに無数の令嬢たちの視線と、目の前には王家の存在。一つでも粗があればたちまち噂は駆け巡るだろう。まるでこの場にいる全員が審査員に見えてきた。
───早く帰りたい。
ただただそう思って憂鬱になるソフィアの隣に、ふと誰かが並んだ。
「もし」
ふわりと香る薔薇の芳香。視界の端で捉えたチョコレート色の巻毛に、チュンと分厚い真っ赤な唇。びっしりと睫毛に縁取られた目力のある瞳は、迷いなくこちらを向いていた。
暗い茶色の髪と美しい唇の乙女の顔には、見覚えがあった。
「まあ……、お久しぶりですわ、スカーレット様」
「お目にかかれて光栄です、ソフィア様。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」
スカーレット・ヘルヴァン。代々王家への忠誠心が高い、保守派筆頭のヘルヴァン伯爵家に生まれた、その名に相応しく美しい娘である。社交界でも幾度となく顔を合わせており、同じ学園に通う同級生でもあった。
ソフィアが第二王子・カミーユの第一婚約者候補だとするならば、スカーレットは第二婚約者候補。
つまるところ、今宵の一番のライバルである。少なくとも、スカーレットにとってはそうだろう。
ますます己の胃がキリキリと唸り始める音を聞きながら、ソフィアはすまし顔で微笑んだ。
「こちらこそ、こうして華やかな場でスカーレット様にお会いできたこと、大変嬉しく思いますわ。もう聞き及んでいるかもしれませんが、私、ここには形式的に、あくまで“お付き合い”として、参加をしているにすぎませんから……」
暗に、敵じゃありませんアピールをしつつ眉を下げる。周囲の令嬢たちも、ツートップの会話に耳を傍立てているのが分かった。
「……そうですね。ソフィア様の事業のお話は、学園でも拝聴しておりました。ですが、それなら、尚更……」
「尚更?」
「……いえ、ソフィア様が来てくださると、いつだって、場が華やぎますから。尚更、めでたい場にはふさわしいことですわ」
「まぁ……。その様に形容していただけると、今宵のために着飾った甲斐はありますわ。スカーレット様も、相変わらず薔薇のように麗しい」
「ソフィア様にそう言っていただけると、嬉しさも一入ですわ」
うふふ、と本当に嬉しそうにはにかむスカーレットを見て、ソフィアはホッと安堵の息をついた。婚約するつもりの無い者が何をしにきたのだ、と罵られる覚悟さえして挑んだ今日であったため、つつがない挨拶には心底安心する。それが顔見知りのご令嬢相手とあらば益々だった。
和やかに談笑しつつ、気は抜かず。シャンデリアの光に負けない、輝かしい2人が相対していると、突如音楽隊の奏が止まった。
きた、と身体を強張らせた令嬢達が、いそいそとこうべを垂れる。鳴り響いたファンファーレと共に、どこからか花吹雪が舞った。
「カミーユ殿下が御成でございます!!」
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