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番外編9・挨拶?
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太陽を編んだような見事な金髪と、宝石を嵌め込んだと謳われる碧眼。整った顔立ちには品の良い微笑が携えられており、肌はどこぞの姫君のように白く滑らかである。豪奢な衣服にも全く見劣りしない煌びやかさは王族特有のものなのか、それとも彼本人の端麗さによるものなのか。
美貌の王子様と名高いだけあって、正装のカミーユは溢れんばかりの華麗さを放っていた。
これには頭を上げた令嬢たちも恍惚のため息を吐き、頬を染め上げる。ソフィアもしばし見惚れたが、家族揃って美形なためか、目新しさは無い。
隣のスカーレットも大して顕著な反応を示してはいなかった。
会場内に設置された、やや上座に位置する特等席。玉座のようなそこに腰を据えると、カミーユは会場をぐるりと見渡して笑み綻んだ。
「皆、今宵は僕のために集まってくれてありがとう。その労力と引き換えに、君達には最大限のもてなしを約束しよう。どうぞ、難しいことには囚われず、目一杯楽しんで行ってくれ。
良い夜にしよう」
カミーユの片手には、執事に握らされたシャンパングラスが光っている。グラスの中には氷の代わりに宝石が浮かべられ、周囲の光を乱反射していた。
乾杯の一言を皮切りに、会場内は拍手で包まれた。音楽隊の演奏も再開され、令嬢たちの談笑の声も戻り始める。
「スカーレット様、私、そろそろ失礼致します」
区切りのいいところで挨拶に行かねば、他の令嬢達が待っているのだから……と歩を進めようとすると、声をかけられた。
「はい……………あの、ソフィア様」
「?…どうかされまして?」
「………いえ。カミーユ様は、距離の近い方をあまり好まれませんので、適切な位置で挨拶をされた方が宜しいかと」
「あら、そうなのですね…。分かりました、助言いただきありがとうございます」
「そんな。おき、…頑張って下さい」
「はい。スカーレット様も」
どこかぎこちないスカーレットの態度に違和感は覚えたものの、ソフィアはスカーレットの助言通り、あまり近づきすぎないよう意識してカーテシーを披露した。
「リルベール侯爵家が娘、ソフィアと申します。この度は、由緒ある行事にお招きいただき、誠に光栄でございます。我が国の太陽であらせられるカミーユ様とこうしてお会いできたこと、大変嬉しく思いますわ」
「ソフィア嬢、待っていたよ。この場に君がいること、とても嬉しく思う。今日はきっと君にとって、特別な日になるだろう」
ソフィアの参加が本意では無いと分かっているはずなのに、とても嬉しいと宣うカミーユに顔が引き攣った。世辞とは言え、大袈裟な気もする。
それに、こうした公の場ではいくら身分が高くとも家名くらいは名乗るのがマナーである。名乗る価値もないと思っているのか忘れているのか、カミーユが相手ではその真意が読み取れなかった。
「是非、もっと近くて顔を見せておくれ」
「……勿論でございます」
流石に距離を取りすぎたのだろうか?と思い、半歩前に出る。すると、それでも尚遠かったのか、「もっと前へ」と言われた。
遠慮がちに半歩進んでみたが、それでも尚遠く感じたのか、「もっとこちらへ」と促される。何故だかカミーユも前のめりになっていた。
流石に近いのでは無いかと思いつつ、またもう半歩出てみる。
「遠慮することは無いんだよ。美しく着飾った君はどんな絵画にも劣らない。ぜひ間近で観察してみたい……それだけなんだ」
「…光栄です」
何だか今日のカミーユは様子がおかしい。それに、さっきスカーレット様が言っていたことと矛盾が生じている!そう思いながらも、逆らうことはできず、足はまた前へ進む。
人が大股で一歩歩けるほどの距離しかなくなると、カミーユは大袈裟に手を広げ「君は本当に美しい!世界中の令嬢を集めても、これ程のひとは2人と居ないだろう」と喜色を浮かべた。
やや熱を帯びたその言葉に若干の引っ掛かりを感じながらも、それでも礼を言おうと微笑んだ瞬間。
カミーユの手からするりとグラスの持ち手がすり抜け、中身が傾いていく。中に浮かんでいた氷代わりの宝石が、刺すような光を反射して、その身を滑らせた。
思い出したのは、ジョウロでナタリーに水をかけられた、あの時のことだった。
美貌の王子様と名高いだけあって、正装のカミーユは溢れんばかりの華麗さを放っていた。
これには頭を上げた令嬢たちも恍惚のため息を吐き、頬を染め上げる。ソフィアもしばし見惚れたが、家族揃って美形なためか、目新しさは無い。
隣のスカーレットも大して顕著な反応を示してはいなかった。
会場内に設置された、やや上座に位置する特等席。玉座のようなそこに腰を据えると、カミーユは会場をぐるりと見渡して笑み綻んだ。
「皆、今宵は僕のために集まってくれてありがとう。その労力と引き換えに、君達には最大限のもてなしを約束しよう。どうぞ、難しいことには囚われず、目一杯楽しんで行ってくれ。
良い夜にしよう」
カミーユの片手には、執事に握らされたシャンパングラスが光っている。グラスの中には氷の代わりに宝石が浮かべられ、周囲の光を乱反射していた。
乾杯の一言を皮切りに、会場内は拍手で包まれた。音楽隊の演奏も再開され、令嬢たちの談笑の声も戻り始める。
「スカーレット様、私、そろそろ失礼致します」
区切りのいいところで挨拶に行かねば、他の令嬢達が待っているのだから……と歩を進めようとすると、声をかけられた。
「はい……………あの、ソフィア様」
「?…どうかされまして?」
「………いえ。カミーユ様は、距離の近い方をあまり好まれませんので、適切な位置で挨拶をされた方が宜しいかと」
「あら、そうなのですね…。分かりました、助言いただきありがとうございます」
「そんな。おき、…頑張って下さい」
「はい。スカーレット様も」
どこかぎこちないスカーレットの態度に違和感は覚えたものの、ソフィアはスカーレットの助言通り、あまり近づきすぎないよう意識してカーテシーを披露した。
「リルベール侯爵家が娘、ソフィアと申します。この度は、由緒ある行事にお招きいただき、誠に光栄でございます。我が国の太陽であらせられるカミーユ様とこうしてお会いできたこと、大変嬉しく思いますわ」
「ソフィア嬢、待っていたよ。この場に君がいること、とても嬉しく思う。今日はきっと君にとって、特別な日になるだろう」
ソフィアの参加が本意では無いと分かっているはずなのに、とても嬉しいと宣うカミーユに顔が引き攣った。世辞とは言え、大袈裟な気もする。
それに、こうした公の場ではいくら身分が高くとも家名くらいは名乗るのがマナーである。名乗る価値もないと思っているのか忘れているのか、カミーユが相手ではその真意が読み取れなかった。
「是非、もっと近くて顔を見せておくれ」
「……勿論でございます」
流石に距離を取りすぎたのだろうか?と思い、半歩前に出る。すると、それでも尚遠かったのか、「もっと前へ」と言われた。
遠慮がちに半歩進んでみたが、それでも尚遠く感じたのか、「もっとこちらへ」と促される。何故だかカミーユも前のめりになっていた。
流石に近いのでは無いかと思いつつ、またもう半歩出てみる。
「遠慮することは無いんだよ。美しく着飾った君はどんな絵画にも劣らない。ぜひ間近で観察してみたい……それだけなんだ」
「…光栄です」
何だか今日のカミーユは様子がおかしい。それに、さっきスカーレット様が言っていたことと矛盾が生じている!そう思いながらも、逆らうことはできず、足はまた前へ進む。
人が大股で一歩歩けるほどの距離しかなくなると、カミーユは大袈裟に手を広げ「君は本当に美しい!世界中の令嬢を集めても、これ程のひとは2人と居ないだろう」と喜色を浮かべた。
やや熱を帯びたその言葉に若干の引っ掛かりを感じながらも、それでも礼を言おうと微笑んだ瞬間。
カミーユの手からするりとグラスの持ち手がすり抜け、中身が傾いていく。中に浮かんでいた氷代わりの宝石が、刺すような光を反射して、その身を滑らせた。
思い出したのは、ジョウロでナタリーに水をかけられた、あの時のことだった。
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