兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい

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番外編10・まさか役に立つなんて

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咄嗟だった。
あの時の、鮮明に残る恐怖心がそうさせたのか、一度水をかけられた感覚を身体が覚えていたのか、コルセットとドレスを纏っているとは思えないほど優雅に、軽やかに、身体は斜め後ろに吸い寄せられた。

パシャリ、と床にシャンパンが着地する。グラスは鋭い音を以って叩きつけられ、中の宝石はやや遠くの方まで滑って行った。

しかし、目の前にいたソフィアはグラスが倒れた方角とは真反対に身を引いており、一滴のシャンパンもかかっていない。まるで、蝶が身を翻すようなささやかな、それでいて素晴らしく反射神経の研ぎ澄まされた動きであった。

まさかソフィアがそんな軽やかな動きをするとは思わなかったのか、目の前のカミーユも目を見開き、その様を凝視している。

対するソフィアも、避けられたことに内心驚いていた。まさか、一度ジョウロの水をかけられた経験がここで生きるとは、と唖然とした。こんなところで役に立つなんて、良いのか悪いのか。モヤモヤとした気持ちになりつつも、胸には一つの疑念が生まれる。

ナタリーの時は意図的に水をかけられた。ジョウロの時も、花瓶を振りかぶられた時もそうだった。あの時のヒヤリとした、指先から体温が抜けていくような、張り詰めた感覚。
それを何故今も感じ取ったのか。
答えはもう出ているようなものだ。

「すまない、ソフィア嬢。つい見惚れてしまって、手が滑ったみたいだ……。ドレスにかかってはいないかな?」
「ええ。大事ありませんわ、お気遣いいただきありがとうございます」
「驚いただろう。客間で休んでも構わないよ」
「いいえ。そんな。本当に何ともありませんから、お気になさらず」
「…………そう。いや、すまなかったね、本当に…」
「とんでもございません。改めて、今宵は宜しくお願い致します」
「こちらこそ。存分に楽しんで」

無礼では無い程度に会話を切り上げ、床に散ったシャンパンの後始末をする執事を尻目に、ソフィアはバクバクと鳴る心臓を抑えた。

あの冷気、あの仕草、あの感覚。
間違いない。
カミーユは、第二王子は、私にあのグラスの中身をかけようとしたのだ、と。

それに、あの目。
「口惜しい」と、「気に食わない」と、苛立ちの籠ったあの瞳。何度も見たことがあるそれは、ナタリーが、自分の思った通りの反応を返してこなかった時の睥睨にそっくりだった。

何故なのかは分からないけれど、確実に、ソフィアはカミーユに嫌われているのだろう。もしかして、今までのいじめも全てカミーユの仕業なのかもしれない。それにしても、一体何故………。

先の思いやられる選別会のことを思って、ぶるりと身震いする。すっかりカミーユに嫌われていると思い込んだソフィアは、斜め上の方向に警戒心を強め、今はいない弟を思った。
味方の誰もいないここで、自分の身を守れるのは自分だけ。武装を確かめるようにドレスの裾を摘み上げ、ひとまず会場の端に向かうのであった。
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