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番外編11・再認識
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カミーユは会場の端から、煌びやかな令嬢たちを眺めた。
シャンデリアの光に照らされたドレスの刺繍や宝石がきらめき、微笑みながら自分に近づこうとする者たちは、なるほど確かに、どれも美しい。幼少の頃から容姿にこだわりがあったカミーユのために選び抜かれただけあって、目を疑うような醜女はどこにも見当たらなかった。
見渡す限りの若々しい笑顔にはどれも化粧が施されており、相当な時間をかけて身支度をしてきたのであろうことが伺える。自分のために、何人もの人間が手間を惜しまずここへ来た。そう思うと悪い気はしなかった。
けれど、それでも、その程度の華では自分の隣に並び立つ事は愚か、傍に控えるレベルにも達していない。
───顔が大きい。瞳が細い。肌が暗い。手足が短い。髪の毛の艶が足りない。仕草が洗練されていない。……普通の男なら目を見張るような美しい令嬢に対しても、カミーユは粗探しをした。自分の美貌に自信があるからこそ、そこらの令嬢の美しさに納得することはない。今までも、ずっとそうだった。
けれど、それはたった1人の例外を除けばの話である。
いつだって、カミーユの目に映るのは、唯一あの少女だけだった。
「僕に相応しいのは、ソフィア・リルベール以外にいない」――その考えは揺るがなかった。彼女の優雅さと気高さ、自然体で会場に立つ姿は、他の令嬢たちの計算された振る舞いをはるかに凌駕している。誰もが必死にカミーユの視線を奪おうとするが、ソフィアだけが、真に自分の隣に並び立つにふさわしい存在として目に映る。
計略もまた、完璧に自分本位の理屈であった。シャンパンをかけることも、ドレスを汚して客間に誘い込むことも、すべては「僕にふさわしい者」を形式上の婚約者として据えるための手段に過ぎない。嫌がらせや悪意ではない。あくまで、自分の美学と計画の遂行だ。
学園での些細な嫌がらせとその手助けだって、ソフィア・リルベールを手に入れるための下準備に過ぎなかった。恋だの愛だのの、くだらない感情ではない。気に入った服を何度も着るのと同じように、ソフィアはカミーユに相応しい美しさを持っていた。それだけのことだった。
それだけに、先ほどのあの軽やかな身のこなしには驚いた。まさか重いドレスとハイヒールを身につけたご令嬢が、間近に迫ったシャンパングラスを避けれるとは思いもしなかったのだ。やはり、もっと近くに配置するべきだったのだろう。強制的に2人きりになる機会を失ったのは気に食わないものの、しかしそれほど不機嫌かと問われればそうではなかった。
あの時の、彼女の動き。ふわりと髪が宙に浮き、瞳の中には幾星霜もの光がひしめき合っていた。驚いたように少し開いた唇はそれでも優美で、軽やかなヒールの音も、ドレスの裾を持ち上げる指先でさえも、何もかもが美しかった。
一瞬、周囲の音も、自分の感覚も、何も感じなくなる程見惚れた。しかしじわじわと、心は湧き立っていく。
周囲の令嬢たちは微笑みを浮かべ、時には不敬にもカミーユをダンスに誘い、そのままアピールを試みる者もいた。
しかしカミーユの視線は、ソフィアから逸れることはなかった。華やかな舞踏会の光景は、彼女の存在を際立たせるための背景に過ぎない。誰もが僕に近づこうとするが、僕が本当に価値を認めるのはソフィア嬢だけだ、と。
カミーユは次の手を思案した。あの少女を無理やり婚約者に据える計略は、まだ序盤である。しかし、心の奥底で確信していた。どれほど周囲が輝こうとも、僕にふさわしいのはソフィア・リルベール以外にいないのだから───。
シャンデリアの光に照らされたドレスの刺繍や宝石がきらめき、微笑みながら自分に近づこうとする者たちは、なるほど確かに、どれも美しい。幼少の頃から容姿にこだわりがあったカミーユのために選び抜かれただけあって、目を疑うような醜女はどこにも見当たらなかった。
見渡す限りの若々しい笑顔にはどれも化粧が施されており、相当な時間をかけて身支度をしてきたのであろうことが伺える。自分のために、何人もの人間が手間を惜しまずここへ来た。そう思うと悪い気はしなかった。
けれど、それでも、その程度の華では自分の隣に並び立つ事は愚か、傍に控えるレベルにも達していない。
───顔が大きい。瞳が細い。肌が暗い。手足が短い。髪の毛の艶が足りない。仕草が洗練されていない。……普通の男なら目を見張るような美しい令嬢に対しても、カミーユは粗探しをした。自分の美貌に自信があるからこそ、そこらの令嬢の美しさに納得することはない。今までも、ずっとそうだった。
けれど、それはたった1人の例外を除けばの話である。
いつだって、カミーユの目に映るのは、唯一あの少女だけだった。
「僕に相応しいのは、ソフィア・リルベール以外にいない」――その考えは揺るがなかった。彼女の優雅さと気高さ、自然体で会場に立つ姿は、他の令嬢たちの計算された振る舞いをはるかに凌駕している。誰もが必死にカミーユの視線を奪おうとするが、ソフィアだけが、真に自分の隣に並び立つにふさわしい存在として目に映る。
計略もまた、完璧に自分本位の理屈であった。シャンパンをかけることも、ドレスを汚して客間に誘い込むことも、すべては「僕にふさわしい者」を形式上の婚約者として据えるための手段に過ぎない。嫌がらせや悪意ではない。あくまで、自分の美学と計画の遂行だ。
学園での些細な嫌がらせとその手助けだって、ソフィア・リルベールを手に入れるための下準備に過ぎなかった。恋だの愛だのの、くだらない感情ではない。気に入った服を何度も着るのと同じように、ソフィアはカミーユに相応しい美しさを持っていた。それだけのことだった。
それだけに、先ほどのあの軽やかな身のこなしには驚いた。まさか重いドレスとハイヒールを身につけたご令嬢が、間近に迫ったシャンパングラスを避けれるとは思いもしなかったのだ。やはり、もっと近くに配置するべきだったのだろう。強制的に2人きりになる機会を失ったのは気に食わないものの、しかしそれほど不機嫌かと問われればそうではなかった。
あの時の、彼女の動き。ふわりと髪が宙に浮き、瞳の中には幾星霜もの光がひしめき合っていた。驚いたように少し開いた唇はそれでも優美で、軽やかなヒールの音も、ドレスの裾を持ち上げる指先でさえも、何もかもが美しかった。
一瞬、周囲の音も、自分の感覚も、何も感じなくなる程見惚れた。しかしじわじわと、心は湧き立っていく。
周囲の令嬢たちは微笑みを浮かべ、時には不敬にもカミーユをダンスに誘い、そのままアピールを試みる者もいた。
しかしカミーユの視線は、ソフィアから逸れることはなかった。華やかな舞踏会の光景は、彼女の存在を際立たせるための背景に過ぎない。誰もが僕に近づこうとするが、僕が本当に価値を認めるのはソフィア嬢だけだ、と。
カミーユは次の手を思案した。あの少女を無理やり婚約者に据える計略は、まだ序盤である。しかし、心の奥底で確信していた。どれほど周囲が輝こうとも、僕にふさわしいのはソフィア・リルベール以外にいないのだから───。
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