兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい

文字の大きさ
13 / 53

第13話・沈黙

しおりを挟む
「………、…」
「…………おにい、さま……」

沈黙は長かった。 

ナタリーの背後、つまり扉側にはレオンの他に両家の両親も揃っており、皆一様にその顔は青白い。中でも母は倒れんばかりに顔色を悪くし、父がそんな彼女を支えていた。唯一弟のレオンだけはいつも通りの顔色で、でも少しだけ疲れたような、安堵したような、不思議な表情をしている。
視線に気付いて室内へと入ってきたレオンは、少しだけ眉を下げて、動けないまま固まるソフィアをナタリーから遠ざけてくれた。

「来るのが遅くなってしまい、申し訳ありません。お姉様」
「……あ、い、…いいの、そんな………私…」
「良いわけがありません。怖かったでしょう。会話は全て・・聞こえていましたから。もちろん、僕だけではなく、皆様にも」

レオンがそう言った瞬間、後ろで何かが崩れ落ちるような物音がした。見ると、ナタリーの母親が倒れるようにして地面に頭をつけ、啜り泣いている。

「申し訳……っ、申し訳ありませんっ!申し訳…わた、私…っ、嗚呼、なんと申し上げたら良いのか…っ」
「そこで謝られても無駄なだけです。今は頭を上げてください」

貴族の女性が地に頭をつけて謝るという衝撃的な光景な思わず慌てたソフィアを制して、レオンがバッサリと告げた。
しかしそう言われても尚ナタリーの母親は泣きながら体制を崩さず、譫言のように謝っている。ナタリーの素朴な顔立ちとよく似ている男性は、そんな彼女を支え、背中を摩ってやっていた。 

「申し訳……申し訳ありません……っ申し訳……っ」
悲痛な声に釣られて再び歩き出そうとするソフィアの腕を、レオンは彼にしては珍しく、しっかりとした力で掴み止めてきた。驚いて目を合わせると彼は小さく頭を振っており、思わず立ち止まる。
その小さな仕草だけで、今は介入するべきでは無いのだと察したソフィアは、立ち止まって静かにその場に佇んだ。

そうすると皆の注目は当然、無言のまま固まるナタリーと兄の方へと向かった。


「………お兄様……」

ソフィアが無意識のうちにそう呟くと、兄は青を通り越して白い顔色で振り向いた。

「………っ、あ、ああ……嗚呼…ソフィア……僕は…………なんて、ことを…」

普段賢く穏やかで、頼れる兄のこんな姿を見たのは初めてのことである。指先は小刻みに震え、ソフィアを見る目には恐ろしい程の罪悪感と後悔が滲み、唇は今にも倒れそうなほど血の気が無い。この場にいる者たちは皆ゾンビのような顔色をしているものの、その中でも兄は一際ひどい有様だった。

でも、ソフィアにとってはそんなことはどうでも良かった。罪悪感も後悔も、彼女にとっては微塵も必要のないものだった。それよりも、なによりも嬉しかったのは、兄が自分を庇ってくれた。その事実だけだった。

「ソフィア……僕は…」
「お兄様、助けてくれて、ありがとうございます」
「…え…?」

今まで、ナタリーの方を信じて、ソフィアのことを諌めてばかりだったアルフレッド。そんな彼が今日初めてソフィアの味方につき、ナタリーの脅威から守ってくれた。それがどんなに彼女の心を照らし、幸せな気持ちにしてくれたことか。

「…私、嬉しい……はじめて…っ、初めてです。お兄様が、ナタリー様から私を庇ってくださったのは…」

自然と涙が溢れてくる。
嬉しさと安堵から涙を滲ませるソフィアを見て、兄は今度こそ、倒れそうな程に蒼然な表情をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

処理中です...