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第19話・ゆめゆめ忘れずに
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「娘であるお姉様の言葉を信じなかったにも関わらず、使い女達の言葉なら信じてくださったのですか?」
「そ、………それ、は」
「ぼくも姉様もお父様のことは深く敬愛しています。けれど、同時に失望も感じているのです。長年愛情を持って姉様を育てていらっしゃったことは、家の誰もが知っています。けれどそんな愛する娘以上に信頼をおいたナタリーを糾弾する召使を、あなた達がそう簡単に信じたでしょうか?」
しばらく、沈黙がその場にこだました。
「……………すまない。私は本当に愚かな父親だ……」
「お父様……」
自分の言い分に説得力が微塵もないことを痛感したらしく、彼はがっくりと首を下ろした。
「旦那様、私達は今のお屋敷も、リルベール家の皆様もとても気に入っております。ですが、このままナタリー様を家に置くとなると、それを上回るデメリットがあるのです」
「他の皆様のように慰謝料を請求したりだとかは、とんでもありません。ただ、元の日常に戻して欲しいのです」
「そのことをゆめゆめ忘れず、どうかご一考くださいまし」
代わる代わるそれだけ言うと、使用人達も奥の部屋へと控えて行った。
なんとも言えない空気の中それを見送ったソフィア達は、この後のことを考えて一様に冷や汗をかき始める。先の損害賠償や事後処理といった事態の対処は勿論、この最悪の空気の中、話し合いを続ける精神的疲労を考えてのことであった。
しかし1人だけ、そんな空気をものともしない人物がいる。くるりと振り返ってぱちん!と手を鳴らしたレオンは、いっそ不気味なほど整った笑顔でこう言った。
「さあ、食事の席に戻って、話し合いをしましょう」
それは、これから地獄が始まるぞと言う合図だった。
「いや……イヤ……こんなの嘘よ…いや……」
「嘘だと仰るのなら弁明すればいいのでは?僕だってあなたに言いたいことはたくさんありますから。皆さんもそうでしょう」
「………ああ、そうだな」
意外なことに、同意したのはアルフレッドだった。
先ほどまで死人のような顔で泣いていたにも関わらず、なぜか少しすっきりしまような、決意したような顔でナタリーを見つめている。赤くなった目尻は普段にも増して釣り上がり、その形相はカラクリか何かのように人間味が無い。まるで一切の情を無くしたかのような、他人に向けるような温度感の無い瞳であった。
今までそんな顔で見つめられた事がなかったのであろうナタリーはいよいよそれに顔色を悪くして、バッと周囲を見渡す。
冷たい目で自分を見下ろす婚約者。
今にも殴りかからんばかりに自分に失望している父。
ずっと泣くばかりで、一向にこちらを見ない母。
まるで人間では無いものを見るような目で見てくる義両親。
そして、お前を許さないと言わんばかりの憎悪に燃えた瞳のレオン。
皮肉なことに、1番暖かく優しいのは、少しの困惑を表情に滲ませるソフィアの視線であった。
「そ、………それ、は」
「ぼくも姉様もお父様のことは深く敬愛しています。けれど、同時に失望も感じているのです。長年愛情を持って姉様を育てていらっしゃったことは、家の誰もが知っています。けれどそんな愛する娘以上に信頼をおいたナタリーを糾弾する召使を、あなた達がそう簡単に信じたでしょうか?」
しばらく、沈黙がその場にこだました。
「……………すまない。私は本当に愚かな父親だ……」
「お父様……」
自分の言い分に説得力が微塵もないことを痛感したらしく、彼はがっくりと首を下ろした。
「旦那様、私達は今のお屋敷も、リルベール家の皆様もとても気に入っております。ですが、このままナタリー様を家に置くとなると、それを上回るデメリットがあるのです」
「他の皆様のように慰謝料を請求したりだとかは、とんでもありません。ただ、元の日常に戻して欲しいのです」
「そのことをゆめゆめ忘れず、どうかご一考くださいまし」
代わる代わるそれだけ言うと、使用人達も奥の部屋へと控えて行った。
なんとも言えない空気の中それを見送ったソフィア達は、この後のことを考えて一様に冷や汗をかき始める。先の損害賠償や事後処理といった事態の対処は勿論、この最悪の空気の中、話し合いを続ける精神的疲労を考えてのことであった。
しかし1人だけ、そんな空気をものともしない人物がいる。くるりと振り返ってぱちん!と手を鳴らしたレオンは、いっそ不気味なほど整った笑顔でこう言った。
「さあ、食事の席に戻って、話し合いをしましょう」
それは、これから地獄が始まるぞと言う合図だった。
「いや……イヤ……こんなの嘘よ…いや……」
「嘘だと仰るのなら弁明すればいいのでは?僕だってあなたに言いたいことはたくさんありますから。皆さんもそうでしょう」
「………ああ、そうだな」
意外なことに、同意したのはアルフレッドだった。
先ほどまで死人のような顔で泣いていたにも関わらず、なぜか少しすっきりしまような、決意したような顔でナタリーを見つめている。赤くなった目尻は普段にも増して釣り上がり、その形相はカラクリか何かのように人間味が無い。まるで一切の情を無くしたかのような、他人に向けるような温度感の無い瞳であった。
今までそんな顔で見つめられた事がなかったのであろうナタリーはいよいよそれに顔色を悪くして、バッと周囲を見渡す。
冷たい目で自分を見下ろす婚約者。
今にも殴りかからんばかりに自分に失望している父。
ずっと泣くばかりで、一向にこちらを見ない母。
まるで人間では無いものを見るような目で見てくる義両親。
そして、お前を許さないと言わんばかりの憎悪に燃えた瞳のレオン。
皮肉なことに、1番暖かく優しいのは、少しの困惑を表情に滲ませるソフィアの視線であった。
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