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第18話・使用人達も
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「まずは私から」
そう言って前に出て来たのは、掃除婦長のエリーだった。
「奥様方は、ナタリー様が雑事をこなしていることをよく褒めていらっしゃいましたね。
例えば、使用人が下げるべき食器を洗い場までわざわざ持って来てくださったり、花に水やりをしたり、シーツの交換をしたり……。ナタリー様がうっかり割られた食器類は計22。それを片付けるのは当然他の業務がある召使達ですし、季節によって水やりの仕方を変えなければならない花を水浸しにし、景観を損なって頂いたりもしました。シーツに至っては運ぶ際に頭まで積み上がるほど一気にお持ちになられ、ファンデーションや口紅などの余計な汚れを付着させてくれました。よいしょよいしょと言いながらシーツを運ぶナタリー様を見た奥様方は、その様子に随分感心してらっしゃいましたね」
「そ、それは……」
「………っ、ぅう…」
「私達がどんなに結構ですとお伝えしても、ナタリー様はそれらを辞めず、私達は最近ではやらなくても良い業務ばかりをやっています。その上奥様達ご家族に関わらないような雑事は一切なさいません。賃上げもなく過度の労働を強いられ、掃除婦達は疲弊しておりますわ」
寄り添い合う父と母が、互いを慰めるようにより肩を窄めた。
「……………私達は本当に、何も分かっていなかったのだな」
「それだけではありません!」
声のした方に目を向けると、そこにはまだ年若い執事達が揃っていた。心なしか眉を釣り上げた不機嫌そうな様子は、普段ならば決して見ることの無い姿である。
「ナタリー様はアルフレッド様がいるにも関わらず、若い執事を執拗に部屋に入れたがり、寝所の共寝を提案されたこともございます」
「勿論皆断っておりましたが、ナタリー様のお立場を考えれば強く反発できるわけもありません。何度断っても業務を妨げられ、そのような行いをされた者は精神的な疲弊が溜まってきます」
「しかも、ナタリー様は特に年若い連中に性的な揶揄や下品な言動を見せ、一部は本当に参っております」
「私達からも宜しいですか?」
まだあるのか、と言わんばかりの顔で父が振り返った。疲労感の滲んだ顔はなんだかこの短時間だけで何歳も歳を取ったような老け具合であり、それについては母も同様である。
控えめに手を上げたのは庶民出身の下級メイド達であった。
前に出て来たのは茶色い髪のモラナで、彼女はよくソフィアの髪結をしてくれる娘だ。
「ナタリー様は、私達がやるような日陰者の業務に支障をきたす事は無いのですが、その代わりと言って良いのか差別的な発言や態度が本当に酷いのです」
「私達のことを動物か何かと思っておいでなのか、とてもお耳には入れられないようなことも平気で仰います」
「それに私達、何度かナタリー様がソフィア様の部屋に勝手に入っているのも見ています」
「ソフィア様に水をわざとかけたところを見た庭師もおります!」
他よりも人数が多いためか、次から次へと繋ぐように言葉が上がって来た。
見ている人がいるとは思わなかった、というよりも、貴族特有の価値観から使用人をオブジェか何かだと思っているナタリーやソフィアは、口無しの彼らがこうして告発に参加して来たことがまず意外だった。
ナタリーはそれに対する驕りもあったのだろう。どうせ何も言えないと思って、随分好き勝手したようだった。
「なぜそれをもっと早く私に報告しなかったのだ…?」
「旦那様や奥方様には、何度かそれとなくお伝えしております。ナタリー様のお心遣いはありがたいものですが、却って業務が滞ることも多く遠慮していただきたい、と」
掃除婦長は毅然とした態度でそう言ったが、他の使用人は違うようだった。
「報告なんてできるはずもありません!オシドリ夫婦のように仲睦まじいお二人を引き裂く下賤者として解雇になる恐れもあるし、最近まで何人にも粉をかけているとは知りませんでしたから、余計に言えませんでした」
「私達も勿論そうです。下級メイドはそもそも旦那様と会う機会がございませんし、仮にお伝えしたところで信じてくださる可能性よりも無礼者と断じられる危険が大きいのに、せっかくの職を捨ててまでの発言には勇気がいりますわ」
「そんな事するわけが、」
「無いと言うのですか?お父様」
そう言って前に出て来たのは、掃除婦長のエリーだった。
「奥様方は、ナタリー様が雑事をこなしていることをよく褒めていらっしゃいましたね。
例えば、使用人が下げるべき食器を洗い場までわざわざ持って来てくださったり、花に水やりをしたり、シーツの交換をしたり……。ナタリー様がうっかり割られた食器類は計22。それを片付けるのは当然他の業務がある召使達ですし、季節によって水やりの仕方を変えなければならない花を水浸しにし、景観を損なって頂いたりもしました。シーツに至っては運ぶ際に頭まで積み上がるほど一気にお持ちになられ、ファンデーションや口紅などの余計な汚れを付着させてくれました。よいしょよいしょと言いながらシーツを運ぶナタリー様を見た奥様方は、その様子に随分感心してらっしゃいましたね」
「そ、それは……」
「………っ、ぅう…」
「私達がどんなに結構ですとお伝えしても、ナタリー様はそれらを辞めず、私達は最近ではやらなくても良い業務ばかりをやっています。その上奥様達ご家族に関わらないような雑事は一切なさいません。賃上げもなく過度の労働を強いられ、掃除婦達は疲弊しておりますわ」
寄り添い合う父と母が、互いを慰めるようにより肩を窄めた。
「……………私達は本当に、何も分かっていなかったのだな」
「それだけではありません!」
声のした方に目を向けると、そこにはまだ年若い執事達が揃っていた。心なしか眉を釣り上げた不機嫌そうな様子は、普段ならば決して見ることの無い姿である。
「ナタリー様はアルフレッド様がいるにも関わらず、若い執事を執拗に部屋に入れたがり、寝所の共寝を提案されたこともございます」
「勿論皆断っておりましたが、ナタリー様のお立場を考えれば強く反発できるわけもありません。何度断っても業務を妨げられ、そのような行いをされた者は精神的な疲弊が溜まってきます」
「しかも、ナタリー様は特に年若い連中に性的な揶揄や下品な言動を見せ、一部は本当に参っております」
「私達からも宜しいですか?」
まだあるのか、と言わんばかりの顔で父が振り返った。疲労感の滲んだ顔はなんだかこの短時間だけで何歳も歳を取ったような老け具合であり、それについては母も同様である。
控えめに手を上げたのは庶民出身の下級メイド達であった。
前に出て来たのは茶色い髪のモラナで、彼女はよくソフィアの髪結をしてくれる娘だ。
「ナタリー様は、私達がやるような日陰者の業務に支障をきたす事は無いのですが、その代わりと言って良いのか差別的な発言や態度が本当に酷いのです」
「私達のことを動物か何かと思っておいでなのか、とてもお耳には入れられないようなことも平気で仰います」
「それに私達、何度かナタリー様がソフィア様の部屋に勝手に入っているのも見ています」
「ソフィア様に水をわざとかけたところを見た庭師もおります!」
他よりも人数が多いためか、次から次へと繋ぐように言葉が上がって来た。
見ている人がいるとは思わなかった、というよりも、貴族特有の価値観から使用人をオブジェか何かだと思っているナタリーやソフィアは、口無しの彼らがこうして告発に参加して来たことがまず意外だった。
ナタリーはそれに対する驕りもあったのだろう。どうせ何も言えないと思って、随分好き勝手したようだった。
「なぜそれをもっと早く私に報告しなかったのだ…?」
「旦那様や奥方様には、何度かそれとなくお伝えしております。ナタリー様のお心遣いはありがたいものですが、却って業務が滞ることも多く遠慮していただきたい、と」
掃除婦長は毅然とした態度でそう言ったが、他の使用人は違うようだった。
「報告なんてできるはずもありません!オシドリ夫婦のように仲睦まじいお二人を引き裂く下賤者として解雇になる恐れもあるし、最近まで何人にも粉をかけているとは知りませんでしたから、余計に言えませんでした」
「私達も勿論そうです。下級メイドはそもそも旦那様と会う機会がございませんし、仮にお伝えしたところで信じてくださる可能性よりも無礼者と断じられる危険が大きいのに、せっかくの職を捨ててまでの発言には勇気がいりますわ」
「そんな事するわけが、」
「無いと言うのですか?お父様」
2,021
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